芸達者な俳優陣により不思議な魅力を出した「教皇選挙」(416)

【ケイシーの映画冗報=2025年3月27日】今回は「教皇選挙」(Conclave)です。ある夜、バチカン市国の元首にして、カトリック教会の最高指導者であるるローマ教皇が、心臓発作によって急死しました。10億人を超えるというカトリック教徒の頂点に立つ教皇の後継者を定めるため、首席枢機卿であるローレンス(演じるのはレイフ・ファインズ=Ralph Fiennes)が中心となり、各国代表の枢機卿が集まって、次の教皇を定める“教皇会議(コンクラーベ)”が開催されることとなります。

3月20日から一般公開されている「教皇選挙」((C)2024 Conclave Distribution, LLC.)。

世界各地から集まった枢機卿のなかから選ばれる新しい教皇は、過半数の得票をひとりが集めるまで、外界と遮断された環境で選挙が繰り返されます。

なかなか定まらない選挙のなか、有力な教皇候補は独自の政治活動に動きます。過去のスキャンダルがあばかれたり、自身の出自や思想をアピールしての票まとめに奔走する人物。女性や人種などの差別的なふるまいといった部分が露顕することでトラブルがおきるのです。

そんな中、前教皇によって最近、枢機卿となったベニテス(演じるのはカルロス・ディエス=Carlos Diehz)が有力な候補として注目されるように。しかし、ベニテス枢機卿の内面にも、秘密が隠されているのでした。

キリスト教最大の教派で、単独でも世界最多の信者数を有するカトリック教会では、最高指導者であるローマ教皇(日本ではかつて「法王」と呼称)を13世紀から選挙によって選出してきました。

作中のように、「教皇選挙」は、教皇に継ぐ地位である枢機卿が集まり、非公開で執り行われます。バチカン市国は国土こそ最小ですが、歴史的にも文化的にも高い価値の建造物や絵画、宝飾品を有することから、教皇は私有ではありませんが絶大な資産を持ち、世界に広がる信徒のネットワークを統(す)べる存在ということになります。

自分たちのような一般人には触れることもできない世界を、映像作品の舞台に選んだ本作は、当然のことながらセットとロケーションでの撮影となります。監督のエドワード・ベルガー(Edward Berger)によると、
「バチカンの閉ざされた扉の向こう側のセットを造るためには、調査と想像力と創意工夫が必要だった」ということですので、実物ではなくとも、荘厳な大聖堂や、集まった枢機卿たちが起居する宿舎や食堂などは、充分にリアイティを感じさせる仕上がりとなっています。

また、神の道を求道するはずの枢機卿たちが旺盛な食欲をしめし、ワインをたしなみ、教会の一角にはタバコの吸いがらが放置されているなど、人間らしいというか、“自分の欲望に忠実”な描写もちりばめられており、これもベルガー監督の意図だということでした。

「彼らをできるだけ、我々と同じように欠点もあれば脆さもある人間として描きたかった」

こうした部分は原作小説を著し、製作も兼ねたロバート・ハリス(Robert Harris)、そして脚本と製作総指揮のピーター・ストローハン(Peter Straughan)の意向も強く、反映されていることでしょう。

また、原作での主人公はイタリア系の枢機卿となっていますが、映画では主演のレイフ・ファインズの出自にあわせて、イギリス出身のローレンス枢機卿にシフトしています。原作から変更された要素ですが、結果的には奏功したと感じました。

キャスト陣も、俳優の出身地が考慮されての配役となっており、まさに世界の縮図のような構図となっています。

「カソリック教会の内部事情」という少々デリケートな内容ですが、芸達者な俳優陣によって、不思議な魅力をかもしだすことを成し得ています。

ベルガー監督の、「何より素晴らしかったのは、各国から集まった俳優たちのエネルギーです。彼らはお互いパズルの隙間を埋め会うかけらのようで、最後にその壮大なタペストリー(壁掛け)を観客は発見することになるのです。」(いずれもパンフレットより)という一文が、その成功を言い表しているのはまちがいありません。

教会には縁のない自分ですが、古い友人がプロスポーツで活躍していたことから、数年前に現教皇のフランシスコ(Francesco、1936年生まれ、2013年に就任)のミサに出席していて、至近で教皇と会する機会にめぐまれたそうです。その印象は、「車イスだったけど、すごいパワーを感じた。物腰のやわらかさが強く印象に残った」とのことです。

多くの世界的プレイヤーを識る友人にも、これだけのインパクトを与えるのがローマ教皇なのだということを、本作を鑑賞中、想いだしていました。

現在、健康を害されているというフランシスコ教皇、そのご快癒をお祈りいたします。次回は「アンジェントルマン」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、フランシスコ教皇はベネディクト16世(Benedictus XVI、1927-2022)が2013年2月28日に辞任したのに伴い(教皇が辞任するのは600年ぶり)、3月12日より実施された「コンクラーベ」において、3月13日に新教皇の選挙権を持つ80歳未満の枢機卿115人による5回目の投票で、新教皇の選出に必要とされる枢機卿全体の3分の2を大きく上回る90票以上の得票をもって第266代の新教皇に選出された。

就任日は3月19日で、史上初のイエズス会出身のローマ教皇となった。ヨーロッパ以外の地域の出身者がローマ教皇に就くのは、シリア出身の第90代のグレゴリウス3世(生年不詳-741、在位:731年3月18日から741年11月28日)の死去以来、1272年ぶり。

フランシスコ教皇は1936年にアルゼンチンの首都ブエノスアイレス特別区フローレス区で、イタリア系移民の子として生まれた。