インドは終息へ、日本は世界最多の感染国に、明暗を分けたのは?(115)

(著者がインドから帰国したので、タイトルを「インドからの帰国記」としています。連載の回数はそのまま継続しています)
【モハンティ三智江のインドからの帰国記=2022年12月16日】早いもので、帰国して9カ月近くが過ぎ、余すところひと月弱、師走に入った。

インドでは、英アストラゼネカ社から技術供与され、本国で開発したコビシールド(バキスゼブリア筋注)がポビユラーだ。モディ首相は、インド国産のコバキシンを接種(画像はオックスフォード=アストラゼネカ社のcovid-19ワクチン、ウィキペディアより)。

気持ちとしては、年内には1度インドの本宅やホテルのチェックに帰りたかったが、年末でチケット代も高騰しているし、何よりも現時点での水際対策が未接種者には便宜が悪く、日本で72時間前陰性証明を取れば、入国は問題ないが、出国がまた面倒なことになる。

少しは簡素化されたみたいだが、相も変わらずの日本フォーマット、英語の陰性証明なら、田舎の居住地プリー(Puri、東インド・オディシャ州=Odisha)でいくらも取れるが、日本フォーマットの場合、首都デリー(Delhi)近郊の日系企業の拠点・グルガオン(Gurgaon、現グルグラム=Gurugram)にある邦人駐在員向けの日本人女医のいる御用達クリニックに行くしかない。行きはよいよい、帰りは怖い、なのである。

未接種を決めたことに悔いはないが、海外との行来の便宜上、不便極まりない。9月7日から3回接種者はフリーパスになったが、私はその恩恵にはあずからず、首を長くして水際政策全面撤回を待ちわびている現状だ。

1度出国に大変な思いをしているので、もう2度とあんな思いはしたくないと腰が退(ひ)けてしまう。3回接種者がフリーパスになった今は、領事館からのヘルプ、インド全土の居住者に自宅で無料検査サービスの提供はもうないだろう。

ただ2020年3月から2022年3月までの帰りたくても帰れないインドの隔離生活にあって、不可抗力の事態にジタバタせずに、流れに身を任せる、天任せの極意を学んだので、今回も絶好のタイミングが天から降ってくるまで、泰然と構えて待つつもりでいる。

思えば、インドを出ることを決意した時点で当分、下手すると2年は帰れないかもと覚悟したものだ。インドで強いられた待機期間2年3カ月と同じくらいの期間を過ぎないと戻ってこれないだろうと。コロナ前は毎年、インド8カ月、日本は春と夏2回に分けて各2カ月ずつ、計4カ月と、理想の日印半々生活とまではいかぬ、インドに比重の傾いた生活を送っていたが、コロナで、両国の滞在期間が、2年ずつとスパンが長くなる状況に追い込まれた。

3年前に現地人夫を亡くした私的な事情もあって、インドの本宅に私を待つ人は誰もおらず、帰る大義名分を失った。ホテルは甥と、月一度帰郷してチェックする息子に任せているが、終息後の盛況に沸き返っているようだ。私の中で、今後どうするか答はでていない。ただ天任せ、サレンダーの境地なのである。

3回接種フリーパスで、周囲の親族や友人も海外に出だしたが、彼ら経由の情報によると、ベトナムはマスクなし、シンガポールとタイは、半数マスク、インド在住の息子からの情報では、5月の時点でインドはフリーマスク、ドバイもそうだった。

インドのコロナ事情だが、私が出国した3月10日時点で終息とお伝えしたが、第4波を兆し程度に抑え、今もその状況に変わりない(12月8日現在、感染者総数4467万5413人、総死者数53万0647人)。週平均350人程度の感染者数で(12月8日現在週平均221)、インドにとって、パンデミック(世界的大流行) はもはや過去のことなのだ。

我がラッパー息子(芸名Rapper Big Deal、33歳)も、各地のライブはじめ、2023年はホッケーワールドカップ(2023年1月13日から29日、開催地はインドのオディシャ州都ブバネシュワール=Bhubaneswar=とラウケラ=Rourkela)でのパフォーマンスも控え、スケジュールがぎっしり、しかも「Rolling Stone(ローリングストーン)」誌インド版のカバー写真を飾ることになった。

同誌はアメリカで1967年に創刊された知名度の高い音楽情報誌で、トップアーティストのインタビュー記事をはじめ、映画・政治・スポーツまで網羅、日本版では過去、矢沢永吉が表紙を飾ったことがあった。我が息子がインド版カバーを飾るとは、人気・実力とも認められたということでもあり、なんと名誉なことだろう。

「Slumdog $ Millionaire(スラムドック・ミリオネア)」(2008年のイギリス映画で、2009年日本公開、ダニー・ボイル=Danny Boyle=監督)でゴールデングローブ賞作曲賞や第81回アカデミー賞作曲賞(いずれも2009年)に輝いた南インド・チェンナイ(Chennai)ベースの作曲家、A.R.Rahman(ラフマーン、56歳)とも顔合わせ、コラボの話が進んでいる(ラフマーンは、2016年に福岡アジア文化賞大賞も受賞)。

ジョンズホプキンス大学(JHU)による統計は既に、世界各国の日毎の感染者数を呈示するのを止めており、インドの州ごとの数字も不明だが、グラフを見ると、インドの頂点は、2021年5月のデルタ爆発時で、それ以降は急降下、まるでエレベストの頂上から一気にローラーコースターのように滑落する案配で、底辺をほぼ並行に月日と共に推移するラインが続いている。

第8波と騒いでいる日本と大違いだ。もちろん、終息までに多大な犠牲があったことは忘れてはならないが、ワクチン先進国の拡大は、世界を見ても、イスラエル、シンガポール、韓国と来て、今日本、目に余るものがある。

何故、皆、不思議に思わないのだろう。事実だけ見れば、ワクチンが拡大を促進しているとしか思えないではないか。インド人は2回接種者は70%近くだが、3回目は3%に満たない。それに、2回終了者もとっくに有効期限が切れている。つまり、全国民が無防備だ。

にもかかわらず、終息、自然免疫がいかに有効かの証左ではなかろうか。ワクチン率の低いアフリカ諸国も、予想に反して抑えられている。一説には、イベルメクチン(ivermectin)が予防になったとの説があるが、定かでない。

イベルメクチンとは、日本の大村智博士(北里大学特別栄誉教授)が発見し、ノーベル賞を受賞した抗寄生虫薬で、コロナに効くと言われ、デルタ爆発時のインドでも、効験あらたかぶりを発揮したミラクル薬だ。残念ながら、日本では臨床試験はパスしなかったようだが、少なくとも、インド在住者である私から見た限りでは、デルタ株に対しては、多大なる効力を発揮、死者数を軽減するのに役立った。

終息して活気に沸き返るインドと、ついに世界最多になり、4回、5回とワクチン接種に走る日本、明暗を分けたものはなんだろうか。

もちろん、計測されていないだけで、インドにも感染者はもっといると思うが、おおらかな国民性もあって、ちょっと熱や咳が出たくらいで、やれ検査だ、発熱外来だと、日本のように神経質にならず、在宅療養、5日くらいで回復しているのだろう、よって、社会的終息を見た、ということである。WHO(世界保健機関)が緊急事態宣言を解除する日を首を長くして待ちわびている当方だ。

水際対策の全面撤廃は、2023年春との予想もあるが、私見では6月、でなかったら、2023年秋、もしかして2023年いっぱいかかってしまうかもしれない。スペイン、ポルトガル、イギリス、フランス、イタリア、ギリシャ、カナダ、ベトナムなど、続々全面撤廃、接種いかんにかかわらず(陰性証明も不要。インド入国にあたっては72時間前陰性証明のみ必要)、誰でも入国できるようになっているが、真面目で神経質な日本人は、後手後手に回り、世界でも全面撤廃に関しては、最後部に近い部類に入るのではないかと思うが、2023年中には、終息宣言が出ることを期待したい。

〇こぼれ話/ピースボートの説明会に出席

11月19日、金沢市文化ホールで開かれた「ピースボート」(Peace Boat、国際交流目的の日本のNGOが企画する世界1周の船舶旅行で、1983年の設立当初はアジア中心だったが、1990年以降地球1周の船旅を繰り返し行っている)の説明会に出かけた。8月に資料を取り寄せ、クルーズ船によるいくつもの世界1周ルートを確認、スペイン・バルセロナに寄港するルートにわくわくしていたのだが、9月の説明会の開催場所は金沢駅前と、徒歩で行くには少し遠かったので、断念していた。

2012年から2020年のピースボートのクルーズに使われた「オーシャンドリーム」。ピースボートはこれまで100回を超えるクルーズで200カ所以上の港を訪ね、8万人を超える人々と世界を巡った。国連とパートナーシップを結び、持続可能な開発目標(SDG)の公式キャンペーン船として、コロナ明けの2023年春から航海を再開予定(画像はウィキペディアより)。

が、2カ月後にまた説明会の通知が来て、歩いて行ける金沢市繁華街・香林坊で催されるというので、コロナ下のクルーズについて詳細を知りたかったため、あまり期待せずに出かけた。

3階の会議室には、10人にも満たない参加者がばらばらに座っていた。説明が始まって、映写機が回り、2025年8月の世界1周ルートの寄港地のひとつ・バルセロナの未完の世界遺産、サグラダファミリア大聖堂(1882年着工)が突然、映し出された。アントニオ・ガウディ(Antoni Gaudi i Cornet、1852-1926)が設計した、写真などで見慣れたゴシック式の高く尖った塔がいくつも天空を突き上げるようにそびえる壮麗な外観に胸が高鳴った。係員の説明によると、2026年完成を目指す同聖堂の尖塔は現在9基、最終的には18基になる予定とか。何故かふっと11本のゾロ目になったら、行こうと思った。

2025年8月の、「パシフィツクワールド号」(7万7441トン、全11フロア+デッキ3層、乗客定員2419人)によるアイスランドのオーロラ洋上観察がハイライトのコースには一番惹かれたが、いくら今予約すれば、安くなるからと言って、3年先の話なんてわからない(パスポートも切れてる)。

かといって、年相応に慎重派の私には、コロナ現況下、来年はまだ時期尚早に思える。船内で感染者が出た場合や、寄港地のコロナ政策いかんで、観光制限されるかもしれないと思うと、二の足を踏んでしまう。

109日間と長い船旅のため、値段も早割りでも125万円(相部屋のエコノミー、最大45%割引は12月28日まで)、チップ(28万円)や海外保険(15万円)、オプショナルツアー費(2万円から3万円×20寄港地数)も含めると、200万円近くは見ておいた方がよさそうだ。

クルーズツアーには憧れるし、船に乗ってしまえば、各地に自動的に運んでくれ、重い荷物なしに観光できるし、なんといっても楽ちん、海が好きな私には船上タイム、海上の朝日や夕日、船内の様々なレクリエーションも楽しみだ。

コロナがなかったら、大幅割引になるこの機を逃さず、予約するんだがなぁ。しかし、マンツーマンで質疑応答に答えてくれる若い女性社員(学生時代にピースボートを体験、素晴らしかったと口を極めて絶賛)と仲良くなって話が弾み、最後には世界地図のお土産までもらってホクホク、楽しかった。

帰宅して地図を広げると、1番上に「Peace Boat Voyages Since 1983」とカーブしたデザインタイトルがあって、南大西洋に1番大きな古代帆掛け船とシーラカンスのイラスト、北太平洋にさらに3艘の小型帆船、北大西洋に小シーラカンスと、まるで宝探しの地図のよう、縁起のいい宝船でいざ新天地へ漕ぎ出す、黄金郷を夢見て・・・ワクワクした。日本を見て、インドをはるか過ぎて、西の涯(はて)・イベリア半島に目を馳せ、結構距離があるなぁと再確認、でも、素敵なワールドマップに心が踊った。

後日、YouTubeの動画ニュースで(11月14日付)、オーストラリアのクルーズ船(マジェスティック・プリンセス)で乗客4600人中800人もの感染者(無症状か軽症で自船室で隔離)が出たと知って(12日に入港したシドニーで感染者は下船、船はメルボルンからタスマニアへ航海続行)、いっぺんに目が覚めた。やはり現段階では、船内感染者を0に抑え込むのは不可能に等しい。後日、東京・高田馬場本社から、勧誘の営業電話がかかってきたが、辞退するしかなかった(1周忌レポート後編は次回に掲載予定)。

(「インド発コロナ観戦記」は、92回から「インドからの帰国記」にしています。インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いてきましたが、92回からインドからの「脱出記」と日本での「生活記」で随時、掲載します。

モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。

2022年12月8日現在、世界の感染者数は6億4700万9915人、死亡者数が664万6278人、回復者は未公表。インドは感染者数が4467万5413人、死亡者数が53万647人、回復者が未公表で、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は9923万740人、死亡者数が108万3362人(回復者は未公表)、日本は感染者数が2557万3125人、死亡者数が1万0139人、回復者が51万2728人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。。編集注は筆者と関係ありません)