インド、新規4万人台へ、プリー名物の山車祭、無観客開催(75)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年7月27日】7月も早10日を過ぎ、当ヒンドゥ聖地プリー(Puri)の名物大祭、ラト・ヤートラ(Ratha Yatra、山車祭)の開催が2日後に迫った。ジャガンナート(Jagannath)主神を筆頭とする三位一体神の偶像が各山車に祀られ、御所であるジャガンナート・テンプルから、3キロ離れた誕生寺グンディチャ(Gundicha)テンプルまで、信徒の手によって、1台ずつ引かれていく宗教的伝統行事だ。

手足のない黒い御神体に、丸い大目玉というユーモラスな風采のジャガンナート神。ユニバース・ロード(宇宙の主)は、平等主義を標榜し、化身のひとつがブッタ、オリジンは原住民が崇めていた土着神に由来する。

巨大な山車3台は既に完成し、門前通りのグランドロードで本番を待ち構えている。が、パンデミック(世界的大流行)下、昨年に引き続き無観客だ。今年は第2波の余波でさらに規制が厳しくなり、バザール周辺に住居のある州民ですら、バルコニーやルーフから観覧することは禁止である。おまけに、メイン開催地プリーのみに限って催行可、例年なら各地で小規模の模倣祭が行われたのだが、今年は最高裁の介入で禁止になったのである。

参加者は僧徒や警官ほか関係者3000数百名、山車に乗ったり引いたりする僧徒は全員陰性証明必須、ひと月も前からホテルでの隔離生活を強いられた。無論、要人はみなワクチン接種済みである。山車作りに携わった大工衆、工芸師も然り。かくも厳戒な体制のもと、2年目の無観客祭に漕ぎ着けたわけた。

2019年までは、毎年恒例のこの大祭に全土はいうまでもなく、世界各国から巡礼旅行者や観光客が何10万人と押し寄せたものだが、2年連続の無観客祭を余儀なくされる顛末となった。立錐の余地もない人波で溢れるおなじみの、熱気と陶酔に沸き返る光景は今年も見ることはできない。ただ、6月初旬から雨季に入っているものの、雨量が少なく、お天気には祟られずに済みそうだ。州民は残念ながら、今年もテレビかネット中継で観覧と、バーチャルで我慢を強いられることになる。

かく言う当オディシャ州(Odisha)の本日10日付けの新規感染者数は3000人以下(2806人)と減少の一途をたどっているが(累計93万5000人、実質2万8000人)、死者の新規数は61人で累計4476人と増大中(黒カビ症併発死増)、記載漏れもあったようで、州政府は野党の槍玉に上がっている。

東インド・オディシャ州の聖地プリーにある名高い古刹、ジャガンナート寺院。12世紀創建の古刹は、異教徒立ち入り禁止で、著者は入院したことはないが、壮麗なパラダイスのような内部と聞く。生きているうちに異教徒解禁となり、一目拝殿したいものだ。

地方州では新規数も28州中6位と、数10人から数100人の他ローカル州に比べ、トップ5の都会州に次いで最多の悪名高さだ。州西部では段階的封鎖解除も進むが、東部の海岸地帯は今月17日まで週末封鎖継続のロックダウンを強いられている。

一方、全土の新規感染者数は4万2776人、過日3万人台まで落ちたが、この1週間程4万人前後で推移している。累計3080万人と3000万人突破で世界ワーストのアメリカ(3380万人)に迫る勢いにもかかわらず、実質90万人で、ブラジルの実質220万人が世界最悪、死者数は40.7万人と第2波で急増したが、アメリカの60万人超、ブラジルの53万人超に次ぐ世界3位だ。

全土の致死率は1.32%、陽性率は2.42%、回復率は97.19%である。第1波では、膨大な人口の割に致死率が低いことが注目されていたが、第2波で急増、記載漏れがあるせいで実数は3倍から5倍ともいわれるから、実際にはこの数字は当てにならない。

ちなみに、新規感染者数のワースト州は南部ケララ(Kerala)で1万3563人(累計304万人だが、実質13万人、死者は1万4388人と少ない)、次点はマハラシュトラ(Maharashtra)の8992人(累計614万人、実質24万人、死者12万5000人)である。

というわけで、メガ第2波は収束の動きを見せているが、デルタプラスという新変異株も出現、中央政府は早々と第3波を警戒し、全土の酸素ボンベの充足に務める一方、国民に気を緩めずマスク着用やソーシャルディスタンスの遵守を呼びかけている。

しかし、自粛疲れのアッパーミドル層は、リベンジツアーで北東インドの避暑地に殺到、マスクなしで密集と、当局が規制に乗り出す騒ぎもあった。インド人は、マスクに関しては、割と忠実に守るが、ソーシャルディスタンスがまったく駄目である。

当州の村落地帯でのワクチン接種会場にも大挙して押し寄せ、我先にと列を乱し、怪我人が出る騒動も(接種に行って、感染したのでは元も子もない)。ほんと、何かというと、わらわらと集まりたがる人種で、組織化されておらず、群れる習癖を持つので、最大密になりやすい。

何せ、人口が膨大すぎる。虫のようにどこからともなく湧きあがる大群衆を統制するのは不可能に等しい。

宗教大集会、政治大集会も、感染の巣窟だ。人間くさい触れ合いや営みを大事にする国民なので(その最たる例が大家族制)、茶屋の井戸端会議はじめ、コミュニティ単位の活動も多く、欧米流のスキンシップと違って、タブーはあるが、カオチック(無秩序)に密集しやすい性癖を持つ。がゆえに、感染も広がりやすいのだ。

なお、全土のワクチン接種回数は1回のみ2億7000万回超に達したが、集団免疫への道のりは遠く、一刻も早い特効治療薬の開発が待たれる。デルタ株への有効性を示した「イベルメクチン」は、ワクチン一辺倒の世界でもっと承認使用されるべき既存薬だ。ワクチンで集団免疫を得るのは時間もかかるし、貧しい途上国は買い付けの財源もないことから、イベルメクチンは代替薬として役立っている。

前記事でも触れたが、日本の北里大学栄誉教授、大村智博士が発明しノーベル賞をとった抗寄生虫薬は、副作用もないし、お膝元の日本でももっと注目されていい既存の予防・治療薬ではなかろうか。

デルタ株による第2波が同薬により早期に収まったインドの事例を見ても、変異株の猛威に晒されているアジアでは、ワクチンのみに頼らず、既存薬で効験あらたかなものは、早期に承認されて然るべきと、私見で思う。

さて、イカサマ(チート)横行のインドでは、偽ワクチン(生理食塩水)や偽薬、偽医者も跋扈するパンデミック下、モディ(Narendra Damodardas Modi、1950年生まれ)首相は、迷信深い国民に、私の100歳近い老母もワクチンを受けた、デマを信ぜず率先して接種するよう提唱、国をあげてのワクチン加速化再開に向けて、動き出した。

7日に内閣改造も行い、コロナ対策批判を受けて、保健・家族福祉省の大臣交代、新保健相には、前バルダン(Harsh Vardhan、1954年生まれ)さんからマンダビヤ(Mansukh Mandaviya、1972年生まれ)さんが抜擢され(化学・肥料相も兼任)、失策挽回、84%から67%に落ちた支持率回復に努める(外相、内相、財務相、国防相などの政権中枢は留任)。

第2波への準備を怠り、酸素不足で死者を倍増させ、世界最悪、新規40万人超の大爆発を招いた失態の二の舞回避に、中央政府は、新保健相のもと第3波に向けて入念な準備を進めている。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年7月19日現在、世界の感染者数は1億9044万1654人、死者は408万9175人、回復者数は1億2538万8817人です。インドは感染者数が3114万4229人、死亡者数が41万4108人、回復者が3030万8456人、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3408万0007人、死亡者数が60万9021人(回復者は未公表)、日本は感染者数が84万4226人、死亡者数が1万5072人、回復者が79万7867人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。

筆者注:「ラト・ヤートラ」は7月12日開催のプリー名物、山車祭で、毎年6月から7月にかけて(太陰暦に則り、年ごとに開催日が変わり、10日目に帰社祭も)、催される大祭だが、パンデミック下、異例の2年連続無観客祭になった。