映画人の結晶を劇場スクリーンで観てほしい新「トップガン」(343)

【ケイシーの映画冗報=2022年6月9日】1986年、1本のハリウッド映画が日本で大ヒットしました。それまでハンサムな若手俳優のひとりと思われていたトム・クルーズ(Tom Cruise)を、全世界の映画スターへと押し上げた「トップガン」(Top Gun)です。

現在、一般公開中の「トップガン マーヴェリック」((C)2021 Paramount Pictures Corporation.All rights reserved.)。制作費は1億2500万ドル(約150億円)。

かれの演じたアメリカ海軍のパイロット“マーヴェリック”(コールサイン=一種のあだ名)が着用したフライトジャケットやサングラスが人気となり、アメリカ軍用品を扱うお店に若者が詰めかけました。現在のような“転売システム”がない、30年以上前のハナシです。

そして、トム・クルーズが映画俳優から“映画人”になるきっかけも本作だといわれています。クルーズは続編を自身で手がけるために、作品の権利を買い取り、自分自身も映画のプロデュースに関わるようになりました。

日本では映画スターとして認識されているクルーズですが、ハリウッドでは映画プロデューサーとしてのスタンスも強く意識されています。ご本人曰く「どんなに疲れていても、(毎日)映画を必ず1本、観る」そうで、新しい才能を見いだすことにも熱心だと伝えられています。

「トップガン」の続編企画は2010年ごろからあったそうですが、前作を監督し、続編も有力視されていたトニー・スコット(Tony Scott、1944-2012)の夭折といった事情から、停滞を余儀なくされました。

一気に動き出したのが2017年だそうです。クルーズとの共同プロデューサーで前作も関わったジェリー・ブラッカイマー(Jerry Bruckheimer)によると、本作で監督をつとめたジョセフ・コシンスキー(Joseph Kosinski)が他の作品を撮影中のクルーズに直接“プレゼン”をしたそうです。コシンスキー監督からストーリーの骨子を聞いたクルーズは、
「トムはその場で(製作・配給会社の)パラマウントのトップに電話を入れたんだよ。『続編を作るときが来た』ってね」(2022年6月3日付読売新聞夕刊)

2018年に撮影がはじまり、2019年の公開予定でしたが、「理想とする映像になかなかたどり着けなかった。何度、戦闘機を飛ばしたかわからない」(同紙)とブラッカイマーが語るほど、きびしい撮影事情だったようです。また、撮影後のタイミングで起こった新型コロナウィルスの感染拡大といった環境の変化から、当初の予定から3年を経て、ようやくの劇場公開へとこぎ着けたのです。

それが本作「トップガン マーヴェリック」(Top Gun:Maverick)で、アメリカ海軍のエリート・パイロット養成機関“トップガン”(戦闘機兵器学校)に在籍していたピート・ミッチェル“マーヴェリック”(演じるのはトム・クルーズ)は、その一本気な気質から、輝かしい経歴ながら階級は大佐にとどまっており、新型超音速機のテスト・パイロットをつとめていました。ここでも上部とぶつかったミッチェル大佐は、海軍の上層部にいる旧友の推薦により、古巣の“トップガン”に教官として戻ります。

某国がもつ、厳重警備の極秘核施設を空中から奇襲攻撃するという、過酷で困難な作戦のために集められたパイロットを、さらに鍛え上げるのが任務でした。腕に自信のあるメンバーに実力で見せ、従わせるミッチェルでしたが、パイロットのブラッドショウ大尉(演じるのはマイルズ・テラー=Miles Teller)と対立してしまいます。かれはかつて、ミッチェルのパートナーで事故死したパイロットの息子だったのです。

訓練の途中で出撃を命じられるミッチェルたち。練度不十分ながら、作戦は実施されることになるのですが。

本作は公開から世界中で大ヒットしており、「続編もの作品のなかでは屈指の傑作」と高く評価されていますが、36年前の前作への評価は厳しいものがありました。CM出身のトニー・スコット監督が美しさを追求した映像表現が「コマーシャルの手法で映画じゃない」と断じられたり、アメリカ海軍パイロットの世界が「海軍のPRフィルム」とネガティブに書かれたこともありました。

実際、この映画の影響でアメリカ海軍への入隊希望者は激増したそうですし、軍の全面協力があっての作品でしたので、“映えるような作品”となることも必定です。ジェット戦闘機を1時間、飛ばすには200万円以上のコストがかかりますので、軍隊の支援もなく、映画に使える戦闘機の臨場感(戦闘機にカメラを載せるためには大改造が必須)のある映像を撮ることはできないのです。

ですが、トニー・スコットが前作で作り上げた映像は、いまでは多くの作品に影響を与えています。また、観客たちが映像作品に影響されるのは、CM的だからではありません。作品に魅力がなければ、人を惹き付けることなどできないのです。

トム・クルーズら映画人たちの結晶を劇場のスクリーンで観ることは、きっとエキサイティングな体験になるはずです。次回は「峠 最後のサムライ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。