【ケイシーの映画冗報=2024年11月21日】映画界にはかつて、“季節モノ”とでも表現できるプログラムが存在しました。毎年夏には、日本の戦争や終戦を扱う邦画があり、年末年始にはちょうどその頃に起きた「元禄赤穂浪士による討ち入り」を題材とした“忠臣蔵”をテーマとした作品が上映されたり、テレビで放送されたりしていました。
とくに“忠臣蔵”は歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」が興行成績が不信のおりでも、必ず大入りすることから、よく効く漢方薬になぞらえて“芝居の独参湯(どくじんとう)”と称されたといわれています。
現在の日本映画に“季節感”は希薄だといえるでしょう。人気アニメのシリーズ作品のいくつかは、毎年おなじ時期に公開されますが、その内容については、時節に縛られるということは、あまり見受けられません。
それにくらべると、ハリウッドがメインですが、海外作品のほうが、シーズンごとにテーマを固めた作品が存在します。クリスマスやプレゼント、サンタクロースは冬のシーズンの定番中の定番といえるでしょう。
とはいえ、一般的なサンタクロースやクリスマスが表現されることはまれで、ホラー風味やコメディタッチ、なかにはサンタクロースが大暴れするアクション作品と、バラエティに富んでいます。クリスマスイヴに豪邸を襲った武装集団とサンタクロース(前世が豪腕の戦士)が激しく戦うという「バイオレント・ナイト」(Violent Night、https://ginzanews.net/?page_id=61978)を本稿でとりあげたこともあります。
本作「レッド・ワン」(Red One)もアクション作品で、サンタクロースが中心ですが、活躍するのは当人ではありません。数百年にわたり、クリスマスイヴに世界中の子どもたちにプレゼントを配るサンタクロース(演じるのはJ・K・シモンズ=J.K.Simmons)は、本物のサンタであることを隠して、子どもたちと交流することを何よりの楽しみにしていました。
“レッド・ワン”というコードネームで活動するサンタには、ジェット戦闘機よりも早く飛行できるソリと、北極で厖大なプレゼントを用意するサポートのメンバーの協力で、毎年のプレゼント作業をこなしていたのです。専門の護衛チームもあり、リーダーのカラム(演じるのはドウェイン・ジョンソン=Dwayne Johnson)は、心優しき巨漢で、サンタの身辺を守り、時にはトレーニングのパートナーとして支え、万全の体制で年に一度の仕事に励んでいたのです。
そんな厳戒体制にある“レッド・ワン”がイヴの前日、誘拐されてしまいます。動揺するカラムに、神話世界を保護するMORAの長官ゾーイ(演じるのはルーシー・リュー=Lucy Liu)が手がかりをもたらします。裏社会の優秀な情報屋であるジャック(演じるのはクリス・エヴァンス=Chris Evans)が、サンタの居場所を捜索した形跡があるというのです。
唯一の手がかりであるジャックとともに“レッド・ワン”を探すためにコンビを組むカラム。謹厳実直で生真面目なカラムに対し、放埒な生活で実の息子にもキチンと向き合うことをしないジャックはまさに水と油。なんとか協力し合って行動するふたりは、誘拐犯人がサンタと同様に神話の世界に存在する“クリスマスの魔女”とも呼ばれるグリラ(演じるのはキーナン・シプカ=Kiernan Shipka)であることを知ります。
サンタと敵対するグリラは、プレゼントをもらえない“悪い子リスト”を使い、悪童をこの世界から一掃するという、恐ろしい計画を企てていたのです。カラムはサンタを、ジャックは捕えられてしまった息子を解放することができるのか。そして、クリスマスイヴにサンタは本来の仕事に従事できるのでしょうか。
子どものころは、楽しみで仕方のなかった“サンタさんのプレゼント”ですが、いつのまにか、その感性が現実を則していないということに気付くことになります。本作でもジャックが子どものころ、「サンタなんかいない」と語る場面があり、「子どもが成長する通過儀礼」というのも事実でしょう。
こうした部分はたしかに現実なのですが、その通過儀礼を経て、大人になった御仁でも、人生のなかで子どもを授かると、「サンタさん」を語るように趣旨がえするのを幾度となく、見聞しています。
本作のスタッフ、キャスト陣も信じているはずです。
「サンタさんはいないより、いたほうが楽しい」
そうでなければ、“本気”で2億5000万ドル(製作費、1ドル=145円換算で362億5000万円)もの超大作が成立することはないはずです。「本気で楽しむ」のは大人でも子どもでも、人間にとって大切なことだと思いますので。
次回は、「ドリーム・シナリオ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。