インド、1日の感染者、過去最多の10万超、ホテル再建を決意(64)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年4月16日】4月5日の統計で、ついに、インド全土の1日当たりの新規感染者数が10万人を突破した(10万4000人、累計1260万人、実質数1170万人、死者数16万5000人)。これは、去年9月半ばのピーク時の9万7894人を凌ぐ最多記録で(2月の低水準のゆうに12倍)、政府は警戒を強め、ワクチン接種を加速化させている。

浜にはときたま、亀の死骸が打ち上げられる。プリーから238キロ離れたガイルマタビーチには、南米から遥々(はるばる)野生保護動物品種の亀、オリーブリドレーが産卵にやってくる。

最悪州のマハラシュトラ(Maharashtra)は新規感染者数5万人超(5万7074人、累計301万人、死者数5万5878人)と、全土の半分以上を占め、病床逼迫の緊急事態下にある。累計数順位の2位以下は、ケララ(Kerala、新規2802人、累計114万人)、カルナータカ(Karnataka、新規4553人、累計102万人、インドの100万人超都市No.3)、アンドラプラデシュ(Andhra Pradesh、新規1730人、累計90万8000人)、タミルナドゥ(Tamil Nadu、新規数3581人、累計90万人)と変わらない。

ほかに新規感染者数が増えている州には、首都デリー(Delhi、新規4033人、累計67万6000人)、ウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh、新規4136人、累計63万人)、パンジャブ(Punjab、新規3006人、累計25万1000人)、チャティスガール(Chhattisgarh、新規5250人、累計36万9000人)、グジャラート(Gujarat、新規2875人、累計31万8000人)、マドゥヤプラデシュ(Madhya Pradesh、新規3178人、累計30万8000人)などがあり、パンジャブ州の陽性者の8割が変異株で、短期の急再拡大の一因に挙げられている。

マハラシュトラ州は、感染再爆発を受けて、夜間外出禁止令の発布と、セミロックダウン(都市封鎖)、経済への配慮から当座完全封鎖は避ける方策に出、ワクチン接種を加速化させている。

1月16日のワクチン開始と大幅な制限緩和以降、全土的に警戒が甚だしく緩み、マスク着用やソーシャルディスタンスが守られなくなったことも、再拡大に拍車をかけたことはいうまでもない。

薄紫の夕もやに包まれるベンガル海。

累計数で全国9位の当オディシャ州(Odisha)でも、日増しに感染者数が増えており(累計34万3000人、新規471人)、特に急増している10地方に4月5日から夜間外出禁止令が敷かれた。

レッドゾーンのチャティスガール州とのボーダー地帯、州境西部で急増しており、この地域の当局は結婚式を100人限定にし、会食はテイクアウトの指令を出した。

州政府は、今後の推移次第では、夜間にとどまらず、日中封鎖も示唆しているが、当地プリー(Puri)では、若干マスク顔が増えたくらいで、依然マスクなしが圧倒的多数、ソーシャルディスタンスはほとんど守られていない。

これだけ緩みっぱなしだと、急増必至、昨年の移民労働者帰省の悪夢が繰り返されそうである。主に私立のカレッジ以上の教育機関でクラスター(集団感染)が頻発、しかし、教育担当相は、公立校に感染者が出ていないことを理由に休校には踏み切っていない。

世界的に見ても、下火になりつつあるアメリカ(新規3万6670人、累計3070万人、死者数55万5000人)、ブラジル(新規3万1359人、累計1300万人、死者数33万1000人)の新規感染者数が3万人台なのに比べると、3倍のインドは、新規数でワーストをマーク、このまま推移すれば、またしてもブラジルを抜いて2位に躍り出てしまいそうだ。

ただ、新規の死者数は478人で、アメリカの277人より多いが、ブラジルの1240人の約3分の1と、人口比率から見た全体の致死率は依然低い。

第2波は最速で再拡大していることから、全土の新規数が今後、どこまで伸びるのか、考えただけでも空恐ろしい。

昨年の全土完全封鎖があまり効果を発揮しなかった経験から、経済をストップせずに、感染を抑えるにはワクチンに頼るしかなく、今現在7700万回まで達したが、13億5000万人という膨大な人口からいうと、わずか5.7%である。

当州(人口4600万人)も4月1日から、45歳以上の州民への接種を促進しているが、1日20万回の目標ペースには追いつかず、ワクチン不足が浮上している。

第2波の感染爆発で、インドもまずは自国優先、ワクチン生産大国のリーダーとしての、今後の周辺国への供与計画にも支障を来たしそうだ。

〇身辺こぼれ話/ホテル再建に向けて

コロナ勃発から1年余、私が32年経営する現地ホテル(Love&Life、オディシャ州プリー)の客足も少しずつ伸びて、経費の8割方は部屋代から賄えるようになった。しかし、第2波がどこまで広がるかによって、せっかく戻りつつある客足がまた鈍り出すこともありそうだ。

プリーに幸いしたことには、外国人観光客に頼っているのではなく、有名なヒンドゥ教の聖地のため、ローカルの巡礼旅行者が引きもきらず、訪れるということだ。家族連れも多く、参拝を兼ねて海辺のリゾートムードを楽しみたい向きには、もってこい。

州政府は、ヘリテッジタウン(遺産の町)としての大掛かりな発展計画を進めているため、観光地としてのポテンシャルは高い。国際空港も後年、整備される予定で、グローバルなヘリテッジタウンとしても、注目されるようになるかもしれない。

老朽化した建物を徐々に改築し、アフターコロナのポテンシャルに賭けたい。まだ第2波中で状況静観、大きな動きはできないが、タイミングを見てやれるところから少しずつ進めていきたい。息子もやる気満々、音楽の仕事(ラップスター)と両立させるとの意思表示をしている。若い力の助けを借りて、再建へと乗り出したい。

〇極私的動画レビュー/火曜サスペンス劇場

私がインドに移住したのは1987年4月、それまでは日本に滞在したので、動画で往年のドラマを鑑賞できるようになったのは、懐かしく、楽しい。火曜サスペンス劇場(1981年から2005年まで日本テレビ系列の2時間もの)は、福井の実家にいた頃、よく観ていた記憶がある。主題歌が岩崎宏美の「マドンナ(聖母)たちのララバイ」で、ドラマ中に挿入されるこの情感たっぷりのテーマ曲が、ムードを昂めてくれたことを思い出す。

移住以降も、このシリーズは続いていたようで(2005年まで)、今回ご紹介するのは、「あなたから逃れられない」(1986年、原作小池真理子)。

ドラマ自体はどうってことなく、出演者で特筆に値するのは、映画「19歳の地図」(1979年柳町光男監督、中上健次原作)で主役に抜擢され脚光を浴びた元暴走族の新人、本間優二(10年後の1989年に引退)がクールな若い愛人役で出ていることくらい(年上の人妻、大人の洒落た女を演じるのは佐藤友美ではまり役)。

では、なぜこの欄に取り挙げるのかというと、原作者の小池真理子と、そのパートナー、藤田宜永(ふじた・よしなが、1950-2020)がそろってゲスト出演していたからである。

パーティーシーンで、列席者カップルという役回り、主宰者の仲谷昇が2人にあいさつするだけのものの数十秒の場面たったが、貴重な映像で釘付けになった。

受け答えするのは、小池真理子のみ、傍らに寄り添った藤田宜永は無言でグラスを傾けるだけ、それでもサングラスがトレードマークの若き日の氏は、今は亡き人だけに、万感の思いを込めて、見つめずにはおれなかった。

氏とは遠縁にあたり、後年、叔父の仲介で面談させて頂いたこともあった。拙著の帯に推薦文を書いて頂いたこともあり、年に数度手紙やメールを交わす間柄だった。

私淑していた作家の逝去(2020年1月30日)は、哀しかった。たまたま夫が急死して2カ月後だったこともあり、二重のショックだった。まだ30代と思われる、画面の中の若き日の氏に、改めて懐旧の念を募らせた。

本題に戻ると、この手の筋書きは、映像より原作(「あなたから逃れられない」小池真理子、1985年集英社)を読んだ方が面白いのではないかと思い、Amazonを当たってみると、読者のレビュー欄に興味を引く一文があった。

解説を森瑶子(1940-1993)が書いており、「この作家が何故、エロスやセクシャルな描写を避けるのかわからない、それがあればもっと大人の読み物になったろうに」と、歯に衣着せず、述べていたらしいこと。

森瑶子の慧眼というか、以降、小池作品にはエロスが加わり、官能的で美しい作品を産出、後年の直木賞受賞にも、繋がるのである。

個人的には、「青山娼館」(角川文庫2006年)が好きである。小池といつもセットで語られた藤田の一押し作品は、「愛さずにはいられない」(集英社、2003年)。それにもうひとつ、晩年の集大成、「奈緒と私の楽園」(文藝春秋2017年)。

前書は母との確執や若き日の恋愛を描いた青春自伝小説(郷里福井と東京が舞台)、後書は、谷崎潤一郎賞を受賞してもおかしくなかった、恋愛小説作家の真骨頂、面目躍如たる秀逸作、感想をお送り申し上げたら、ひじょうに喜んで下さり、この作品は僕にしか書けないと、誇らしげにおっしゃられたことが、今も強い印象に残っている。

何となく、吉行淳之介の官能的な作品を彷彿させ、そう申し上げたことへの、鮮やかな切り返しだった。10代から女性遍歴を重ねてきた氏でなければ、確かに書けない作品、中年男が若い女性によって幼児帰りしていく恋愛純文学は、超お薦めである。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年4月8日現在、世界の感染者数は1億3325万0442人、死亡者数が289万0706人、回復者が7576万0641人です。インドは感染者数が1292万8574人、死亡者数が16万6862人、回復者が1185万1393人、アメリカ、ブラジルに次いで3位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3092万2386人、死亡者数が55万9116人(回復者は未公表)、ブラジルの感染者数は1319万3205人、死亡者数が34万0776人、回復者数が1159万2159人です。日本は感染者数が49万7602人、死亡者数が9351人、回復者が45万7709人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。編集注は筆者と関係ありません)。