ダメ元から誕生、50年も残る作品に原点回帰の「シンライダー」(365)

【ケイシーの映画冗報=2023年4月13日】「シン・仮面ライダー」の冒頭、山中を失踪するバイクに乗る本郷猛(演じるのは池松壮亮)と緑川ルリ子(演じるのは浜辺美波)は、怪物“クモオーグ”に襲われます。風の力で変身し、人外の姿となった本郷は、すさまじいパワーを発揮し、ルリ子とともに脱出に成功します。

現在、公開中の「シン・仮面ライダー」((C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会)。

そして、本郷は、自分がルリ子の父、緑川弘(演じるのは塚本晋也)が生み出した“昆虫合成型オーグ”であり、生物の持つ生命力“プラーナ”を動力とする、強靱な肉体と圧倒的なパワーを得たことを知ります。

偉業の姿と力に戸惑いながらも、変身した本郷はルリ子を守って戦い、弘を殺した“クモオーグ”を倒します。“仮面ライダー”となった本郷は、ルリ子とともに、自分を改造し、世界制服を企む秘密組織“ショッカー”と戦う決意をするのでした。

「シン・ゴジラ」(2016年)、「シン・ウルトラマン」(2022年)とかつての特撮作品を劇場用の新作として生み出してきた庵野秀明が監督、脚本として全面参加(「シン・ゴジラ」は総監督と脚本、「シン・ウルトラマン」では企画と脚本)したのが本作「シン・仮面ライダー」です。

「仮面ライダー」は、1971年に放送が開始された30分のテレビシリーズで、マンガ家の石ノ森章太郎(1938-1998、放送当時は「石森」名義)によって描かれています。高校生で商業マンガ家としてデビューし、全盛期には月に600枚のマンガ原稿を描いた(一般的なマンガ単行本で3冊分)という石ノ森が、のちに特撮作品の原作を多く手がけるようになる端緒となったのが「仮面ライダー」でした。

キャラクターの源泉は、石ノ森のこんな思いつきでした。
「バッタは自然の象徴だ。バッタの能力を持った主人公が自然破壊に立ち向かうなんてのいうのはどうかな?そうだ、エネルギーは風だ。風力エネルギーが彼の原動力なんだよ。腰のベルトのバックルに風車の機械があって、そこでエネルギーを取得するんだ」(平山亨「仮面ライダー名人列伝」)

この仮面ライダーの根幹ともいえる設定は本作で描かれて、過去の仮面ライダー作品よりも強調されていると感じました。原点への回帰が明確に示されたのです。

「シリーズが長いのでいろんな魅力があるのですが、僕がリアルタイムで見ていたちょうど50年前の仮面ライダーは、『怖さ』と『カッコよさ』ですね」(「週刊文春エンラプラス」)という庵野監督の抱いた原初のイメージが、そのまま作品に投影されていると感じます。先人の偉功を尊重しつつ、新たな世界に踏み込んでいくのが、庵野監督の持ち味なのですから。

これまでも記していますが、かつては子ども向けの映像作品は、一段低く見られていました。“ジャリ番”や“ジャリ専”といった言葉ですが、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」が人気となっても、当然のように使われていたそうです。

1970年代、日本の映画界は斜陽となり、スタッフ陣がテレビへとシフトしていました。映画が作られないので当然の帰結でしたが、予算やスケジュールに制約の多いテレビ界での仕事には、不平や不満があったとされています。

「仮面ライダー」もおなじ特撮のテレビシリーズでありながら、「ウルトラマン」シリーズ(1966年に放送開始)より後発であり、実績がないことから予算もすくなく、撮影現場は現在では考えられないほど、きびしいものであったそうです。

少々長くなりますが、初代の“仮面ライダー・本郷猛”を演じた藤岡弘の著作から、撮影当時の状況を活写した一文を紹介させてください。
「一九七一年春、一人のヒーローが、ブラウン管に登場した。(中略)孤軍奮闘するその姿は、実は制作に当たった我々俳優や、スタッフの姿にも重なるものだった」

「私たちの前にあったのは、驚くほどの低予算と過酷なスケジュール。そして視聴率という名の巨大な壁と、『ウルトラマン』や『巨人の星』といった人気番組との激烈な戦いだった。(中略)撮影機材もセットも貧弱で、絶えず何かを代用してなんとか撮影に間に合わせていたというのが実情だった。『これは駄目モトの企画ですから』、誰かがそういっていたことを覚えている」(藤岡弘「仮面ライダー本郷猛の真実」)

こうしたきびしい現場の状況から、50年以上も残る作品が生み出されていたのです。この当時から特撮作品にかかわった方々から、よくオハナシを伺っている自分としては、今後も「シン・仮面ライダー」的な作品が生まれてくることを願っています。

次回は「ヒットマン・ロイヤー」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。