西部劇風味で、シャレの効いた組み立ての「炎のデス」(346)

【ケイシーの映画冗報=2022年7月21日】「○○コップ(COP)」というタイトルのハリウッド映画が、1980年代から多作されるようになりました。そうして、「コップ」が警官ということも日本で周知されたのですが、アメリカ生活の長い友人によると「COPは日本語だと“ポリ公”とか“サツ”といったネガティブな意味になるので、普通は使わない」ということでした。

現在、一般公開中の「炎のデス・ポリス」((C)2021 CS Movie II LLC.All Rights Reserved.)。興行収入が世界で681万ドル(1ドル=120円換算で、約8億1720万円)。

警察官(Plice Officer=ポリス・オフィサー)、少し格式ばると法の執行人(Law Enforcement=ロウ・エンフォーメント)と言うのが良いとのことです。

本作「炎のデス・ポリス」(2021年、Copshop)はネバダ州の砂漠地帯にあるガンクリーク警察署が舞台です。2人の男が留置所に放りこまれます。銃で撃たれたテディ(演じるのはフランク・グリロ=Frank Grillo)は暴力さわぎ、ボブ(演じるのはジェラルド・バトラー=Gerard Butler)は飲酒運転で。ところが、テディはマフィアの金を奪った詐欺師で、マフィアに追われ、安全な留置場に逃げ込んだのが実情でした。そして、酔っぱらいを装っておなじ留置所に入ったボブの正体は、テディを追う名うてのヒットマンだったのです。

新人の黒人女性警官、ヴァレリー(演じるのはアレクシス・ラウダー=Alexis Louder)は、元軍医であったことからテディの傷を留置場で診ながら、ボブがテディを狙うヒットマンであることを知ります。

そして、ガンクリーク警察署にもうひとりの来訪者が。消音拳銃とマシンガンで警察官を撃ちまくる狂気の男、アンソニー(演じるのはトビー・ハス=Toby Huss)は、テディを確実に仕留めるためにマフィアが送り込んだ、もうひとりの恐ろしい殺人者だったのです。

襲ってきたアンソニーと戦って負傷したヴァレリー。戦うことのできないヴァレリーは、詐欺師か殺し屋、どちらかと手を組まなければならないという事態に。

深夜の警察署は、暴力の支配する狂気の空間となってしまいます。ヴァレリーは法の秩序を取り返し、生き延びることができるのでしょうか。

本作の監督・脚本を担当したジョー・カーナハン(Joe Carnahan)は、本作についてこう述べています。
「本作のシーンの半分は留置場ですから、舞台みたいなものです。基本的に警察映画ですが、誰が真実を語っているのかわからないスリラー映画でもあります」(パンフレットより)

カーナハン監督の長編2作目の「NARCナーク」(2002年)も、身分を隠して麻薬組織に潜入する捜査官のストーリーで、オープニングで一気に引きこまれた作品です。いきなり逃げ出す男と追う男。逃げる男は新聞配達を刺し、公園で遊んでいる子どもに銃口を突きつけます。

追う男が発砲し、犯人は倒れますが、流れ弾が人質となった妊婦に当たり、大量出血を起こします。撃った男が懸命に止血していると救急車のサイレン音がひびき、泣き叫ぶ子どもの声のなか、男が発する言葉。
「俺は捜査官だ。捜査官なんだ」

いかにも悪そうな人物が潜入捜査官であり、一般市民を巻き添えにしてしまうという、衝撃的なシチュエーションは、いまでも鮮明に記憶に残っています。

本作はパトロール中のヴァレリーと警察署長の“銃器談義”があり、そこから砂漠を走る車と車の銃撃戦になり、物語が始まります。ヴァレリーが扱うのは、古いデザインの回転式拳銃で、威力はあるが強烈な反動で扱いにくいシロモノですが、この一連の場面で流れる音楽が、「ダーティハリー2」(Magnum Force、1973年)のメインタイトルなのです。

銃の種類こそ違いますが、ハリー刑事とヴァレリーはおなじ44マグナム弾です。50年前の映画のなかでもハリーの銃は時代おくれであり、この作品が西部劇のイメージで作られていることを観客にイメージさせました。

本作も西部劇テイストであることを、数分でアピールしている、シャレの効いた組み立てと感じました。

ヴァレリーをのぞけは、テディ、ボブ、アンソニーは犯罪者なのですが、悪事というより、ビジネスとして関わっており、歪んではいますが、自尊心を持って向き合っています。ボブを演じたジェラルド・バトラーの、
「プロ中のプロの殺しボブ・ヴェデッィクには深みがあり、多くの可能性を感じました」(パンフレットより)
というコメントは、ボブだけでなく、主要な登場人物すべてにいえることでしょう。

原題は「Copshop」で、アメリカ英語の俗語表現で「警察署」という意味です。邦題の「炎のデス・ポリス」と直接は繋がりそうにないのですが、この両者が絶妙にマッチしている快作です。次回は「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。