【銀座新聞ニュース=2023年11月6日】国内時計業界第3位のセイコーホールディングス(中央区銀座1-26-1)グループの百貨店、和光(中央区銀座4-5-11、03-3562-2111)は11月9日から19日まで6階の「セイコーハウス銀座ホール」で「融合する工芸ーコレが答えだ」を開く。
漆芸、竹工芸、陶芸、金工、木彫、日本画、デジタルアート、建築の分野で活躍する8人が集い、お互いの素材と技を融合させた作品を出品する。
2014年に漆芸家の若宮隆志さんと竹工芸家の四代田辺竹雲斎(ちくうんさい)さんが、自分たちが愛する日本の手仕事を未来に伝えることを目的に「融合する工芸」プロジェクトを立ち上げた。新しい工芸を生み出すことをめざした2人に共感したアーティストが加わり、その活動の集大成が今展としている。
「融合する工芸」プロジェクトは2014年に第1回「融合する工芸 出会いがみちびく伝統のミライ」を旧和光ホールで開き、2016年に大阪高島屋美術画廊で第2回「融合する工芸 旅に出たヤドカリのはなし」、2018年に旧和光ホールで第3回「融合する工芸 見つけた伝統のアシタ」と過去3回開いている。
「融合する工芸」では、複数の作家が合作して1つの作品を作るというコラボが基本のため、時間と費用が普段の何倍もかかる。今回、展覧会にかけた想いと、作品を未来に伝えるための記録としてアートブックを制作するにあたり、クラウドファンディングを通じて費用の一部を募っている。
今回、アートブックの制作については、京都女子大学教授の前崎信也さんが監修を務めている。また、アートブックに掲載する作品の撮影は「融合する工芸」開始時から撮り続けているみなもと(さんずいに「首」)忠之さん、デザインは「シルシ」(大阪府大阪市西区北堀江2-3-3、久竹ビル、06-6539-5659)の上田英司さんが担当している。
今回、参加しているのは木彫の小黒アリサさん、アメリカ・ハーバード大学建築学部准教授で、建築・デジタルアートの貝島佐和子さん、京都市立芸術大学准教授で、漆芸の笹井史恵さん、日本画の田島周吾さん、竹工芸の四代田辺竹雲斎さん、「自在置物師」の満田晴穂(みつた・はるお)さん、京都市立芸術大学准教授で白磁の若杉聖子さん、「彦十蒔絵」主宰の若宮隆志さんの8人。
若宮隆志さんは1964年石川県輪島生まれ、1984年に塗師屋に就職、輪島塗りの基礎を学ぶ、1988年から母や先輩より、塗りと乾漆・蒔絵技法を習い、独学にて勉強し、1994年に輪島民芸家具工房を立ち上げ、自宅の木材などを用いて家具や器を家族で制作、1998年に漆木の植樹と漆掻き漆の天日黒目を始め、2002年に「輪島漆器青年会」の会長を務め、2004年に漆芸の職人集団「彦十蒔絵」を立ち上げ、2014年に平成26年度文化庁文化交流使に指名、同年に「国際漆展・石川2014」で大賞を受賞している。現在、輪島漆再生プロジェクト実行委員会代表。
四代田辺竹雲斎さんは1973年大阪府堺市生まれ、東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業、大分県別府市の竹工芸訓練支援センターで2年間竹の編組、基礎技術を学び、実家に戻り、父親の三代田辺竹雲斎(1941-2014)の下で竹工芸を学び、2001年にアメリカ・フィラデルフィア美術館クラフトショーに招待出品し、2010年にドイツ・バイエルン賞を受賞、2012年に内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人プロジェクト」に選出・表彰され、内閣府からの派遣でフランス・パリ装飾美術館で作品を発表、2012年に大阪・正木美術館にて竹インスタレーションを発表している。
2015年にタカシマヤ美術賞を受賞、アメリカ・NY MAD美術館でデモンストレーションを行い、フランスのフランス迎賓館で「Beyond connection(ビヨンド・コネクション)」を制作、2016年にフランス国立ギメ美術館でインスタレーション作品「五大」を発表、第63回日本伝統工芸展で日本工芸会奨励賞、2017年に四代田辺竹雲斎を襲名、同年にブラジルサンパウロ・ジャパンハウスにて竹インスタレーション「天と地」を制作、2019年にトルコのオドゥンパザル近代美術館開館記念展にて竹インスタレーションを制作、2022年に芸術選奨文部科学大臣新人賞、大阪文化賞を受賞している。
小黒アリサさんは1990年東京都生まれ、2013年に武蔵野美術大学造形学部彫刻学科を卒業、同年に武蔵野美術大学卒業制作展で優秀賞を受賞している。2013年から個展を開いている。最近は生きものが持つ丸みをデフォルメした「球獣」というシリーズを制作している。
貝島佐和子さんは1976年東京都生まれ、1999年に慶応義塾大学環境情報学部を卒業、2005年にマサチューセッツ工科大学大学院建築学部を修了、2006年にロンドン建築構造設計事務所「Adams Kara Taylor(アダムス・カラ・テイラー)」のComputational Designer(コンピューテイショナル・デザイナー)として着任、2011年にシンガポールデザイン工科大学建築学部アシスタントプロフェッサー、2017年にアメリカ・ハーバード大学ラドクリフ研究所アシスタントプロフェッサー、建築学部アシスタントプロフェッサー。2013年に先端工芸分野の研究として複合素材嵌合接合研究を発表している。
笹井史恵さんは1973年大阪府生まれ、1996年に京都市立芸術大学工芸科漆工専攻を卒業、1998年に同大学院美術研究科漆工専攻を修了、2003年から2005年までタイ国立チェンマイ大学にて滞在、制作(ポーラ美術振興財団、ユニオン造形文化財団在外研修助成)し、2014年に京都市芸術新人賞、2015年に第25回タカシマヤ文化基金でタカシマヤ美術賞、第33回京都府文化賞で奨励賞、2022年に第35回京都美術文化賞を受賞している。現在、京都市立芸術大学准教授。
田島周吾さんは1974年京都府生まれ、1997年に京都造形芸術大学(現京都芸術大学)を卒業、在学中の1996年に「青垣2001年日本画展」で東京新聞社賞(1997年に優秀賞)、1999年に「第1回トリエンナーレ豊橋」で入選、2000年に「雪舟の里総社墨彩画展」で奨励賞、「京都美術工芸展」で優秀賞、京都府買上げ、2014年に「第2回郷さくら美術館桜花賞展」で大賞を受賞している。
満田晴穂さんは1980年鳥取県米子市生まれ、千葉県育ち、2006年に東京藝術大学美術学部工芸科を卒業、在学中に自在置物師・冨木宗行に弟子入りし、「自在置物作家」をめざす。同年に東京藝術大学の工芸学生を対象とする原田賞奨学基金を受賞し、「全日本金・銀創作展」で開催委員会会長賞、2008年に同大大学院美術研究科修士課程彫金研究室を修了、在学中の2007年に「第2回藝大アートプラザ大賞」で大賞、2008年に「第48回日本クラフト展」で入選、2017年に「平成28年度日本文化藝術奨学金」でおいて「第8回創造する伝統賞」を受賞している。
ウイキペディアによると、自在置物とは日本の金属工芸の一分野で、鉄や銅、銀、赤銅(金と銅の合金)、四分一(しぶいち、銀と銅の合金)などの金属板を素材として、龍、蛇、鳥、伊勢海老、海老、カニ、蝶といった動物の模型を写実的に作り、しかもそれらの体節、関節の部分を本物通りに動かすことをも追求し、複雑な仕組みを内部に施すのが大きな特徴となっている。
江戸時代の中頃、戦乱が絶えて武具類の需要が減少し、これを受け、甲冑師の一部には技術伝承と収入源を兼ねて、本業である甲冑のほかに、鍔(つば)や轡(くつわ)などの武具、馬具や火箸、花瓶、箱といった民具を鉄で製造販売する者が現れた。自在置物もこうした流れの中で甲冑師、とりわけ明珍(みょうちん)派の工人らによって生み出された工芸品で、鉄の打ち出し、加工に関して卓越した技術を保有し、自在置物の表現や細工にもそれが活かされている。
先行例として「元禄八(1693)年五月吉日」と「明珍宗介(1642-1726)」の銘が入った鷲の置物の残欠が確認されている(V&A博物館所蔵)。この作品は首が左右に動く構造になっており、翼の形や羽模様の描写の写実性が高いことから、外観の写実表現を超える形で、やがて動きも自在にとれる置物が考案されたと推測される。自在置物として完成した作品のうち、現存最古の年号が記されたものは、「正徳三癸巳歳六月日」(1713年)の銘が刻まれた明珍宗察(むねあきら、1682-1751)作の龍の置物(東京国立博物館所蔵)である。
近代以降も一部の金工家に製作技術が継承されるが、明治から昭和にかけては京都の高瀬好山(たかせ・こうざん、1869-1934)と冨木家一門のグループが中心となり、自在置物の作品を量産している。
若杉聖子さんは1977年富山県富山市生まれ、2000年に近畿大学文芸学部芸術学科陶芸コースを卒業、2002年に第6回国際陶磁器展美濃で入選、2003年に岐阜県多治見市陶磁器意匠研究所を修了、2005年に第7回国際陶磁器展で美濃審査員特別賞、2007年に工芸都市高岡クラフトコンペティションで奨励賞、2015年から2016年に文化庁新進芸術家海外研修員としてフランス・リモージュで学んだ。
2011年から2019年まで京都精華大学非常勤講師、2018年から2019年に滋賀県立陶芸の森アーティスト・イン・レジデンス ゲストアーティストに選ばれ、2019年に京都市立芸術大学講師、2020年に京都市立芸術大学准教授。2020年に兵庫県芸術奨励賞を受賞している。鋳型に流し込む鋳込み技法を用いた白磁の作品を制作している。
11日と12日の14時から出展者によるギャラリートークを開く。事前予約制で、和光美術部で電話(03-3562-2111)で受け付ける。
また、8日18時から21時まで「THE GRAND GINZA(グランド銀座)」(中央区銀座6-10-1、、GINZA SIX13階)で出展者によるトークショーとディナーパーティーを開く。参加費用は1人5万円、アートブック(全員のサイン入り)をつけると7万円。
開場時間は11時から19時(最終日は17時)まで。入場は無料。