インド等在外邦人、名ばかりの日本の緩和策に切れる!(84、番外編)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年12月3日】今回は番外編として、海外在住者を代弁して、日本政府の水際対策に対して望むこと、人道的配慮をお願いしたい特例ケースについて、取り上げたい。

福井市寮町にある勝縁寺(浄土真宗本願寺派)にて、11月14日、母(俗名荒木幸子、法名釋静楽)の49日忌の繰り上げ法要が行われた。

さる10月9日に私の母が亡くなったことは、銀座新聞ニュースの別枠コラム、亡き母に捧げる挽歌「緋色の花神」(3回連載)でお伝えした通り。パンデミック(世界的大流行)下、無念ながら、私は最期の対面叶わず、葬儀や49日忌にも参列できなかった。覚悟していたとはいえ、断腸の思いであったことはいうまでもない。

そんな折、観戦記の小コラムでも何度か紹介した<週末海外ノマド「ダイスケ」>さんの動画「日本入国新ルール/ 本音/緩和なんて大嘘」(11月11日付)で、家族の危篤や不幸に際して、帰国叶わなかった在留邦人が少なくないことを知った。

私だけじゃなかったんだと知って、同様の体験をした海外在住邦人に、同病相憐れむ的共感、身につまされる思いを抱いた。

同動画によると、11月の入国緩和政策として、ビジネス目的の外国人向けには受け入れ企業監視のもとの最短3日まで短縮が打ち出されたが、海外在住の自国民の帰国に関しては、10月の指定ワクチン接種者のみの10日隔離の短縮と(10日目に自費で陰性証明提出要)、実質的なメリットはほとんどなく、コメント欄には、在外邦人の怒りの声が続出していた。実際、ダイスケさんがとった視聴者アンケートでも、緩和が妥当でないと答えた人が83%にものぼった。

49日忌が行われた勝縁寺の、きらびやかなお仏壇には母の遺影と位牌か祀られている。

「村八分、差別」とのこっぴどい非難もあり、名前が公表されるのを覚悟で堂々違反破りをすると宣言する人、ガチガチの対応は官僚の自己保身、日本のような田舎の役人に1度権限、国民を規制する力を与えると固執して離さないと皮肉る者、在外邦人は所得税や住民税を払う率が低いから、金を落とすビジネス渡航者や観光客優先なんだとやじる者まで、同じ海外在住という境遇の私には、痛いほどよくわかる批判の嵐に満ちていた。

悩みすぎて苦しんでいるとか、納骨に帰国したいが、隔離期間があるので間に合わないとか、みんな同じ気持ちだったんだとわかって、連帯的共感を覚えた。動画中取り上げられた日経新聞の社説(11月9日付)も、世界と比べても緩和への踏み込みが足りない、いたずらに書類を増やす煩雑な手続きでは、緩和とは言えない、という論調だったらしい。

とにかく、日本の水際対策は、他国と比べても、異常に厳しい。欧米や、アジアの一部の国々では、コロナ共存で既に緩和に動き出しており、ワクチン接種証明があれば、隔離免除の国もあるほどだ。

在外邦人の帰国はいつも後回し、蚊帳の外との不満の声や、地方に実家がある帰国者向けの、指定席制の公共交通機関の整備を望む声も強くあり、陰性証明とワクチンパス、空港検査だけでは飽きたらす、公共交通機関使用不可の2週間隔に、過剰規制で、お金と時間の浪費だ、せめて隔離期間を7日から10日に軽減して欲しいとの切実な声が相次いだ。

日本人は真面目すぎ、強制でなく要請なのだから、電車だって国内線だって乗れる、自主隔離すらしなくてよい、なのに、大方がぶつぶつ文句垂れながらも、きちんと守るという律儀な国民気質に触れる人もいた。いっそのこと、署名運動をして嘆願書を政府に提出してはどうかとの意見まであった。

別の関連動画では、家族の危篤で緊急帰国して、入国手続きの際と隔離ホテルからの電話で公共交通の使用許可を再々お願いしたが、誓約書にサインしたでしょとの冷たい返事が返ってきて、無情な仕打ちに泣いた、帰国して説明すればわかってもらえると思った自分が甘かったとのコメントもあって、自らも母の危篤・葬儀時に帰れなかっただけに、やるせない怒りが乗り移って高ぶる気持ちを抑えられなかった。

身内が危篤でも、特例措置はなく、緊急帰国できたとしても骨折り損、不幸にして亡くなった場合は、葬儀にも参列できない有様だ。

荒木家先祖代々の墓(福井市足羽山)。父が逝って42年後に母の遺骨も同墓地に埋葬された。母の命日の10月9日は、1が始まりで、9が終わり、天寿を全うした吉日、享年91は、終わって始まる(再生)との意味もあり、見事な生涯だった。

そのくせ、ビジネス往来の緩和は考慮と本末転倒、日本政府は、外国人の入国以前に、自国民、特に高齢の親を抱えながら、帰国叶わぬ在外邦人の悩みにもっと真摯に配慮すべきではなかろうか(インド政府はその点、家族に不幸があった場合は、人道的見地から陰性証明免除を許可している)。

「令和幕府」の鎖国政策に泣き寝入りするしかないのか、死んでも、いや、死んだあとですら母国の土を踏めないかもしれないとの悲愴な覚悟を表明する人もおり、私自身過去「客死」の2文字かよぎったことがあっただけに、同じ海外在住者として、その気持ちは胸にぐさりと突き刺さるインパクトで痛いほどよくわかった。

これでは、帰国を躊躇(ためら)わない方がおかしい。海外在住者はみな戦々恐々、渋々諦めたり、帰ると決めても不安は募り、経済的な負担に心身の体力消耗、若い人でも4、5時間待機後やっとクリアとぐったりなのだから、年配者は何をか言わんや。

帰国のハードルは高く、地獄の関門を突破できるだけの心身共に強靭(きょうじん)なパワーが必要とされる。がために、来春帰国をめざす私はせっせと体力回復に努める昨今、来たる渡航に向けての体力温存に励んでいるのだ。

厚い帰国の壁を前に立ち往生する在外邦人同胞、無論私も例外でなく、八方立ち塞がり、身動きが取れないトラップに嵌って、脱出の糸口を掴めず、2年近くが過ぎようとしている。

高齢の親が危篤でも帰れない、葬儀にも参列できないという私と同じやるせない思いをする人がこれ以上増えないように、特例としての軽減措置を日本政府に望みたい。ビジネス・観光目的の外国人より、海外在住の自国民向けの緩和をまずは、強くお願いしたい。

著者注:この記事は、オミクロン株が見つかる前に書かれたため、状況が一変した今は、ややずれがあります。いずれにしろ、新変異株の脅威に晒され、各国が規制強化に乗り出している昨今、在外邦人の渡航にも大きな影響が出てくることは間違いなく、世界的な緩和の動きに水が差された以上、邦人の苦悩はいや増すばかりだろう。観戦記の本記事で、また詳細はお伝えしたい。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。2021年12月1日現在、世界の感染者数は2億6280万6448人、死者は521万5558人(回復者は未公表)です。インドは感染者数が3459万6776人、死亡者数が46万9247人(回復者は未公表)、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は4855万4890人、死亡者数が78万0140人(回復者は未公表)、日本は感染者数が172万7794人、死亡者数が1万8374人、回復者が170万8738人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。