上流社会から逸脱した女性を主人公にした「ジャングル・クルーズ」(321)

【ケイシーの映画冗報=2021年8月5日】この夏も昨年と同様、お子さんたちが(親御さんや大人も)夏休みを存分に楽しむことは難しい状況となっています。さまざまなお店や施設が休業や時短営業となっていて、映画館も十全な営業が難しい状況ですが、お子さんむけの“キッズ・プログラム”は、あまり遅い時間には需要がすくないため、他の映画ジャンルにくらべれば、影響は大きくないかもしれません。

現在、一般公開中の「ジャングル・クルーズ」(((C)2021 Disney Enterprises,Inc.All Rights Reserved.)。

本作「ジャングル・クルーズ」(Jungle Cruise)の原作は、ディズニー・ランドの人気アトラクションとして1955年から楽しまれているライド(乗り物)アドベンチャーで、観客はジャングルの川を移動する冒険を楽しむのです。お子さま向けの作品ではありますが、内容的には大人も楽しめるようになっています。

第1次世界大戦(1914年から1918年)中のイギリス。女性植物学者のリリー(演じるのはエミリー・ブラント=Emily Blunt)は、弟のマクレガー(ジャック・ホワイトホール=Jack Whitehall)とともに、亡き父の遺した手がかりから、南米ブラジルのアマゾン川奥地、呪われた地にあるという、“不老不死の花”を探す冒険に出ます。

オンボロ観光ボートをあやつる船長のフランク(演じるのはドウェイン・ジョンソン=Dwayne Douglas Johnson)とともに、アマゾン川を進むリリーたちでしたが、そこには、イギリスと戦争中である帝政ドイツの王子ヨアヒム(演じるのはジェシー・プレモンス=Jesse Plemons)が、待ち構えていました。軍隊と最新兵器の潜水艦を率いるヨアヒムも、ドイツ帝国の勝利のため、“不老不死の花”を狙っていたのです。

冒険を続けるリリー一行に先んじるため、ヨアヒムは400年前に“不老不死の花”の探検中、呪いにより行方知れずとなった傭兵部隊を蘇らせ、共闘を呼びかけます。じつはフランクには、“蘇った過去の傭兵”や“呪い”につながりがあり、リリーたちも知らない“不老不死の花”の秘密を知っていたのです。

「都会育ちの女性が、未開の地で奮闘する現地の男性船長と恋に落ちる。二人の共通の敵は帝政のドイツ」

このストーリーは本作のものではなく、名匠ジョン・ヒューストン(John Huston、1906-1987)監督の「アフリカの女王」(The African Queen、1951年)です。

主人公の野性味あふれる船長役をハンフリー・ボガート(Humphrey Bogart、1899-1957)が演じ、ボガートは、この作品でアカデミー主演男優賞に輝きました。

舞台こそアフリカとブラジル、敵となるドイツ軍がふつうの軍艦(ただしくは河川砲艦というそうです)と潜水艦といった違いはありますが、時代設定も第1次大戦中、女性の主人公に兄弟がいて(「アフリカの女王」では宣教師の兄に帯同する妹でした)、現地のポンコツ船の船長と反駁し合いながら、理解を深めていくといったように、この2作品には共通点が見受けられます。

あくまで想像ですが、「アフリカの女王」が本作に大きな影響を与えたことは、間違いないでしょう。

もちろん、異なる部分も多々あります。もっとも大きなものはヒロインのキャラクターです。「アフリカの女王」のヒロインであるローズ(演じたのはキャサリン・ヘプバーン=Katharine Hepburn、1907-2003)は、本作のリリーほど活動的な女性でありませんでした。

エミリー・ブラントが演じるリリーは、貞淑なレディが規範であった上流社会からは逸脱した女性です。
「こういう映画では、女性はただの壁の花であることが多いけれど、リリーは違います」とブラントが語るとおり、都会派の弟マクレガーをジャングルへ引っ張っていく積極さと、「亡父の思いを遂げるため、盗みを働いてでも・・・」という行動力をもった人物として描かれます。

そのリリーに協力するフランク役のドウェイン・ジョンソンは196センチで約120キロという鍛え上げた体躯をほこり、もとプロレスのスター選手でありながら、現在は俳優として、アクションが中心ですが、コメディやシリアスな演技もこなす、当代きっての人気スターです。

ジョンソンは本作でも見事なアクションを披露していますが、ストーリーの牽引役はあくまでリリーなのです。「僕がみんなのために解決するんじゃない。僕が演じるフランクは皮肉屋タイプ」(いずれも「映画秘宝」2021年9月号より)と、一歩引いたスタンスとなっています。

ここ数年、ハリウッドを起点に女性の権利や立場、性的被害を公言する「#MeToo(ミートゥー)」という運動が広がっています。こうした時代の気運も、ヒロインの描かれ方に影響を与えているのでしょう。個人的には、ストーリーの流れやキャラクター表現が多彩になることは歓迎したいですね。

次回は「フリー・ガイ」を予定しています。(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。