インド、日々35度台に、感染拡大も英字紙はコロナ記事3面扱い(61)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年3月16日】3月に入り、インドはすでに初夏の様相、例年に比べ、気温上昇が急激で、日中は30度半ばになる地域も出始め、当地プリー(Puri)も日増しに暑くなって、午後は冷房オンの日が続いている。朝晩はまだ涼しめなのだが、昼の日差しはきつい。

3月1日から3日までの英字紙で、興味をひいたトップ3は、欧米に比べ、インドのコロナ禍が最悪を免れた理由を、伝染病蔓延下の免疫体質と若い人口構成、不正確な過少見積もりデータ等にあげていた記事と、東京五輪開催の可能性についてのコラム、米国のトランプ前大統領とQアノン(米国の陰謀論集団)にまつわる特別寄稿だった(写真は「The New Indian Express」紙)。

新型コロナ感染状況は、西部マハラシュトラ(Maharashtra、累計218万人、新規9855人と1万人近い急増、実質14万人、死者5万2280人)、南部ケララ(Kerala、累計107万人、実質5万人、新規2765人と減少傾向、死者4241人)ほか10州でのぶり返しが懸念されるが、全体としての新規数は1万7407人といまに1万人台を維持、ただし、今後の推移を見ないとなんとも言えず、予断を許さない状況だ(全土の累計数1120万人、回復者1080万人、死者15万7000人)。

当オディシャ州(Odisha)は、ぶり返し中の12州(マハラシュトラ、マディヤプラデシュ、=Madhya Pradesh、パンジャブ=Punjab、チャティスガール=Chhattisgarh、テランガナ=Telangana、タミルナドゥ=Tamil Nadu、ケララ=Kerala、チャンディガール<連邦直轄領>=Chandigarh、西ベンガル=West Bengal、デリー=Delhi、カルナータカ=Karnataka、アンドラプラデシュ=Andhra Pradesh)からの入域者には、空港でのPCR検査を義務付け、陰性でも1週間の自主隔離要請、つとに警戒している。

首都デリーや西ベンガル州が要請する陰性証明ではなく、空港検疫にしたのは、証明書を金で買ってずるをするインド人が少なくないので、賢明だ。

さて、前置きが長くなったが、今回は少し趣向を変えて、インドの英字紙を通して見る現地のパンデミック、並びに政治・経済、ローカル情報をお送りしたい。

ロックダウン(都市封鎖)で配達が中断していた英字紙、「The Times of India(ザ・タイムズ・オブ・インディア)」が11カ月ぶりに再開、久々に紙メディアで、インド全体としての時事・経済ニュースや、世界情勢、中1面でローカルニュースをチェックできたからだ。

3月2日のトップ記事は、モディ(Narendra Modi)首相が前日、ワクチン接種した巻頭写真、並びに、脇に当オディシャ州のナビーン・パトナイク(Naveen Patnaik)首相が接種を受けている写真が飾った。指導者自らが接種して、国産ワクチン「コバキシン(Covaxin)」の安全性をアピールする意図だろう。ちなみに、1月16日に始まったワクチン接種は3月4日現在、全土で1500万回以上に達した。

コビッド(Covid)関連ニュースに割かれている紙面はこの3日間で半ページから、多いときで1ページ、感染爆発中は毎日トップを大見出しで飾っていたことと推測するが、昨年9月末にピークを迎え、現在までの5カ月で急減したことから、ワクチン関連記事を除いては、ほかの時事ニュースと変わらない扱いで、新規数増のニュースは1番最後の面だった。

あとは、3月27日に始まる西ベンガル州議会選挙関連ニュースや、世界情勢では、ミャンマー(Myanmar)のクーデター下の抗議運動弾圧などが目立ったところだ。

気になる経済だが、パンデミック下のマイナス情報はほとんどなく、公共交通機関での感染リスクを恐れて乗用車の2月の売り上げが伸びたとか(スズキ8.3%増)、物品・サービス税(GST、日本の消費税のようなもの)の2月の徴収分が前年比7%増(11万3143クロール=約1兆5840億円)など。

ほかに、4Gのスペクトラム(周波数)オークションで、国内最優良企業のリライアンス・インダストリーズ(Reliance Industries Limited、石油化学が主体だが、多業種展開、モバイル通信業のリライアンスJioは国内2位のシェアを誇る)への売却で財源が潤った(5万7122クロール=約8000億円)、コロナバブルでムンバイ証券取引所の株価が急騰するも(4日時点で5万0846ポイント)乱高下の激しい株情勢など。

長かったロックダウンで、失業率がアップしているはずだし、底辺層は相当困窮しているはずなのだが、そうした実態は上っ面を撫で過ぎただけの紙面からは、見えてこない。いうまでもなく、観光産業は大打撃を食らっているはずなのだが、ホテル・レストラン業界の苦境も見えてこない。

もしかして、これまでの期間、日雇い労働者の失職始め、貧窮を舐めさせられた下層クラス、観光産業大打撃等の記事は頻繁に取り上げられたのかもしれないが、最近3日間の紙面では、言論統制が敷かれているのではないかと邪推するほど(モディ政権下ではあり)、経済失速や、底辺層が苦渋を舐めているとの記事は皆無で、やや拍子抜け。

基調としては、パンデミック(世界的大流行)にもかかわらず、行け行けムード、欧米に比べると最悪を免れ、鎮静化した現在に、楽観ムードで、一部の地域でのぶり返しは、変異種よりも、人々のルール違反や、鎮静後の全土的に高まる挙式需要における大人数の集会を主因とする記事が掲載されていた(私見では、マハラシュトラの急再拡大はどうもきな臭く、感染力の強い変異種の仕業ではないかと疑っているが、そうでないことを祈るのみだ)。

長期間の購読中断を余儀なくされ、もっぱら動画ニュース漬けだった私は、細かい文字を読むのも辛くなってきたし、これを機に止めようかなとの思いも兆したが、やはり新聞には新聞のよさもある。

全体のニュースを見るには便利だし、大局が短時間で掴める。今しばらく取り続けてみようかと、翻意、朝の時間帯は以前通り、コーヒを飲みながら英字紙に目を通すことになりそうだ。

蛇足ながら、私の周りで、人々と接して、パンデミック下のハードシップが体感できた例を最後にいくつか掲げておく。

●以前雇っていたスタッフに、散歩の途上、呼び止められ、再雇用を拝まれた。自転車にまたがった風情は、痩せて無精髭面だった。夫が生存中、客引きとして雇い入れていただけに、無下に断ることもできず、しばらく待つようにと気休めを言うしかなかった。

●旅行者時代から知己のゲストハウスオーナーと浜で何年かぶりに再会、痩せて白髪頭の老爺になっていたことにびっくりした。一昔前は、界隈を牛耳るパワーを持っていたのに、落ちぶれた風情だった。

●南インドの都会バンガロールで、ヨガインストラクターとして出稼ぎに行っていたなじみのヨガ教師が月給3万ルピー(約4万2000円、イントの物価は日本の3分1から4分の1)の職を失い、オンライン教室を展開中だが、収入減。

●2台の車でタクシードライバーをしている元「ホテル・ラブ&ライフ」のマネージャーが久しぶりに訪ねてきて、パンデミック下の減収で、長男の教育費が重荷なので、タクシーが入用の旅客を回してくれるよう頼んでいった。

●日本人ゆかりの近くのホテルのオーナーが、建物を売却したがっているとの、噂を聞いた。

〇極私的動画レビュー/ドラマ「もう誰も愛さない」

次から次へと速いペースで、ストーリーが展開するドラマ、息もつかせぬクライムサスペンスを見た。超面白く、無我夢中で鑑賞したドラマは、「もう誰も愛さない」。1990年フジテレビの木曜劇場枠で全12回にわたって放映されたもので、主演は吉田栄作、ヒロインは田中美奈子と山口智子がライバル役で拮抗するが、清楚で可憐な乙女の前半から、あっと驚く悪女に転身する熱演が目を惹き付けて離さない山口智子がすごい。

あと、ベテランの脇役、伊武雅刀がぴか一、辰巳琢郎も熱演だ。サブヒロインだが、伊藤かずえもいい。

とにかく、登場人物が次々と殺されていく(ヒロインの1人は病死)終盤が凄まじい。ほぼ全滅で唖然とさせられる。推理小説などでも、人が次々と簡単に殺される設定があるが、ドラマで主な登場人物が全滅は異色、それも結構、残酷な殺され方をするわけで、今なら引っかかるんじゃなかろうか(過激なシーンは再放送ではカットされることもあるとか)。

ウィキペディアで調べてみると、当時ジェットコースタードラマという異名で、話題になったようだ。とにかく展開が目まぐるしく、1回でも見逃すと、筋書きがわからなくなることから、毎回見逃せないハラハラドキドキ、手に汗握る面白さなので、ハマった人も多かったろう。

主人物のほぼ全員が悪役というのも、アンチヒーローの設定で飽きさせず、主人公がここまであくどいなんてと、目を剥かされ、視聴者を釘付けにする。

ドラマの名に値するまさにドラマチックさ、劇的に運命に弄ばれる人物たちが繰り広げる錯綜した人間模様、愛とカネの絡んだ復讐劇は超お薦め。生ぬるいホームドラマの対極に位置する、一瞬たりとも退屈させない、興奮満点のスリリングなドラマである。

編集注:「The Times of India(ザ・タイムズ・オブ・インディア)」はウイキペディアによると、インドの日刊の英字新聞で、英字新聞としての発行数は世界最多で、2011年時点で世界の新聞発行数4位の343万3000部としている。

1838年11月3日にThe Bombay Times and Journal of Commerce(ザ・ボンベイ・タイムス・アンド・ジャーナル・オブ・コマース)として発行され、1850年からは日刊紙、1859年に他の2つの紙と「Bombay Times and Standard(ボンベイ・タイムズ・アンド・スタンダード)」に統合され、1861年に現在の名称となった。

当初は毎週土曜日と隔週の水曜日に発行され、19世紀には800人以上の従業員が英国人経営者に雇われ、ヨーロッパやアメリカ大陸、インド亜大陸との間を汽船によって流通していた。

1947年のインドの独立後、インド人に経営が移り、現在はベネット・コールマン社(Bennett Coleman&Co、ザ・タイムズ・グループ)により所有されている。

同社はまたThe Economic Times(エコノミック・タイムズ)、 Mumbai Mirror(ムンバイ・ミラー)、Navbharat Times(ナバラート・タイムズ、ヒンディー語) Maharashtra Times(マハラシュトラ・タイムズ、マラーティー語)を発行している。2007年1月からはバンガロールでカンナダ語版が発行されている。

本社はニューデリーにあり、インドの各地において個別のエディションがある。また、朝日新聞と提携している。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年3月15日現在、世界の感染者数は1億1987万4650人、死亡者数が265万3644人、回復者が6789万5983人です。インドは感染者数が1135万9048人、死亡者数が15万8725人、回復者が1100万7352人、アメリカ、ブラジルに次いで3位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は2943万8222人、死亡者数が53万4880人(回復者は未公表)、ブラジルの感染者数は1148万3370人、死亡者数が27万8229人、回復者数が1011万3487人です。日本は感染者数が44万8624人、死亡者数が8607人、回復者が42万6322人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。編集注は筆者と関係ありません)。