恐竜がいなくてもドラマが成立する最後の「ジュラシック」(347)

【ケイシーの映画冗報=2022年8月4日】本「ジュラシック・ワールド」シリーズ1作目の「ジュラシック・パーク」(Jurassic Park、1993年)を観たときのインパクトは、いまも鮮明です。この作品に登場する恐竜たちは、これまで多くのSF作品に登場してきた“太古の恐竜の生き残り”ではなく、“人類の科学技術により生み出された人工生命”であり、「人間のコントロール下にあるとされていたが、システムの不備から恐竜たちが本能の存在となる」というストーリー展開でした。

現在、一般公開中の「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」((C)2021 Universal Studios and Storyteller Distribution LCC. All Rights Reserved.)。

実現は不可能とされていますが、バイオテクノロジーによって生まれた(作られた)恐竜という存在には、一定の説得力があり、このころから映像表現に本格導入されるようになった、コンピューター・グラフィックス(CG)技術によって、実在するかのような恐竜たちが大活躍する姿はまさに大迫力で、シリーズを重ねるごとに、そのディテールは精緻かつ豊かになっていきました。

本作「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」(Jurassic World: Dominion)で、“ジュラシック・ワールド”のあったイスラ・ヌブラル島が火山の噴火で消滅してから4年、島を去った恐竜たちは世界中に活動のテリトリーを広げ、人類や他の生物と共存していました。

“ジュラシック・ワールド”の元スタッフであるオーウェン(演じるのはクリス・プラット=Chris Pratt)とクレア(演じるのはブライス・ダラス・ハワード=Bryce Dallas Howard)は、違法に取引される恐竜たちの保護活動を続けながら、隠遁生活を送っています。2人は恐竜再生の技術を応用して生まれた、世界で唯一のクローン人間の少女であるメイジー(演じるのはイザベラ・サーモン=Isabella Sermon)の存在を隠す努力をしていますが、メイジーは自由を奪われていることで、大人に反発していました。

そのころ、アメリカでは遺伝子操作で生まれた巨大なイナゴが大量に発生し、穀物地帯を食い荒らし始めます。かつての“ジュラシック・パーク”の創設期に関わった恐竜学者のグラント(演じるのはサム・ニール=Sam Neill)は古代植物学者のエリー(演じるのはローラ・ダーン=Laura Dern)とともに、恐竜の研究と保護をおこなっているイタリアの山岳地帯にある、バイオシン社の施設に向かいます。

巨大イナゴには恐竜の遺伝子データが関係していたためでしたが、そこには誘拐されたメイジーも監禁されていました。メイジーを追ってバイオシンの施設に入るオーウェンとクレア。遺伝子技術で生み出した作物を使い、世界の穀物市場を支配しようとするバイオシン社は、メアリーの持つ貴重な遺伝子情報も欲しているのでした。

1作目が1993年ですから、およそ30年。6作の劇場用作品がつくられた計算ですが、この最新作にして現状では最終作となっている本作には、1、2作目で監督したスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)が製作総指揮として参加しているのをはじめ、グラント役のニール、エリー役のダーンをはじめ、オリジナルのメンバーが揃って参加していることも、魅力といえます。

人気シリーズであっても、さまざまな理由から、初期メンバーがそろうことは難しくなります。30年間は、早世する物故者や仲たがいを起こすには充分な時間なのです。監督・脚本(共同)のコリン・トレヴォロウ(Colin Trevorrow)によれば、「登場するキャラクターは人間的でリアルです。この映画の良さは、恐竜がいなくてもドラマが成立することです」(パンフレットより)。

たしかに、どれほど魅力的な恐竜を揃えたとしても、その幹となるドラマの部分がなければ、作品は持ちません。フィクションでも現実でも経営者は利益を求めますし、研究者は研究への野心を抱きます。閉鎖空間にいるものが自由を欲するのも自然です。強欲かもしれませんが、知識欲や自由への渇望を否定することはできないのです。

「蘇った恐竜が、自在に行動できる世界」は、作品として楽しむには実に魅力的な世界ですから、シリーズもここまでつづいたのでしょう。

なお、30年の時間は、恐竜という生き物のディテールにも変化を与えています。かつては少数意見であった“羽毛のある恐竜”は、1996年に羽毛の残った恐竜化石が見つかったことで、一気に存在感を増しており、本作にも“トリのような恐竜”が登場します。

さらには「恐竜は絶滅せず、現在の鳥類に進化している」という学説もあります。空を飛べる鳥類は行動範囲が広く、絶滅するほどの個体数の減少が起こりにくいのだそうです。「人類が乱獲しなければ」という条件が必須とのことですが。次回は「ファイナルアカウント 第三帝国最後の証言」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「ジュラシック・パーク」はアメリカのSFメディア・フランチャイズで、1990年、ユニバーサル・ピクチャーズとアンブリン・エンターテインメントが、マイケル・クライトン(Michael Crichton、1942-2008)の小説「ジュラシック・パーク」が出版される前にその権利を購入したことから始まった。

この小説は成功し、1993年にはスティーヴン・スピルバーグ監督が映画化し、この映画は2013年に劇場用3Dが再公開され、2018年にはアメリカ議会図書館によって「文化的、歴史的、または美学的に重要」であるとしてアメリカ国立フィルム登録簿に保存されることが決定した。

1995年に続編となる小説「ロスト・ワールド」が発表され、1997年に「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」として映画化されたが、「ジュラシック・パークⅢ」(2001年)を含むその後のシリーズ映画は小説を原作としていない。「ジュラシック・ワールド」 (2015年)、「ジュラシック・ワールド/炎の王国」 (2018年)、「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」 (2022年)の6作が公開されている。