水際措置終了を歓迎、金沢で森山良子の美声に感動(126)

【モハンティ三智江のインドからの帰国記=2023年5月12日】5月8日、新型コロナウイルスが現行の感染症法の位置づけである2類から、季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行することは、周知の事実だ(政府は4月27日正式決定、28日新型コロナ対策本部も廃止)。これに伴い、水際措置も5月8日に終了予定だったが、大型連休に併せて、4月29日に前倒しして廃止された。空港の混雑を避け、入国手続きをスムーズにしたい意向からのようだ。

4月にUAEの首都ドバイを再訪した息子(インド在住の人気ラッパー、Rapper Big Deal)が、現地の日本居酒屋「木村屋」(ドバイに3店舗あり)にて、着物を試着、刀も持って記念撮影。

帰国して1年2カ月、待ち焦がれた朗報だが、生憎インドは目下ミッドサマー、内陸部は50度近くなる酷暑期、私の住む東インド・オディシャ州(Odisha)はマキシマム36度と比較的マイルドだが(高湿度のため体感は40度近く)、サイクロン脅威がある(乾季が明けると、長い雨季が待っている)。

水際措置終了後の空港への殺到ぶりや、航空券の高騰も懸念されるため、当面は状況静観で、タイミングを見定めたい。ちなみに、インドの絶好シーズンは11月から2月、北陸が厳寒季なので、理想的にはこの時期の帰印がもっとも望ましいのだが。

※以下、在コルカタ(Kolkata、旧カルカッタ=Calcutta)日本国総領事館から4月28日、在留邦人として届けを出している私のメールアドレス宛に送られた通知を掲げておく。

4月28日、新型コロナウイルス感染症に関する今後の水際措置の詳細が公表されました。措置の概要は以下のとおりです。

1.新型コロナウイルス感染症が「新型インフルエンザ等感染症」と認められなくなる旨公表されたことを踏まえ、4月29日午前0時以降、水際措置を以下のとおり変更します。
(1)全ての入国者に対して、「出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書」及び「ワクチンの接種証明書(3回)」のいずれも提出を求めません。

息子のRapper Big Dealは、木村屋の「こだわりラーメン」が気に入り、よく食べに通ったようだ。白味噌ラーメンは68UAEディルハム(1AED=36.76円で、約2500円)もし、たかがラーメンとは言えぬ超高価だ。

〇書評 外国人の書く日本語小説

最近、立て続けに、日本在住外国人の書く小説を読んだ。グローバル時代の近年は、街で外国人を見かけることは昔みたいに珍しいことではなく、それは石川県金沢はじめの北陸の地方都市でも同じで、国際交流祭りなどが行われ、在住外国人が芸を披露したり、模擬店を張ったり、観衆も含め、金沢にはこんなに外国人が住んでいたかとびっくりさせられる。

テレビのタレントも、ハーフや片言の日本語を話す「ガイジン」がもてはやされるご時世だけに、小説家であろうと、「ガイジン」がいて少しもおかしくないわけだが、話し言葉と違って、書き言葉は難易度が高く、喋りのようなわけにはいかない。「カナ」のみならず、漢字があるし、パソコンで打てば変換はできるが、日本語の文法をはじめ基礎知識に通じてないと、機微が必要な小説表現は難しい。何せ、ネイティブの日本人とて、登場人物の心理や風景描写を的確に表現するのは難しい世界だ。

そう考えると、生まれ育った国でない移住国の言語で小説に挑戦した「ガイジン」作家たちには脱帽、快哉を叫びたい。

ひとりは、1962年スイス・ジュネーブ生まれのデビット・ゾペティ(David Zoppetti、同志社大学国文学専攻卒、1991年テレビ朝日入社、1996年「いちげんさん」ですばる文学賞を受賞、かつ芥川賞候補となり、映画化、1998年退社し、作家に専念)が書いた、「奇跡のタッチ」(リベラル社、2023年)。

ときたま日本語表現としては首を傾げたくなる箇所がないでもないが、概ね卒なく書けており、何より内容が面白い。セネガル人(アフリカ)の足もみマッサージ師が足裏のある箇所を押すと、パラレルワールドに瞬間移動するという奇想天外な筋書きだが、長けたマッサージで心地よい仮眠状態になると、世離れした幻影を見るらしいこと(トリップに似た状態)は知っていたので、私自身はそんなに驚かなかった。

それどころか、ほんとにそんなリフレクソロジストがいるなら、ぜひ施術してもらって、パラレルに飛んで亡夫に会いに行きたいと思ったほどだ。奇異に思われるかしれないが、私は亡夫が別次元の世界で生きていることを知っている、文字通り知る、実感しているからである。

なお、あとがきに同文芸書の出版にこぎつけるまで大変苦労したらしい過程が綴られてあったが、これも外伝としては面白かった。

次の小説は1984年生まれのアメリカ人(サウスカロライナ州)、グレゴリー・ケズナジャット(Gregory Khezrnejat、2017年に同志社大学大学院文学研究科国文学専攻博士課程修了)による、「開墾地」(講談社、2023年)。

前書に比べると、より純文学的で、ほぼ完璧に近い。ネイティブ作家とて、ここまで完成度の高い作品を書くのは、よほどの力量がないと、難しい。ただし、内容は大方の人にとって、退屈だろう。

デビット・ゾペティが最近、上梓した日本語小説。デビュー作(「いちげんさん」)が映画化されただけあって、内容は面白い。カバーの黒い手が白い足裏を揉む絵も、効果的。奇跡願望が人一倍強い私はタイトルに惹かれて、この図書館新着本を借りた。

短い小説だが、途中で放り出されてしまうかもしれない。私は海外在住体験者なので、主人公がイラン生まれの継父を持ち、母が逃げたあと、彼に育てられたことで、異質の文化との否応ない接触・侵入が性格形成に及ぼした影響や、継父との今に至る入り組んだ関係、ペルシャ文化への好奇心、異人の養父に対する人間愛など、移住者文学的要素の散りばめられた作品はなかなか興味深かったが、一般的な日本人が読むには、ドラマもないし、退屈かもしれない。

しかし、純文学とはそもそもドラマのないもので、退屈と相場が決まっている。外国人でいながらにして、純文学を書きこなすまでに日本語力を磨いた努力に敬服させられた。無論、日本の古典文学にも目を通し、現在に至るまでの作品を読み込んだのだろう。でなければ、ここまで緻密な作品は書けない。なお、著者は2021年第2回京都文学賞を「鴨川ランナー」で受賞している。

日本人作家も、オタオタしていられない。「ガイジン」に乗っ取られないためにも、レベルの落ちている現代若手は気を抜かず、さらなる研鑽・努力が必要だ。これは、我が身への戒めでもあるのだが。ブラボー!「ガイジン」作家。

〇トピックス/森山良子コンサートを満喫!

4月16日日曜日、金沢駅前の石川県立音楽堂(石川県金沢市昭和町20-1、076-232-8111)で開催された「森山良子 with OEK」と銘打たれたコンサートを鑑賞した。

ちなみに、「OEK」とは、「オーケストラ・アンサンブル金沢」の略称で(詳細は末尾)、石川県金沢市ベースのオーケストラ楽団を伴奏に森山良子が美声を披露するという構成で、いわゆる森山良子個人のコンサートとは違って、OEKも主役の一旦を担う共演、県立音楽堂というOEKのための演奏会場で行われたのはそのせいだ。

かく言う私は森山良子がお目当てだったが、OEKの生演奏もきちんと聞いていなかったので(無料イベントでかじっただけ)、ちょうどいいと思い、10日ほど前にチケットの電話予約をしたのだ。

県立音楽堂には1時間以上かけて徒歩で開演1時間前に到着、地階の交流ホールで無料イベントの琵琶の弾き語りを40分ほど聞いたあと、グラウンドフロアからエスカレーターで上階に上がり、コンサートホールへ。

「森山良子 with(ウイズ)OEKコンサート」が開かれた石川県立音楽堂。金沢駅東口に位置するコンサートホール(1560席)で、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の本拠地となっている。地上5階、地下2階のモダンなビルには邦楽ホール(691席)や、交流ホール(地下1階)もある。

1番安いS席(4500円)を買っていた私は、そこからさらに2フロア上がって、3階の8列目20番席へ。購入時、既にかなり後方になると聞いていたので、期待はしなかったが、ステージを1番上から見下ろす形の遠望、席が高すぎて高所恐怖症の私は当初落ち着かなかった。

が、1部のOEKのみの迫力ある演奏を聞くうちに慣れた。40人ほどの楽団の指揮者は、渡辺俊幸(2003年8月にOEKのポップス・ディレクター就任)、本人のMCで昔「赤い鳥」というグループのドラマーをやっていたと知った。そう言えば、そんな名前のフォークグループがあったっけ、とうろ覚えながら記憶を辿る。

以後、さだまさしと組んだり(プロデュースと編曲)、アメリカ・カリフォルニアのバークレー音楽大学で学んだり、紆余曲折の果てに作曲家として立ったらしい(NHK大河ドラマ「利家とまつ」が代表作)。それはさておき、初めて本格的に聞くOEKの演奏はさすがに迫力があった。

1時間後の小休憩を挟んで、いよいよ待ちかねた2部に森山良子が登場。華麗なスカーレット色のロングドレスの裾を引きずりながら出場した歌姫はまず、ピアノ演奏だけのアカペラで、「さとうきび畑」(作詞作曲は寺島尚彦=1930-2004)を豊かな美声で披露、聴衆は沖縄戦で父を亡くした少女の思いをしっとりと情感こめて歌う、森山良子18番ソングにうっとり聞き惚れた。

次は、OEKが登壇して、森山良子のデビュー曲「この広い野原いっぱい」が繰り広げられる。壮大なスケールのオーケストラ伴奏に、75歳とは思えない若々しく声量たっぷりの歌唱力を堂々披露、さすがベテランならでは、果てはオペラの歌曲までサービスし、オーケストラの大音量に負けないよく通る美声の迫力に酔いしれた。

感極まった観衆は大拍手、ブラボー!の掛け声が3階席から鳴り響く。私にはさすがに声をあげるまでの勇気はなかったが、喝采を張り上げたくなる気持ちはよくわかった。素晴らしい1時間はあっというまに過ぎ、観客のアンコールに応えてラストソングを力唱したあと、歌姫は舞台の袖に消えた。もう1曲サービスしてもらいたくて、手が痛くなるまで拍手を続けたが、赤いドレスが再登場することはなかった。

*インド移住後のコンサート歴は3度、2012年の東京武道館で行われたザ・タイガース(1960年代末のグループサウンズ全盛期の人気No.1バンド)の復活公演、2015・2016年の福井・金沢の「The ALFEE(ジ・アルフィー)」の2公演、次に行くなら、森山良子と思っていたため、夢がかなって感無量だった。

月曜22時からのオールナイトニッポン・ミュージック10(テン)のパーソナリティも務める森山良子の隠れファンでもある私、いつかは生で美声をと焦がれていたため、思ったより早く実現して地元で聞けたことが何よりだった(昨年の「男闘呼組」復活コンサートは行けなくて残念だっが、2023年8月末まで期間限定で全国ツアーを行うらしいので、次はぜひ成田昭次の生ソングを聞きたい)。

※注:OEKについて(ウィキペディアより)。
オーケストラ・アンサンブル金沢(Orchestra Ensemble Kanazawa)は、石川県金沢市に本拠を置く日本のオーケストラ。室内管弦楽団としては多目の団員30数人を擁し、二管編成管弦楽曲を主なレパートリーとする。

1988年に石川県と金沢市が中心となり設立した財団法人石川県音楽文化振興事業団を運営母体とし、2001年からは石川県立音楽堂を本拠地とし、定期演奏会を行なっている。初代常任指揮者には音楽監督の岩城宏之の推挙により、天沼裕子が就任した。通称は「アンサンブル金沢」、略称は英語名「Orchestra Ensemble Kanazawa」の頭文字を取って「OEK」であるが、「アンカナ」と呼ぶ人もいる(東京編2は次回)。

(「インド発コロナ観戦記」は、92回から「インドからの帰国記」にしています。インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いてきましたが、92回からはインドからの「帰国記」として随時、掲載します。

モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子の「Rapper Big Deal」はラッパーとしては、インドを代表するスターです。

2023年5月7日現在(CoronaBoardによる)、世界の感染者数は6億8332万9996人(前日比9774人増)、死亡者数が686万5701人(43人増)、回復者数は6億1704万7537人(9997人増)。インドは感染者数が4496万7250人、死亡者数が53万1659人、回復者数が4440万5550人、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は1億0676万7388人、死亡者数が116万2427人、回復者数は1億0471万0726人、5月7日現在の日本は感染者数が3379万3429人(前日比1万4436人増)、死亡者数が7万4654人(9人増)、回復者数が2174万6389人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む、800人増)。編集注は筆者と関係ありません)