【ケイシーの映画冗報=2024年10月24日】2019年、アメコミのブランド“DCコミックス”の古参キャラクター「バットマン」(Batman)の悪役(ヴィラン)のジョーカーを主役とした映画「ジョーカー」(Joker)は、R指定(17歳未満の鑑賞には保護者の同伴が必要)という制約のなか、全世界の興行収入が10億ドル(1ドル=145円で、約1450億円)を記録し、当時のR指定作品として最大のヒットとなりました。「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」(2024年、Joker:Folie a Deux)は、その続編となっています。
アーサー(演じるのはホアキン・フェニックス=Joaquin Phoenix)は、精神的な疾病を抱えた若者で大道芸人として活動していましたが、ピエロのメイクをした“ジョーカー”として出演したテレビ番組で射殺事件を起こし、収監されながら裁判の日を待っていました。
そんななか、アーサー=ジョーカーに憧れているという女性リー(演じるのはレディー・ガガ=Lady Gaga)と知り合います。自宅に火を放ったというリーにアーサーは理解を示し、彼女の求めに従って、ジョーカーとして振る舞うようになり、その姿で出廷するようになります。
“鬱屈した社会を打破する悪のヒーロー”として一部の人々に熱狂されるジョーカー=アーサーですが、その内部には別の一面が隠されているのでした。
監督・脚本のトッド・フィリップス(Todd Phillips)、アーサー=ジョーカーを演じるホアキン・フェニックスは前作に続いていますが、監督は1作目の反響と本作への期待に、かなりのプレッシャーを感じていたそうです。
「1作目はひっそりと撮ること出来たが、2作目はみんなが『(撮影現場で)何が行われているかを知りたい』というような状況の中、戦々恐々としながら作りました」(2024年10月18日付読売新聞夕刊)
そして、続編のコンセプトについてはこう語っています。
「同じ世界にありつつ、1作目とは全然違うものをどうやって作れるのだろうかと。ホアキン(フェニックス)は、一度も続編に出たことがない。彼が新しいと感じるものでなければならない。1作目の時のように、彼が、緊張する、怖いと思うようなものでないと。彼はそういう作品に興奮するんだ」(「映画秘宝」2024年12月号)
前作では、大事をなし遂げたアーサーがジョーカーとなって、タバコをふかしながら階段でのダンス・シーンが観客の印象に強く残ります。なにか別の次元へと足を踏み入れた狂気と歓喜がないまぜとなって、その全身からにじみ出てくるのでした。アーサーがジョーカーに脱皮(ただしくは自身でするメイクですが)したかのような高揚感を表現したフェニックスは、この作品でアカデミー主演男優賞に輝くのです。
アーサー=ジョーカーの表現は徹底しており、ヘビー・スモーカーの設定で、アーサーのときは右手で、ジョーカーのときは左手でタバコを手にしています。銃を扱うときも左手でしたから、これはジョーカーとしての犯行であると示唆しているのではないでしょうか。
こうした“反逆のヒーロー”であった前作にくらべると、本作では、アーサー=ジョーカーの暴力衝動は押し出されていません。設定として収監中であり、裁判への出廷が主要なシーンということもあるのでしょうが、バイオレントなジョーカーを想定していると拍子抜けとなるかもしれません。
演じたフェニックスはフィリップス監督と前作の撮影中から話し合いをしていたそうです。
「私たちは二人とも、当時からこのキャラクターにはもっと掘り下げるべきものがあると感じていたし、この映画の前作から物語は続いていながらも、アーサーを異なるトーンで演じるという挑戦的なアイディアが気に入っていました」(パンフレットより)
また、前作でのダンスではなく、歌が重要なモチーフとなっています。ジョーカーに深くかかわることになるリー役のレディー・ガガがトップクラスのミュージシャンということもあるのでしょうが、通常なら歌唱シーンの歌声はあとでレコーディングするのですが、今回は実際に歌いながら撮影したそうです。
かつて映画界をはなれ、ミュージシャンとして活動したり、俳優としてシンガーソングライターを演じてきたフェニックスにとっても、“生の歌声”はプレッシャーだったそうですが、両人とも演じるのは本職ではないのですから、かえって完璧ではない部分のリアルさも必要とされたのではないでしょうか。
さまざまな意味で“前作をはずしている”本作は、評価が広く分かれていますが、個人的にはこれも続編映画の一つの形であると感じました。完成度だけが映画の評価ではありませんから。次回は、「八犬伝」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。