鍛えた主人公が他のアクション映画とは違う「ビーキーパー」(411)

【ケイシーの映画冗報=2025年1月16日】今回は「ビーキーパー」(原題はThe Beekeeper、アメリカ・イギリス合作)です。アメリカの片田舎で養蜂家(ビーキーパー)をしているアダム(演じるのはジェイソン・ステイサム=Jason Statham)は、ミツバチとハチミツ、そして養蜂場を提供してくれた隣人のエロイーズ(演じるのはフィリシア・ラシャド=Phylicia Rashad)とだけ交流する孤高の人物でした。1月3日から一般公開されている「ビーキーパー」((C)2024 Miramax Distribution Services, LLC. All Rights Reserved.)。

ある夜、エロイーズ宅の異変にアダムは気づきます。彼女はネット詐欺によって全財産を失ったことで、失意のなか、自ら命を絶ったのでした。その光景に愕然(がくぜん)とするアダムは、訪れた女性に拘束されます。彼女はエロイーズの娘であるヴェローナ(演じるのはエミー・レイヴァー=ランプマン=Emmy Raver-Lampman)で、FBI捜査官としてアダムを殺人犯と判断したのですが、捜査の結果、彼の無実と実母の自殺を受け入れていきます。

自由となったアダムは、極秘のルートで情報を入手し、ネット詐欺を働いたデータ会社を突き止め、数人のガードマンを一瞬で制圧、会社をビルごと吹き飛ばします。さらに、その元締めであるIT企業の若き経営者、デレク(演じるのはジョシュ・ハッチャーソン=Josh Hutcherson)にも挑戦状を叩きつけました。

アメリカ政府ですら警戒する最強の秘密機関「ビーキーパー」の元エージェントというアダムの過去を知り、恐怖をおぼえるデレクでしたが、そのバックには国際的な複合企業があり、さらに実母は世界でも有数の権力を持つ人物でした。

ヴェローナもアダムを追いかけますが、つねにアダムに先行されます。やがてそのターゲットが実母を自殺に追い込んだ人物であることを知ったヴェローナには、アダムへの共感も生まれてきます。

そして、アダムは世界最高クラスの警戒態勢の場所に潜入、デレクと対峙することに。本作の主人公アダムを演じるジェイソン・ステイサムは、イギリス出身で、かつてはイギリスの水泳飛込競技の有力選手として活躍しており、鍛えられたスポーツマンとしての力量は、本作でも遺憾なく発揮されています。

作中でもアダムは「イギリス生まれ」という設定がされています。ほかの過去についてはほぼ不明ですが。本作の監督、デヴィッド・エアー(David Ayer)によると、「ジェイソンの幅広い能力、多彩な才能には前々から注目していて、それらを一気に活かせるプロジェクトに出会えたらいいなと思っていたんだ」ということで、ステイサムの持つ存在感や雰囲気に注目していたそうです。

本作のストーリーは、脚本を担当したカート・ウィマー(Kurt Wimmer)の個人的な体験がもとになっているとのこと。彼の叔母が実際に全財産を奪われ、そのまま世を去ったという事件があり、「この映画はぼくの空想の世界なんだ。白馬の騎士を必要としている人に、救いの手をさし伸べたかった」という発想が原点になっているそうです。

最初にウィマーの脚本を読んだのは、主演でプロデュースも兼任しているステイサムだったそうです。
「僕たちは長年にわたって、いろんな形で繋がってきた。脚本を共同執筆する話があって、結局やらなかったことも何度かあった。そこでタイミングよく彼がパンデミック(世界的大流行)中に書いたという脚本を渡してきたんだ。いったん読み始めたら止まらなくなった」
「素晴らしい構成の物語だった。僕自身も脚本家だから、どこに意外な展開が隠れているかは大体は想像がつく。でも、カートの書いた脚本は違った」(いずれもパンフレットより)

エアー監督も脚本を手掛けたウィマーへの賛辞を惜しみません。ストーリーの骨子だけをみると、アクション映画の大きなジャンルである「過去をすてた優秀なエージェントがふたたび、戦いの世界に身を投じていく」という物語は、類型の映画がいくつも存在します。

こうした作品の主人公はたいてい、「もう過去は忘れた」といいながら、トレーニングは欠かしていなかったり、ひそかに大量の武器弾薬を隠匿したりしています。

本作のアダムには、こうした“備え”はなく、日々のトレーニングも隠し武器もなく、せいぜい秘密組織との連絡手段を持っているぐらいです。武器は自身の肉体と格闘術、そしてどこでも手に入りそうなモノや周辺にあるモノ、さらには敵から奪う銃器ぐらいでしょうか。

歯向かう相手には容赦がありませんが、微罪の人物や警察官には優しさや手加減を見せています。長年のスポーツでつちかった肉体が、なによりも説得力を感じさせるステイサム。アクション映画のキャラクターの違いも感じさせてくれる作品となっています。次回は「室町無頼」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。