【ケイシーの映画冗報=2024年8月15日】日本では、世の中で恐ろしいものを「地震・雷・火事・おやじ」と順位づけして並べています。天災や失火といった“非日常的な”要素に“おやじ”という、きわめて日常的な表現を加えることで、ユーモラスなイメージを抱いてしまいますが、本来は“大山嵐(おおやまじ)”や“大風(おおやじ)”という「強風や台風を意味する」ことばが変化したものだという意見もあります。
天変地異といいますか巨大災害の代名詞が日本では「地震」であり、日本映画でも「地震列島」(1980年)や「マグニチュード 明日への架け橋」(1997年)といった作品が生み出されています。
現実に本年1月1日の能登地震、今月8日の宮崎県、9日にも神奈川県で大きな地震が起きており、「地震列島」というタイトルが単なる誇張ではないことが実感されています。
これがアメリカになりますと、国土が広いこともあって、太平洋岸では地震が多発していますが、南部や南東では台風(ハリケーン)が大被害をもたらします。そして、中西部で一番、危険なのがツイスター(竜巻)なのです。
本作「ツイスターズ」(Twisters、2024年)の舞台はアメリカ、オクラホマ州です。ツイスターの多発地帯で女子学生のケイト(演じるのはデイジー・エドガー=ジョーンズ=Daisy Edgar-Jones)たち5人のクラスメートは、「ツイスターを制御可能にする」という卒業研究に熱中していましたが、事故で3人の仲間を喪います。
5年後、心と体に傷を負ったケイトは故郷をはなれ、ニューヨークで気象予測の仕事に就いていました。そこへ旧友で、事故でのもう一人の生存者ハビ(演じるのはアンソニー・ラモス=Anthony Ramos)が訪ねてきます。スポンサーを得て、研究チームを立ち上げたハビに請われ、ケイトは短期間という約束で故郷のオクラホマ州へもどり、ツイスターの行動分析を手伝うことにしました。
現地にはいくつもの“追跡者(チェイサー)”のチームがいて、なかでもネット配信で人気者となったタイラー(演じるのはグレン・パウエル=Glen Powell)のチームは危険なツイスターの中にも突入し、派手なパフォーマンスで有名な存在でした。
そんななか、ツイスターの“研究”と“実況”という、異なった目的で張り合うハビとタイラーのチームを見ていて、ケイトに過去の情熱が蘇ってきます。
「予想しても、実況しても、被害を防ぐことはできない」“ツイスターを手なずける”というケイトの研究とは。
本作「ツイスターズ」は1996年のハリウッド映画「ツイスター」(Twister)の正式な続編となっています。前作はコンピュータグラフィックスが映画界に本格導入された時期でもあり、監督したヤン・デ・ボン(Jan de Bont)の次回作が、ハリウッド版「ゴジラ」(この企画は頓挫)と報じられていたことから、まるで「大怪獣のように」荒れ狂うツイスターの猛威と恐ろしさが、観客に強いインパクトをあたえました。
興味深いのは出演者のデイジーや監督のリー・アイザック・チョン(Lee Isaac Chung)らが、子どもの頃に前作の「ツイスター」を観て、深い感銘を受けたということでしょう。前作より30年ちかくの年月を経ているのですから、当然ではあるのですが。
イギリス生まれのデイジーにとって、前作は、「興奮と恐怖に満ちたスリル満点の乗り物みたいだった」と、見知らぬ世界への気持ちを語っています。
チョン監督は作品の舞台となったオクラホマ州に近い、アーカンソー州にいた頃、オリジナルを鑑賞したそうです。ツイスターが身近にあった環境でしたが、「少年だった僕はその映像に魅了された」そうで、超大作である本作の監督となったときには、「夏の超大作映画という領域への転換に恐怖を感じた」そうです。
本作までのチョン監督は、小粒な良作を手がけることが中心でしたから、そのプレッシャーはかなりものであったと想像されますが、こう取り組みました。「恐怖から逃げるのではなく、恐怖に向かって飛び込んでいきたいと思ったんだ」(いずれもパンフレットより)
こうした部分は、本作に描かれている、一見無謀と思えるような行動をとる“チェイサー”のタイラーに投影されているように感じます。そして、前作への確かな尊敬も感じました。前作では観測装置“ドロシー”が登場しますが、本作では観測レーダーが“かかし”“ぶりき男”“ライオン”と名付けられ、三位一体で活躍します。いずれも主人公の少女ドロシー(Dorothy)が竜巻で異界に引きこまれる「オズの魔法使」(The Wonderful Wizard of Oz.1939年)のキャラクター名です。鑑賞中、おもわずニヤリ、としてしまいました。
次回は「フォールガイ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。