主役がプロデュースした、気軽に楽しんでほしい「ロストシティ」(345)

【ケイシーの映画冗報=2022年7月7日】「ザ・ロストシティ」(The Lost City)の主人公、ロレッタ(演じるのはサンドラ・ブロック=Sandra Bullock)は、主人公カップルの冒険ロマン小説のシリーズを手がけている人気作家ですが、実生活では5年前に夫を喪い、人生の喪失感に囚われていました。

現在、一般公開中の「ザ・ロストシティ」((C)2022 Paramount Pictures. All rights reserved.)。

新作のキャンペーンで、自著の表紙を飾るモデルのアラン(演じるのはチャニング・テイタム=Channing Tatum)とトークショーに出るロレッタ。イケメンでマッチョである彼のルックスが自作の営業に貢献しているのは認めつつ、よく言えば朴訥、わるく言えば思慮の欠けたアランに対し、ロレッタは少し嫌悪感を抱いていました。

そのロレッタを、富豪一族のドラ息子アビゲイル(演じるのはダニエル・ラドクリフ=Daniel Radcliffe)が誘拐します。財力はあるものの知性に問題があり「この作品にある“ロストシティ”の秘宝を見つけてほしい」とロレッタに求めます。小説=フィクションなのに。

ロレッタの亡夫は考古学者で、その研究をもとに彼女は小説を書いていたのですが、アビゲイルはこれを真実と信じ、ロレッタと大西洋の孤島へと足を踏み入れます。

一方、目の前でロレッタを連れ去られたアランは、責任を感じて、海軍特殊部隊にいたというジャック(演じるのはブラッド・ピット=Brad Pitt)に、ロレッタの捜索と救出を依頼します。

ウサンくさい風貌ながら有能なジャックの手腕で、なんとかロレッタを救出したアランでしたが、怒り狂ったアビゲイルが追手を差し向けます。孤島を舞台に繰り広げられる“小説ではないサバイバルゲーム”をロレッタたちは生き残ることができるのか。

日本ではメジャーではありませんが、「魅力的な男性とのホットなロマンス」の小説はアメリカでは大きなジャンルとして、とくに女性の読者を獲得しているそうです。その表紙だけで買わせてしまう、レコードやCDソフトのような“ジャケ(ット)買い”もあるようで、チャニング・テイタムの演じるアランという“表紙モデル”にも“元ネタ”人物がいるとのこと。ファビオ・ランゾーニ(Fabio Lanzoni)という人物で、ハリウッド映画などにも出ていますが、決して有名とはいえない俳優さんです。

6月9日付の「トップガン」でも触れましたが、ハリウッドの俳優たちは、演技以外でも“映画界の住人”として積極的に動いている人物がすくなくありません。本作で意外な“活躍”をみせるジャックを演じたブラッド・ピットは、俳優としてアカデミー賞(2020年の第92回にて助演男優賞)を受ける前に、映画プロデューサーとしてアカデミー作品賞(2014年の第86回)を得ています。

ロレッタを演じるサンドラ・ブロックもその演技力は評価されており、アカデミー主演女優賞(2009年)に輝いたことからも、その実力は証明されています。

本作は“アクション・コメディ”というジャンルになると思われます。“演技派”と思われがちなアカデミー女優としては意外な作風に思えますが、サンドラ自身のプロデュース作でもあり、彼女の意向が色濃く反映されているのでしょう。

彼女の演じたロレッタは、人生の伴侶を喪ったことから厭世的で、ベストセラー作家としてもスランプ気味という環境に置かれています。彼女の作中に登場する女性冒険家ラブモア(直訳で“愛をもっと”)博士にロレッタの内面の一部は投影されているのでしょう。

そのラブモア博士とコンビを組む作中人物のダッシュは劇中での活躍こそ素晴しいようですが、小説的なヒーローであって、読者層がダッシュだと“思い描いて”いる現実の人物アランと、すこし(かなり)かけ離れた人物で、演じたチャニング・テイタムはこう語っています。

「アランはそんなにおかしな奴じゃないよ。彼が自分がダッシュになれるとは思っていないけど、彼のような素質を持っていると信じたいんだ」(パンフレットより)

莫大な資産を持ちながら、“自分を評価してもらえない”アビゲイルや、ロレッタの才能を信じてサポートするが、どこかピントのズレた出版エージェント、“謎の凄腕”ジャックなど、どこか浮世離れした人物とストーリーの本作ですが、全体に楽しい仕上がりとなっています。

「コロナの後、私たちはまだ気軽にバケーションに行くことができないけれど、この映画でロレッタとアランと一緒に広大なジャングルに行った気分を味わってほしいわ」(パンフレットより)

サンドラ・ブロックのこの一文に、本作の要素が端的に語られていると感じます。いわゆる“襟を正して”鑑賞するのではなく、“気軽に楽しく”見るのが、プロデューサーからもお勧めということでしょう。次回は「炎のデス・ポリス」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。