インド、新規25万超も回復率高く、危惧される山車祭近づく(71)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年6月11日】5月22日現在、インドのメガ第2波はようやく勢力を弱めつつあり、西部や内陸部の都市部で軒並み新規数が減少、回復者数が大幅に上回った。

親子4人が観光用のラクダに乗って、プリーの浜を散策するのどかな光景を見なくなって久しい。コロナ前の平和が戻ってくるのはいつか(写真は2016年大晦日)。

最悪のマハラシュトラ州(Maharashtra)を見ると、新規数2万9644人(ピーク時の半減)、回復者数が4万4493人と上回り(累計553万人中、回復者507万人)、死者8万6618人(新規死者1263人)である。

新規数でワーストは南部カルナータカ州(Karnataka)で、3万2218人とマハラシュトラを凌駕、ただし回復者数が5万2581人と上回り(累計237万人中、回復者数183万人)、死者数が2420人(新規死者353人)である。

第1波と顕著な相違は、最速で急増し、ピークから3週間後には減少し始め、回復率が高いことである。第1波時は、マハラシュトラ州の回復率がもっとも低く、がゆえに、収束に向かってはいても、実質数が最低でも9万人台となかなかこのラインを割らず、回復するのがのろいなぁといらつくほどだった。

レッドゾーン他州が、実質1万人から3万人台と減退しても、マハラシュトラだけは、9万人以下に減らなかったのである。

第1波は、早々と全土ロックダウン(都市封鎖)に入ったせいで、増加ペースがのろかったとも言え、時間稼ぎしてその間に征伐体制を整えたということになるのだが。

今回のTSUNAMI(ツナミ)級第2波に関しては、封鎖は州ごとの判断に任せられたとはいえ、一部を除いてほぼ全土ロックダウンに等しく、急激に爆発して、早期に引いたのは、ワクチン不足で接種が遅々と進まない現状を見ると(現時点で1回のみ1億4600万人超、10.7%)、ロックダウン効果としか思われない。

インドのロックダウンは、日本の緊急事態宣言のように骨抜きでなく、厳格で表は人気がなく、がらんとし、たまさか生活必需品の買い出しに出る人くらいで、それも午前中のみに限られる。人流が途絶えれば、自ずと感染者は減る。

当州のロックダウンは6月1日まで延長、恐らくなし崩し的に続いていくのだろう。新規数が半減したら、禁足自主解除、美しい浜の黄昏光景を堪能したい(写真は2016年7月)。

変異株の性質にもよるのだろうか、最速で流行、速いスパンで引くという特徴は、第1波と如実に異なるものだ。ただし、死者は新規数4000人超と急増、致死率の低さを誇っていた第1波時と一転、短期に10万人アップと、今は累計30万人に達する勢いである。

正確に言うど、純粋な感染死者だけでなく、酸素欠乏や病床不足による死者も加わり、ムコール症(糖尿病の既往歴のある患者に発症する黒真菌症、コロナ治療に使われるステロイドが原因とも)による死者も増えているから、数字が加算されるということだが。

第1波時からデータの過少見積もり疑惑はあったが、今回はそれが顕著になり、実数は2倍、3倍とも言われている。

ちなみに、首都デリー準州(Delhi)だが、急激な減退の最適例で、新規数3009人(回復7288人、累計141万人中、回復135万人)、死者2万2831人(新規死者252人)である。ついひと月前まで、酸素不足でバタバタ患者が息絶え、パニックに陥っていた、地獄のキャピタルとは到底信じ難い。

死の淵から生還した重症患者の体験談が英字紙に掲載されており、パニック状態だった周りの患者は皆、帰らぬ人となったと述べていたのが興味深かった。ご本人はパニックに陥らず、冷静だったらしい。やはり、精神状態もその人のサバイバル能力に大きな影響を及ぼすのだと思う。

しかし、普通の人なら、やはり感染したとなると、慌てるし、落ち込むし、呼吸困難に陥ったら、泡食うだろう。ましてや、酸素不足はおろか、入院不可となったら、不安と恐れで病状悪化、ちょっとした息切れが命取りになりかねない。

というわけで、医療崩壊でパニックに陥っていた都市部は、いまだ予断は許さぬとはいえ、やや息をついているわけだが、東部では、当オディシャ州(Odisha)は新規1万2000人超と、西ベンガル州の新規1万9000人超に次いで多く、1万人のラインを割らず、憂慮される。田舎州ではダントツに多く、まだピークに達していないようである。

州西部の村落地帯や、奥地の原住民エリアまで蔓延しており、累計数は66万人突破、実質数が10万人超、ただし死者は2400人超といまだ国内一の低率だ。6月初旬から雨季に入ると、移民労働者の帰省殺到が予想され、第1波の二の舞の拡大の危惧がある。

7月12日には、山車祭を控えており、既に山車の制作は始まっているが、それまでに第2波を制御しないと、開催そのものが危うくなる。いずれにしろ、第1波時同様の無観客祭になることは間違いない。

まぁ、こんな非常時にもかかわらず、今年も敢行しようという強引さには呆れ返るが、ヒンドゥ教の4大聖地の面目躍如たるところ、この著名な大祭は一旦キャンセルされると、12年間開催できないというのだから、州政府としても、感染対策万全に意地でも敢行したいところだろう。政権維持にも関わる最重要宗教的伝統行事なのである。

インド全土の累計感染者数は2630万人(実質320万人、新規感染25万7000人、死者29万6000人、新規死者4191人)、このまま推移すれば、1位のアメリカ(累計3310万人)を抜いてしまいそうである。文字通りの世界ワースト、第1波でかろうじて免れ得た王座に不名誉の逆転だ。

〇身辺こぼれ話/サイクロン警報発出

今年も、サイクロンの季節がやってきた。さる5月14日から17日、第1波がアラビア海を直撃、マハラシュトラ・グジャラート州(Gujarat)に甚大な被害を及ぼしたばかりだ。
西海岸のみでは飽き足らず、次は東海岸というわけで、26日頃西ベンガル州(West Bengal)とオディシャ州の海岸地帯に上陸の警報が出ている。

昨年5月も、ロックダウンとサイクロンのダブル攻撃、幸いにも、嵐はそうひどくなくてほっとしたのだが。

その前年2019年のサイクロンが前代未聞規模の壊滅的スーパー級、今年はと、戦々恐々、食料備蓄や窓密閉などの防備に追われるこの頃だ。

☆極私的動画レビュー/田村正和追悼ドラマにふける

18日、人気俳優の田村正和(1943-2021)が4月3日に他界していたことが明らかになった。好きな俳優だったので、やはりショックだった。

以来、正和主演ドラマで、見逃したものはないかと漁っていたが、遅ればせながら、「古畑任三郎」第1話(1994年)を観た。ゲストの犯人役は中森明菜だったが、1回目はこんなものかと、少し物足りなさが残った。

ちょうどアップされていた追悼ドラマ、「復讐法廷」(2015年)や、「眠狂四郎」最終編(2018年)も観たが、晩年の作品で、いささか覇気がない。三島由紀夫(1925-1970)原作の「鹿鳴館」(2008年)は、コンビ役の黒木瞳共に熱演、大御所の面目躍如たるところ、が、私個人は、彼の真骨頂は、正統派の恋愛ドラマにあると思っている。

当レビュー欄でも紹介した「過ぎし日のセレナーデ」(1989年)、「美しい人」(1999年)、「協奏曲」(1996年)、「じんべえ」(1998年)、どれもよかった。ご本人もラブストーリーが好きで、中でも自作の「ニューヨーク恋物語」(1988年)は、お気に入りだという(ニューヨークが好きらしい)。

残念ながら、YouTube(ユーチューブ)にまだアップされていない。細切れ版を観たが、最終回の正和が恋人役の岸本加世子の髪をバルコニーで、洗ってあげるシーンが話題になったとあった。うーん、全編観たい。追悼の期間限定でいいから、誰かアップしてくれないだろうか。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年6月8日現在、世界の感染者数は1億7363万9206人、死者は373万7447人、回復者数は1億1158万7115人です。インドは感染者数が2899万6473人、死亡者数が35万1309人、回復者が2734万1462人、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3337万8096人、死亡者数が59万7952人(回復者は未公表)、ブラジルの感染者数は1698万4218人、死亡者数が47万4414人、回復者数が1501万9797人です。日本は感染者数が75万5204人、死亡者数が1万3748人、回復者が71万0430人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックタウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。