【ケイシーの映画冗報=2025年6月5日】今回は「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」(原題:Mission:Impossible-The Final Reckoning、2025年)です。秘密機関IMF(Impossible Mission Force=不可能作戦班)のエージェントであるイーサン・ハント(Ethan Matthew Hunt、演じるのはトム・クルーズ=Tom Cruise)は、前作の「デッドレコニング パートワン」(Dead Reckoning Part One、2023年)で逃げられたガブリエル(Gabrielle、演じるのはイーサイ・モラレス=Esai Morales)を追い続けていました。

5月23日から日本とアメリカで同時に一般公開されている「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」((C)2024 PARAMOUNT PICTURES.)。製作費は推定4億ドル(1ドル=130円換算で約520億円)と、これまでに製作された映画の中でもっとも高価とされている。
ガブリエルは、世界を破滅させる意志をもった人工知能(AI)である「エンティティ(Entity)」の“代理人”としてふるまい、イーサンと対峙しています。すでに数カ国の核兵器のコントロールを確保したエンティティを無力化するメモリーを手に入れたイーサンは、それを実行するため、北極に沈んでいるロシアの原子力潜水艦にダイビングして、エンティティのコアとなるモジュールを回収、ネット世界のデータが集積された南アフリカの地下施設へと潜入し、ガブリエルと最終決着に挑むのでした。
ハリウッドだけでなく、世界の映画人のいわばアイコンとなっているトム・クルーズ。映画俳優として活躍する一方で、キャリアの初期から映画制作にもかかわるようになり、1996年に1作目の「ミッション:インポッシブル」(Mission: Impossible)を映画プロデューサーとして立ち上げ、本作までの合計8本を筆頭に、多くの映画をプロデュースしています。
成功したハリウッド・スターが、その勢いのまま、出演以外の立場に進出することは、これまでもありました。目立つのは監督業でしょう。監督・主演というチャレンジも散見されますが、自身の出演作でアカデミー監督賞を2度も受けたクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)や、2作目の監督作品でアカデミー監督賞を手にするメル・ギブソン(Mel Gibson)といった映画スターは希有な存在で、俳優業と監督を両立させるのは難しいようです。演じることが達者であっても、映像作品をつくり上げることに有能であるということにはならないのでしょうか。
その点、クルーズは出演とプロデュースに集中しています。「どんなにハードなスケジュールであっても、1日に1本は映画を観賞する」というクルーズは、自身で監督するのではなく、「映画の才能を世に送りだす」ことに熱心だと伝えられています。
シリーズの3作目から、クルーズが演じるイーサンをサポートするエンジニアであるベンジー役のサイモン・ペッグ(Simon Pegg)は、クルーズの撮影への姿勢について、こう語っています。「彼は何事にも全力。100%コミットする気持ちがないなら現場にいる意味がないということを改めて学びました」(2025年5月16日付読売新聞夕刊)。
前作「デッド・レコニング パートワン」から参加し、最初はイーサンと敵対しながら、のちに協力者となっていく女性であるグレースを演じたヘイリー・アトウェル(Hayley Atwell)も近似のコメントをしています。「トムのような人は他にいません。(中略)彼が毎日現場に現れて、準備万端で、全身全霊をかけている姿を見るのは本当に驚くべきことです」(「『ミッション:インポッシブル』パーフェクトガイド/トム・クルーズ」より)。
シリーズ5作目から監督となり、他の作品でもクルーズと一緒に作品に関わっているクリストファー・マッカリー(Christopher McQuarrie)監督は、クルーズとの共同作業、とくに彼の挑戦する、作品ごとに話題となるスタント・シーンへの意気込みを伝えています。「私はトムと18年間一緒に仕事をしています。すべての映画で人々は『怖くないの?』と尋ねます。そして、トムはいつも同じように答えます。『怖がることを気にしない。怖くないわけではない。ただ気にしないだけだ』。私はこの言葉を理解していませんでしたが、今は恐怖に無関心なわけではないことを知っています。無関心でいることなどできません」(パンフレットより)。
このように語られるトム・クルーズご本人の言葉は、「僕たちは観客のためにすべてを捧げます。観客の皆さんが、映画館でこの物語を体験してくれること。それこそが僕たちのすべてです」(前掲誌)。
本作でも沈没した潜水艦を再現したセットを用意して、実際に水中で撮影したり、実際に飛んでいる2機のプロペラ機を使った壮絶なアクションシーンなど、通常なら「ほかの安全な方向で表現すれば・・・」という部分にも、いっさいの妥協なく、ギリギリのラインまで攻めていくトム・クルーズ。手がける作品が、映画という映像表現のひとつの頂点を極めていることに異論はないでしょう。次回は「フロントライン」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。
編集注:ウイキペディアによると、「ミッション: インポッシブル」(原題:Mission:Impossible)シリーズは1966年から1973年まで「スパイ大作戦」(原題:Mission:Impossible)としてCBS系で放送されたアメリカのテレビドラマで、171話が放送された。
日本では1967年4月8日からフジテレビ系列で放送された。アメリカ政府が手を下せない極秘任務を遂行するスパイ組織「IMF(Impossible Mission Force)」のメンバーの活躍を描くアクションドラマで、原題の「Mission:Impossible」とは「実行不可能な指令」という意味。原案はプロデューサーのブルース・I・ゲラー(Bruce Israel Geller、1930-1978)で、この「スパイ大作戦」によりエミー賞を受賞している。
また、アメリカでは続編として1988年10月23日から1990年2月24日までABC系で「新スパイ大作戦」(原題: Mission:Impossible)35話が放送された。日本では1991年3月から10月まで日本テレビ系で放送された。
映画の「ミッション:インポッシブル」(Mission: Impossible)シリーズは1996年からはじまり、2022年時点で8作目までの製作が決まっている。トム・クルーズが製作し、主人公のイーサン・ハントを演じている。1作目は1996年の「ミッション:インポッシブル」(原題:Mission:Impossible)で、2作目は2000年の「M:I-2」(原題:Mission:Impossible 2)、3作目は2006年の「M:i:Ⅲ」(原題: Mission:ImpossibleⅢ)、4作目は2011年の「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(原題:Mission:Impossible Ghost Protocol)。
5作目は2015年の「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(原題:Mission:Impossible Rogue Nation)、6作目は2018年の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(原題:Mission:Impossible Fallout)、7作目は2023年の「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(原題:Mission:Impossible Dead Reckoning Part One)、8作目は2025年5月公開の「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング 」(原題:Mission:Impossible The Final Reckoning)となっている。この8作目が最終作とされている。
アメリカのバラエティ誌は、この2作をもって主演のトム・クルーズはイーサン・ハント役を引退すると報じている。また、コロナによる度重なる遅延(合計7回ほど撮影が中断されている)により製作費は膨れ上がり、4億ドル(1ドル=130円で約520億円)と見積もられており、これまでの歴代のハリウッド映画の中でももっとも高額な作品の1つとされている。
監督、製作のクリストファー・マッカリーは2023年6月に「ファイナル・レコニング」でシリーズが終わるわけではなく、今後の作品のアイデアを練っていると語っている。2023年7月には「デッド・レコニング」の宣伝中、ハリソン・フォード(Harrison Ford、1942年生まれ)が70代後半まで「インディ・ジョーンズ(Indiana Jones)」をうまく演じていたことを理由に、イーサン・ハント役でシリーズのさらなる映画に出演し続けることに興味があると表明している。
一方で、2025年5月に「ファイナル・レコニング」のニューヨーク・プレミアで、クルーズはハリウッド・レポーターの取材に対し、本作がシリーズの最終作であると語り、タイトルに「ファイナル・レコニング」と名付けられているのは理由がないわけではないと付け加えている。