よき映画人のクルーズの側面が出ている新「ミッション」(373)

【ケイシーの映画冗報=2023年8月3日】本作「ミッション:インポッシブル(MI)/デッドレコニング PART ONE」(Mission:Impossible Dead Reckoning Part One)のプロデューサーで主演のトム・クルーズ(Tom Cruise)は、最大の見せ場となっている、海抜1200メートルの断崖からバイクでジャンプして自由落下しながら、地上から152メートルでパラシュートを開くという、もっとも危険なスタント・シーンに挑んだ理由をこう語っています。

現在、一般公開中の「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.)。

「あれはパンデミックの真っ只中であり、『我々は止まらない。この業界のためにできることはすべてやる』と決めていました」

ここまでの決意を固めたのは、コロナウィルスの影響で本作の撮影が中断され、劇場公開の予定も延期されていたタイミングでしたので、プロデューサーとしての責任も重なっていたことが想像されます。

もちろん映画の撮影なので、入念な準備と万全の体制であったのは当然ですが、危険であることは間違いありません。

影のスパイ組織IMF(Impossible Missions Force=不可能作戦部隊)のエージェントであるイーサン・ハント(演じるのはトム・クルーズ)が今回狙うのは、極秘に開発された危険なAI(人工知能)技術の確保で、その正体も行動理由も判然としないまま、鍵となるアイテムをもとめ、イーサンは仲間たちと任務にあたります。

そこに、イーサンと過去を共有する敵であるガブリエル(演じるのはイーサイ・モラレス=Esai Morales)も加わり、そのアイテムを手にしようとイーサンたちに闘いを挑んできます。イーサンらIMFのメンバーは任務を果たすことができるのか。

最近のハリウッド映画では、「じつは2部構成でした」という作品が少なくありません。最初から作品の構成を披露してしまうと「観客に新鮮なインパクトを与えることができない」ということかも知れませんが、前編をしくじれば、観客に「付き合ってられない」と無視されてしまう懸念も生じますから、危険でもあります。

1作目の「ミッション: インポッシブル」(Mission:Impossible、1996年)から、映画のプロデューサーとして本格始動することになったトム・クルーズは、
「僕は常に自分に高いハードルを課し、自分自身に多くを期待しています。どうすれば観客の皆さんに貢献できるのかということに対して、決して現状に満足はしたくないのです」(いずれも「ミッション:インポッジブル/パーフェクトガイド」より)

個人的にトム・クルーズを意識するようになったのは、彼のキャリアでも初期の映画「タップス」(Taps、1981年)で、血気盛んな士官候補生を演じているのを見てからです。忠実な軍人として活動しているうちに、狂気にとりつかれる若者を見事に演じ、強く印象に残りました。

それから40年以上、私生活や仕事上のトラブルにも直面していますが、ハリウッドでも有数のスターであり、ヒット作を生み出すプロデューサーとしての活動はだれもが知ることとなっています。

その一方で、自身をパロディーにした作品や、大スターなら忌避するようなコミカルな演技も披露していて、本当に映画の世界が好きなんだろうと実感させます。

本シリーズも初期には「トム・クルーズのオレ様映画」といった、プロデューサー兼任の独断専行を揶揄するようなコメントもありましたが、現在では、5作目から監督を専任しているクリストファー・マッカリー(Christopher McQuarrie)をはじめ、スタッフ、キャスト陣とも良好な関係を維持できるようなので、その面でもトム・クルーズのよき映画人の側面がでていると感じます。

ご本人の責ではないのですが、残念なことがあります。本年7月14日から、全米映画俳優組合(Screen Actors Guild-American Federation of Television and Radio Artists、略称:SAG-AFTRA)がストライキを決行し、先にストを実施していた全米脚本家組合(Writers Guild of America、略称:WGA)とともに、ほとんどの俳優が映画やドラマの撮影、宣伝活動を見送られていることです。

続編の撮影が完了していないということなので、この続きがいつ見られるのか(予定では1年後)、わからない状況であること。さらにこれまでの6作品の公開時に来日し、その魅力をアピールしてくれたトム・クルーズの、日本でのイベントも中止となってしまったことです。

ご本人はいち観客として、アメリカの劇場に足を運んでいるそうです。プライベートで映画を見ることまで、組合は規制していないのでしょう。なお、この脚本家と俳優のストライキは、「映像作品にAI技術が使われることで、仕事の機会を奪われる」という危機感から発生したものです。奇妙な一致を感じてしまうのはうがちすぎでしょうか。次回は「マイ・エレメント」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「ミッション: インポッシブル」(原題:Mission:Impossible)シリーズは1966年から1973年まで「スパイ大作戦」(原題:Mission:Impossible)としてCBS系で放送されたアメリカのテレビドラマで、171話が放送された。

日本では1967年4月8日からフジテレビ系列で放送された。アメリカ政府が手を下せない極秘任務を遂行するスパイ組織「IMF(Impossible Mission Force)」のメンバーの活躍を描くアクションドラマで、原題の「Mission:Impossible」とは「実行不可能な指令」という意味。原案はプロデューサーのブルース・I・ゲラー(Bruce Israel Geller、1930-1978)で、この「スパイ大作戦」によりエミー賞を受賞している。

また、アメリカでは続編として1988年10月23日から1990年2月24日までABC系で「新スパイ大作戦」(原題: Mission:Impossible)35話が放送された。日本では1991年3月から10月まで日本テレビ系で放送された。

映画の「ミッション:インポッシブル」(Mission: Impossible)シリーズは1996年からはじまり、2023年時点で8作が制作されている。トム・クルーズが製作し、主人公のイーサン・ハントを演じている。2作目は2000年の「M:I-2」(原題:Mission:Impossible 2)、3作目は2006年の「M:i:Ⅲ」(原題: Mission:ImpossibleⅢ)、4作目は2011年の「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(原題:Mission:Impossible Ghost Protocol)。

5作目は2015年の「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(原題:Mission:Impossible Rogue Nation)、6作目は2018年の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(原題:Mission:Impossible Fallout)、7作目は2023年の「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(原題:Mission:Impossible Dead Reckoning Part One)、8作目は2024年6月公開予定の「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART TWO」(原題:Mission:Impossible Dead Reckoning Part Two)となっている。

米バラエティ誌は、この2作をもって主演のトム・クルーズはイーサン・ハント役を引退すると報じている。また、コロナによる度重なる遅延(合計7回ほど撮影が中断されている)により製作費は膨れ上がり、推定総予算は2億9100万ドル(1ドル=130円で378億3000万円)と見積もられ、これまでの歴代のハリウッド映画の中でも高額な作品の1つで、シリーズ中の最高額であり、トム・クルーズ自身のキャリアの中でももっとも高額な映画となっている。