インド、自宅で観たい「男闘呼組」の「ロックよ、静かに」(番外編)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2022年2月25日】1988年、今から32年も前に制作された映画、「ロックよ、静かに流れよ」(長崎俊一監督、プルミエインターナショナル、ジャニーズ事務所制作)を観た。

映画化の後に、ビデオ化された映画「ロックよ、静かに流れよ」(VHS版)のパッケージ。

実はタイトルが何となく気になっていたのだが、どうも不良高校生が主人公らしいので、「ビー・パップ・ハイスクール」(人気コミックが原作の1985年の不良映画の金字塔、仲村トオルのデビュー作)の流れかと思い、今ひとつ観る気になれず、しばらく放っておいたものだ。

それがどうして観る気になったかというと、往年のテレビドラマ「めぐり逢い」(1998年、TBS系)を観たことによる。主役コンビは、常磐貴子と福山雅治、これに脇で絡む医者役の男優が男前で気になった。個人的な嗜好からいえば、福山雅治より私好みで、出演者テロップを見ると、岡本健一とあった。

ウィキペディアで調べて、元「男闘呼組(おとこぐみ)」のメンバーであることが判明。ジャニーズ事務所所属の1980年代のアイドルグループだが(高橋和也、成田昭次、岡本健一、前田耕陽の4人編成)、お子さまランチ系と違い、硬派で音楽性もなかなか高い。

作詞・作曲も高橋や成田が請負い、高橋、成田、岡本と3人いるボーカルのハーモニーが美しい(前田はキーボード)。歌では、成田のハスキーボイスが切なくて不思議な魅力を醸し、聞き惚れる。特別にうまいというわけではないのだが、雰囲気でイケメンの岡本を凌ぐ。

聞いているうちに、すっかりハマってしまった。こんなかっこいいバンドがいたなんて、1987年にインド移住した私はとんと知らなかった。東京ドームでライブ開演、黄色い歓声を浴びていた一世を風靡したアイドルバンドだったわけだが、1988年の結成から5年で解散、絶頂期に幕を閉じた伝説のバンドでもあった。

岡本健一は、ボーカルとギター担当、メンバー一のイケメンだった(2番手イケメンは前田)。どおりでと納得、ドラマからアイドルグループに行き着いたのは、「誘惑」(1990年、TBS系ドラマ)で、篠ひろ子&林隆三に脇で絡んだ宇都宮隆(一世を風靡した小室哲哉主宰の「TMネットワーク」のボーカル)以来、2人目だ。

元歌手が俳優に転向するケースは珍しくないが、面食いの私は顔で参って調べて、アイドルグループに行き着き、音楽もよくてハマるという段階を踏むのがなかなか面白くてワクワクする。

インターネットとは、便利なものだ。まさか、インドにいながらにして、日本の昔の映画やドラマが楽しめる時代がやって来ようとは、思ってもみなかった。2年以上の隔離期間中、数え切れないほどの映画やドラマを鑑賞、元々ドラマ好きだった私は、日本不在中見逃した傑作を改めて観直すことができて、埋め合わせできた感じた。

ただし、昭和生まれの旧世代のため、往年好みで、1980年から1990年代、行っても2000年辺りくらいまでで、近年の作品は少ない。テレビドラマに関しては、往時が黄金期、質が高くて、密度が濃い。見応えのあるドラマが目白押しで、ハマって全12回(9時間余)を一気観、午前さまなんて、しょっちゅうだ。

前置きが長くなったが、本題に戻ろう。ウィキペディアに「男闘呼組」が主演のデビュー映画として、「ロックよ、静かに流れよ」があって、あぁ、あのタイトルの映画かと思い当たり、ようやく観る気になったというわけだ。

鑑賞してみると、これが予想以上によくて、岡本はじめ成田らメンバーの演技力もなかなかのものだった。第12回日本アカデミー賞(1989年)の話題賞(作品部門/俳優部門)を受賞し、第10回ヨコハマ映画祭(1989年)の作品賞、監督賞、新人賞、1988年度キネマ旬報ベストテンの第4位、第43回毎日映画コンクール(1988年)のスポニチグランプリ新人賞、音楽賞、第3回高崎映画祭の若手監督グランプリと、賞総なめの好評を博し、ヒット後は「男闘呼組」の正式バンドデビューに繋がる。

ネタバレになるが、簡単にストーリーを紹介すると、東京の高校生だった俊介(岡本健一)が親の離婚で長野県松本市に転校、不良グループのミネさ(成田昭次)とトンダ(高橋和也)に最初はケンカを売られるが、同じロックバンドのファンだったことから友情が芽生え、ほかにトモ(前田耕陽)も加えてバンド結成、アルバイトして高い楽器を買い揃え、市民会館でコンサート開演にまでこぎつける。

が、事前にミネさがバイクの無免許運転で事故死、仲間を突然亡くしてメンバーは悲嘆にくれるが、ショックを乗り越えて、追悼コンサートを開く、というものだ。

同作は実話に基づいたもので(1984年径書房から出版された吉岡紗千子による同名手記)、非行少年たちが音楽を通して友情を育み、逞しく成長していく青春群像が描かれた感動物で、映画も原作に負けず劣らず、いい仕上がりになっている。

「男闘呼組」による挿入歌も盛り上げ効果抜群、主題曲の「ロックよ、静かに流れよ-Crossin’Heart(クロッシング・ハート)」はじめ、哀愁を帯びたバラード調のエンディング曲「Lonely(ロンリー)… 」、ギンギンのロック「Rolling’in the Dark(ローリング・イン・ザ・ダーク)」、「OVERTURE(オーバーチュア)ールート17」も乗りがよくてしびれる。

ステイホーム凌ぎに、ぜひ、一見をお薦めしたい。ロック世代の年配女性なら、「男闘呼組」を知らなくても、ハマってしまうかもしれない。一時期歌番組にレギュラー出演していた人気アイドルグループだったというから、私のように海外移住でもしてない限りは、大抵はあぁ、あのジャニーズ事務所の硬派アイドルとピンとくるはずだ。

メンバーの演技力だが、デビュー作とは思えないくらい、等身大のツッパリ少年を素で演じて好感が持てる。特に俊介を演じた岡本と、事故死するミネさ役の成田がいい。冒頭は、ケンカ腰のミネさと、俊介が次第に打ち解けて友情を育み始める場面から始まり、終盤の追悼コンサートで、会場を抜け出した俊介が、亡き友が可愛がっていたハムスターと、コンサート中着けるはずだったサングラスを自宅から引き上げて、ステージの遺影の前に飾る場面が泣かせる。

演奏途中で、全員が泣き崩れ、歌が中断するが、また気を取り直して最後までやり通し、教師や家族、同級生らのスタンディングオベーション、拍手大喝采を浴びるというラストが感動的た。

昭和の雰囲気も味わえるし、旧世代者には懐かしく楽しめるはず、音楽がテーマの古き良き映画だ。
(従来の「エッセイシリーズ」は「コロナ観戦記」の番外編とし、連載番号外とします)