3回の題名の深さ、前2作未鑑賞でも楽しめる「新スパイダーマン」(333)

【ケイシーの映画冗報=2022年1月20日】幾度か取り上げてますが、子ども向けの映像作品(キッズ・プログラム)は、“ジャリ番(組)”と蔑まれていました。いまでは世界中が注目する日本のアニメーションを“マンガ映画”と表現(しかも、作り手が)したことが最近でもありました。どこかに皮肉さをただよわせて。

現在、一般公開されている「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」((C)2021 CTMG.(C)&TM 2021 MARVEL.All Rights Reserved.)。

日本発のアニメ作品は“ジャパニメーション”という単語で世界的に認識されていますし、日本の芸能界でも、子ども向け作品に関わっていたことを、満足に感じている人々が増えているのが実情です。

個人的にあらゆるストーリー性のある作品は「面白いかどうか」を選択の基準としているので、作品の出自は評価に関係ないと考えているのですが。

1989年、アメリカのコミック・ブランドであるDCコミックスの原作を映画化した「バットマン」(Batman)が、犯罪を憎む黒ずくめのヒーローをリアルな世界感で描き、世界的に大ヒットしました。

DCコミックスの双璧である、マーベル・コミック・ブランドの作品を映画化した「スパイダーマン」(Spider-Man、2002年)が、コンピュータ技術を駆使して、「クモの特殊能力を持った高校生ピーター・パーカー(Peter Parker)が“スパイダーマン”となって悪と戦う」世界をリアルな実写映像として絶妙に仕上げ、こちらも大ヒットします。

続編2作を含めた3部作で完結したあと、「アメイジング・スパイダーマン」(The Amazing Spider-Man、2012年)がキャストとスタッフを一新して2本作られました。

本作「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(Spider-Man: No Way Home)は、スパイダーマン役がトム・ホランド(Tom Holland)となっての3作目のシリーズ完結編となっています。

前作「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」(Spider-Man: Far From Home、2019年)のラストで、ニューヨークの高校生ピーター・パーカー(演じるのはトム・ホランド)がスパイダーマンの正体ということが全世界に知られ、悪人であるという認識がなされてしまいます。

ピーターは恋人のMJ(演じるのはゼンデイヤ=Zendaya)や、友人で理解者のネッド(演じるのはジェイコブ・バタロン=Jacob Batalon)や周囲の人々への影響のひどさから、かつてともに地球を救ったアベンジャーズの仲間である魔術師のドクター・ストレンジ(演じるのはベネディクト・カンバーバッチ=Benedict Cumberbatch)に頼みこみます。

「世界中の人がスパイダーマンの正体が自分である記憶を消し去りたい」

その要望にこたえるドクター・ストレンジでしたが、ピーターの少年的な逡巡によって精緻な魔法の手順が狂い、世界はおおきな混乱に見舞われます。複数の世界がからみあった“マルチバース(多元宇宙)”が現出し、他の世界でスパイダーマンと戦ったヴィラン(悪役)が、ひとつの世界に集結してしまったのです。

MJやネッドの扶(たす)けでヴィランたちを捕らえるピーター=スパイダーマンですが、強敵たちが結託したことで世界の混乱はさらに激化、苦悩するスパイダーマンのもとに、マルチバース世界ならではの“究極の助っ人”が訪れ、共闘を誓います。混沌とした世界はふたたび、平静を取り戻すことができるのか。

本作で注目する点はやはり、「監督も主演も異なるシリーズのキャラクターが一堂に会する」という、強力なイメージです。アニメなら、20年や30年を同じキャストが演じることは珍しくありませんし、日本には50年、同じ声優が演じているキャラクターが存在します。

本作では過去作品の登場人物もオリジナルのキャストで登場しますし、CGで描かれたキャラクターなら、いつでも復元できます。しかし、克服できないのは「すぎゆく時間」であり、「過去には戻れない」のです。あまたの作品で“時間旅行”は描かれていますが。

本作をふくめた一連の「マーベル・シネマティック・ユニバース」の世界は、前述のマルチバースや超能力や超科学、神さま(!?)までが混在するので、一見すると「無理をすれば道理が引っ込む」的なご都合主義が横行している思われるかもしれません。そういう面があるのは事実ですが、「すべてうまくいく」世界ではないのです。

本作の中盤、主人公は恐ろしい喪失に直面し、ラストでは、自身の決断によって大きな衝撃を受けるのです。「ホーム・カミング(家へ帰る)」「ファー・フロム・ホーム(家を離れて)」と続いた3部作「ノー・ウェイ・ホーム(家へ帰れない)」という、連続したタイトルの深さに強く感銘を受けました。前2作や過去シリーズに触れてなくても、本作だけの鑑賞でもお勧めいたします。

次回は「ライダーズ・オブ・ジャスティス」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。