過去の映画のエッセンスが取り入れられた「ガンパウダー」(338)

【ケイシーの映画冗報=2022年3月31日】この作品で最初に惹かれたのは、タイトルでした。「ガンパウダー・ミルクシェイク」(Gunpowder Milkshake、2021年)の“ガンパウダー”とは鉄砲に使う火薬(弾丸を撃ちだす発射薬)のことで、“ミルクシェイク”に説明の必要はないでしょう。いわば“鉄砲と甘いお菓子”という真逆の存在をひとつにまとめたわけで、この“反対の合一”ぶりに魅力を感じたのです。

現在、一般公開中の「ガンパウダー・ミルクシェイク」((C)2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.)。

幼き日、殺し屋稼業の母スカーレット(演じるのはリーナ・ヘディ=Lena Headey)に置き去りにされたサム(演じるのはカレン・ギラン=Karen Gillan)は、成長して母と同じ仕事に就いていました。“会社(ファーム)”と呼ばれる組織からネイサン(演じるのはポール・ジアマッティ=Paul Giamatti)を通じて“トラブルの後始末”を受けるサムでしたが、小さなミスからある人物を殺してしまい、「娘を頼む」と少女エミリー(演じるのはクロエ・コールマン=Chloe Coleman)を託されてしまいます。

天涯孤独となったエミリーに“母に捨てられた自分”を見いだしたサムは“ファーム”を裏切り、かつて母の仕事仲間であった“(武器の)図書館”に勤める3人の女性と、襲いくる敵たちとはげしい戦いを身を投じていくのですが、そのなかで“頼りになるのが因縁のある”助っ人も登場し、サムの気持ちは揺れ動いてしまうのでした。

本作のナヴォット・パプシャド(Navot Papushado)監督(脚本も)は1980年生まれということで、ビデオで映画が観られる時代にいたからか、さまざまな作品を観ることができたそうです。
「僕は80年代に生まれ、映画をたっぷり観て育っている。いろいろな時代に作られた映画をたくさん観てきたんだよ。(中略)今作は僕が愛する映画へのオマージュであり、ラブレター」(パンフレットより)

その文言どおり、この作品には、これまでに生み出された映画のさまざまなエッセンスが取り入れられています。
「殺し屋集団に元締めがいて、そのたまり場には豊富な武器弾薬がある」というのは現在もシリーズが続く「ジョン・ウィック」(John Wick、2014年から)の基本設定を意識させます。「幼い少女を連れた殺し屋」という描き方には、孤独な殺し屋と少女の交流を描いた「レオン」(Leon、1994年)を想起せずにはいられません。

ほかにもアクション映画の巨匠ジョン・ウー(John Woo)監督が生み出した一連のアクション作品、バディ(相棒)・ムービーの刑事もの「リーサル・ウェポン」(Lethal
Weapon、1987年)シリーズの影響も見受けられます。

“殺し屋たちがひたすら戦う”という骨子だけを見ると殺伐としたバイオレンスに感じられますが、主要な登場人物が女性で、年齢も人種もさまざまですが、無骨な暴力描写をマイルドにしてくれます。

物語の重要な場所となる(母と娘が生き別れとなる)“ダイナー(レストラン)”はポップで明るいデザインとなっており、凄腕の殺し屋サムのシャツや自宅には日本のアニメやマンガがベースとなっているであろう(カタカナで記されている)キャラクターがあしらわれています。

場違いな要素に感じられるかもしれませんが、不思議な一体感がかもし出しています。冒頭でサムがロングコートを来ているのも、日本の映画作品の影響だそうです。
「子共を連れているのは『子連れ狼』シリーズを意識しました。オープニングで黒いロングコートをヒロインが着ているのは梶芽衣子(「女囚さそり」(1972年)シリーズなど)さんのイメージです」(「映画秘宝」2022年4月号より)

俳優や作家、マンガ家といった「自己を自身の肉体や絵、映像などで表現する」人物は「“自分のなかにある存在”しか、表現することができない」という意見があります。
異論もあるでしょうが、個人的には首肯しています。

意識してやっていることもあるでしょうが、ときには「無意識に表現してしまっている」こともあると聞きます。自分のなかでベストだと感じる表現を自分の意思に関係なく、選択してしまうわけです。
「それが作品全体に合致している」ことが肝心なのであり、過去の作品や存在に影響を受けるのは必然といえるでしょう。パプシャド監督もこうコメントしています。
「この映画に出てくるシーンは、どれも5本くらいの映画からインスピレーションを受けている」(パンフレットより)

素直に自分の“内部・内面”をみとめるパブシャド監督、すでにいくつかの企画が動いており、そのなかには本作の続編もあるそうです。同監督の“ラブレター”、大いに期待したいです。

次回は「ナイトメア・アリー」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。