人間味のある役柄を演じる主人公が魅力的な「MEMORY」(368)

【ケイシーの映画冗報=2023年5月25日】すこしまえに、「年齢はただの数字でしかない」という表現が、海外のベテラン女優から発せられました。

現在、一般公開中の「MEMORY メモリー」((C)2021 BL Productions LLC; Allplay Legend Corporation)。

日本でも最近は“超高齢化社会”や“人生100年時代”といった言葉を耳にする機会が増えています。否が応にも生きているかぎり、加齢は避けられない事象です。

本作「MEMORY メモリー」(原題・Memory)で、犯罪組織の依頼を正確にこなしてきたベテランの殺し屋アレックス(演じるのはリーアム・ニーソン=Liam Neeson、1952年生まれ)は、引退を決意します。肉体の衰えよりも、認知症の進行が原因でした。

最後の仕事を生まれ故郷のテキサス州ではじめたアレックスですが、最後のターゲットを見逃してしまいます。メキシコからの違法入国の少女であったためです。“子どもは決して手をかけない”という決意のためでした。

収監施設で少女が一度は襲われながらも難を逃れたのに、ついには殺害されたことを知ったFBI捜査官のヴィンセント(演じるのはガイ・ピアース=Guy Pearce)は、この少女の殺人が、アメリカとメキシコの国家間での人身売買と売春組織が関わっていることをつきとめ、彼女の死が証人を消し去ることだったと確信します。

いっぽう、組織を裏切ったアレックスは、孤独な闘いを余儀なくされていました。元殺し屋とFBI捜査官というふたりは、やがて地元テキサスの大富豪の女性ダヴァナ(演じるのはモニカ・ベルッチ=Monica Bellucci、1964年生まれ)が、一連の事件に大きく関わっていることを知ります。

たったひとりで闘うアレックス、上層部からの圧力で捜査が行き詰まったヴィンセント。両者はかすかな接点から協力することになるのでした。

アレックスを演じるリーアム・ニーソンは、個人的に好きな俳優です。190センチをこえる長身をアマチュア・ボクシングで鍛えたニーソンがアクション・スターとして開花したのは2008年の「96時間」(Taken)でした。パリで誘拐されたひとり娘を奪回するために闘う、もと特殊工作員の父親を魅力的に演じたことで、そこからアクション作品への出演が一気に増えていきました。もちろん、それまでも好演していたニーソンでしたが、50代半ばでの新たな境地に足を踏み入れたのです。

肉体を駆使するアクション作品がふえたこともあってか、5年前のインタビューでも、日々のトレーニングは欠かさず、小麦をとらない“グルテンフリー”の食生活を送っていると語っていました。
「俳優という職業は華やかなイメージを持たれるが、体調を整えることや、時間どおりに撮影現場に行くといったことが最も重要なんだ」(2018年3月23日付読売新聞夕刊)

こうしたかれの真摯な取り組みは、監督のマーティン・キャンベル(Martin Campbell)も高く評価しています。「リーアムは、一緒に働くにあたって本当に素晴らしい人物だ。完璧に準備を整えてから仕事にのぞむ彼を、私は本物の“役者”だと心の底から思っている」(パンフレットより)

このように述べるキャンベル監督も1943年生まれで、テレビ界でのキャリアをふくめれば40年以上になるベテランです。

本作でクセの強いパワフルな富豪女性を演じたモニカ・ベルッチも、映画界で30年以上、活躍しています。演じたダヴァナが、自分の美容に熱心なことについて、「時間をコントロールすることなんて不可能なのに」と語り、「私は年を取ることは、いいことだと思います。(中略)年齢を経ることで新たな役柄を演じる機会が与えられますから」(パンフレットより)と、ポジティブな姿勢を見せています。

精悍ながらも、すこしオナカの出た(多分、メーキャップでしょう)容貌のアレックスが、備忘録として自分の腕にメモを書いたり、銃撃戦でも一瞬、モタつくといった、病状と人生の経過を感じさせる表現があちこちにあり、プロフェッショナルとして活動していながら、“年齢を重ねれば必然”という人間味のあるキャラクターとして、なんとも魅力的です。これこそが、時間によって醸成された演技・表現力の発露だと感じます。

「たとえば今、35歳のアクションをしたくない。それは観客を侮辱することにつながると思っている。70歳であれば70歳に見合ったアクションを、常に演じたい」(2023年4月28日読売新聞夕刊)と語るニーソンですが、本年の3月には「ブラックライト」(Blacklight、2022年)、6月に「探偵マーロウ」(Marlowe、2023年)と 主演作がつづき、待機しているアクションが主体の主演作も複数ひかえ、さらにコメディ映画の主演作も噂される、年齢を感じさせない活躍が楽しみな俳優です。

次回は「65/シックスティ・ファイブ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。。

編集注:本作はベルギーの作家、ジェフ・ヒーラールツ(Jef Geeraerts、1930-2015)の小説「De Zaak Alzheimer(アルツハイマー事件)」を原作とし、同小説を映画化した2003年のベルギー映画「ザ・ヒットマン」のリメイク作品で、アメリカでは2022年4月29日に公開されている。