【ケイシーの映画冗報=2025年6月19日】今回は「フロントライン」(2025年)です。2020年2月、アジアを周遊していた豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス号(以下:D・P)」が横浜に入港します。2019年末に中国で確認された新型肺炎(コロナウィルス)罹患者が乗客に確認されたことから、乗客乗員、合わせて3711人は、横浜への上陸を許されず、船内で検疫を実施したところ、複数人の発症と、より多くの体調不良を訴える人々が確認されました。
「DMAT(ディーマット、災害派遣医療チーム)」の医師、結城英晴(演じるのは小栗旬=おぐり・しゅん)は、対策本部のトップとして、おなじく医師の仙道行義(演じるのは窪塚洋介=くぼづか・ようすけ)は実働班を率いて、D・P号内で病気への対応に従事します。
一方、DMATを監督する厚労省から配された立松信貴(演じるのは松坂桃李=まつざか・とうり)は、客船内の状況もさることながら、国内へのコロナウイルスの蔓延を防止することを優先するという方針を伝えます。
“姿の見えない脅威”である未知のウイルスと対峙するDMATの船内チームは、異なる国籍の発症者との意思の疎通や、客船内にとどまって活動するという制約に直面しながらも全力で対応していきます。
陸上でも、発症者の治療を優先するべきという医療サイドの結城と、公官庁の責任者として、日本全体への蔓延を防止することを意識する立松。両者は衝突をしながらも、危険な状況を改善することに進んでいきます。
不用意なマスコミの報道や、医療関係者からの「現状への批判的見識」といった外部からの軋轢も発生するなか、D・P号における「命をめぐるたたかい」は続くのでした。自分の記憶する「中国で発生した新型肺炎」の最初の情報は2020年1月の前半で、当初は「ヒトからヒトへの感染は確認されていない」というアナウンスでした。
「確認されていない」のであって「感染しない」ではないのですが、人々の感情もあってか「大事ではない」というイメージが生まれてしまったという一面もあったでしょう。それから数カ月で、コロナウイルスは世界中に拡散し、猖獗(しょうけつ)を極めることになるのです。
クライシスマネジメントの知識を有した知人によると、地震や災害、コロナウイルスのような未知のウイルスなどについては、その時点での情報によって、将来への予測や情勢判断をはかっても、あくまでその時点での予測であり、情報も状況も変化していくことを認識する必要があるそうです。
当然、悪化していくことも考慮する必要があります。さらに、専門家や研究チームでも意見が分かれることがまま、あるということでした。
本作でも、D・P号のなかでコロナが発症した人々への治療を優先する医療チームと、ウイルスの感染拡大を抑制することに集中するべきという、感染症対策の専門医との“見解の相違”が描かれています。
また、“外部”であるマスコミとして、テレビが登場します。番組製作として、インパクトのある映像や視聴者の感情を動かす(いわゆる“あおる”)構成に傾注することにより、かえって現状を混乱させてしまうという表現もなされていました。
また、D・P号の船内に“隔離”された状況にある乗客たちからの、SNSによる発信や情報が真偽の確認できない状態で拡散していくといった、今日的な問題も描かれています。
1984年から2022年まで、アメリカ国立アレルギー感染症研究所長として、アメリカ大統領をサポートしていた医師のアンソニー・ファウチ(Anthony Fauci、1940年生まれ)は、この「情報の拡散」をについてこう述べています。
「今回のパンデミックから学んだ教訓の一つが、誤情報や偽情報は公衆衛生の敵だということだ。SNSによってすぐに拡散し、まったくのうそが真実であるかのように人々に受け入れられてしまう」将来の危機については「コロナを忘れ、過去のものだと考えてはいけない。記録を残し、記憶を語り継ぐことで、人々はパンデミックの脅威が常にあることを認識できる。私もその役割を果たしていきたい」(いずれも2024年1月18日付読売新聞朝刊)。
本作が、こうしたファウチ医師の言葉に対する、大きな一助となりうるのは間違いないでしょう。D・P号の医療チームのトップである結城を演じた小栗旬は、本作の舞台あいさつでこんなコメントされています。
「皆さんは本当に、この映画の中の戦いを5年前にされていて、映画にはない部分の大変さもきっといっぱいあったでしょうし・・・。今後も(戦いに従事したみなさんが)ご自分たちも無事でいていただきながら、いろいろな災害に向き合っていただきたい」(2025年6月14日付スポーツ報知)。
きっと鑑賞後に、同じ気持ちを抱くことになることでしょう。次回は「Mr.ノボカイン」を予定しています。(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。
編集注:ウイキペディアによると、イギリスのクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」は2020年1月20日に横浜港を出発、鹿児島、香港、ベトナムのトゥアティエン=フエ省、台湾の基隆市、沖縄を周遊して、2月3日に横浜港に帰港した。客船には56カ国の乗客2666人と1045人の乗務員、計3711人が乗船していた。
1月25日、乗船中の1月23日から咳などの症状を呈していた乗客(80歳男性)が、香港で下船したが、この乗客は、下船後の1月30日に発熱、香港で2月1日に新型コロナウイルス陽性であることが確認された。
2月3日夜に横浜港の大黒埠頭沖に停泊した客船は2月1日に那覇港で検疫を受けていたが、船内で乗客の発熱が報告されていたことから、2月3日から2月4日にかけて船内で検疫官による健康診断が行われ、船内の有症状者と濃厚接触者からCOVID-19検査に必要な検体が採取された。
2月4日夜、運航会社のプリンセス・クルーズが乗客の下船を延期する旨を公表、加えて次回クルーズの運航中止を顧客に通知した。2月5日、客船内において10人の感染者が確認され、「日本の感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づき、神奈川県内の医療機関に全員搬送され、同日7時から、クルーズ船に対して14日間の検疫が開始された。
2月11日を除く毎日、感染が確認され、船内での感染者数は2月13日現在で218人となった。河野太郎防衛大臣の2月8日付ツイートによると、アメリカ政府から、船内に留まる方が感染拡大を防ぐための最善の方法であるというアメリカ衛生当局の判断に基づく申し出があり、日本はこの提案を受け入れた。防衛省が自衛隊を派遣、長期化する船での生活に備えて、2月6日から乗客乗員へ向けた生活物資や医療などの支援活動を行った。
2月10日、前日までに乗船者336人のうち感染者70人が確認された。14日間の隔離期間終了間際の2月14日頃から、各国がチャーター機の手配を開始し、16日にアメリカ、イスラエル、台湾、香港、カナダなどが申し入れを行っている。客船から下船する予定の乗客乗員らを2月19日未明から愛知県岡崎市の藤田医科大学岡崎医療センターに順次移送し、計128人が搬送された。
2月18日、神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授はDMATの一員として客船に乗船し、自身のYouTubeチャンネルで船内で安全な場所と安全でない場所を区別できておらず、感染対策がほとんどなされていないと訴え、その日のうちに船外に出されたと述べた。
2月19日までに船内3011人のウイルス検査が終了し、健康観察期間(14日間)に発熱などの症状がなく、陰性と判定された乗客の下船が認められ、2月19日から21日にかけて該当する乗客が下船し、専用バスで複数のターミナル駅まで移動し、それぞれ公共交通機関などで帰宅した。
加藤勝信厚労相(当時)は2月15日の記者会見で、「基本的にはそうした(感染防止措置をとる)前の段階で感染があり、発症したと我々は見ている」と述べ、検査で感染が確認された乗客はいずれも2月5日より前に感染したとの見解を示した。厚労省は検査が陰性だった人は日常生活に戻っても問題がないと判断した一方で、アメリカやオーストラリアなどは自国に戻った乗客をさらに14日間隔離する措置を取った。
2月22日、船内で業務をしていた厚労省の職員のうち、発熱などの症状がなかった職員の多くは終わったあと、ウイルス検査を受けずに職場に復帰していた。このため、同日一転して該当する職員41人の検査を実施した上で2週間の自宅勤務とした。翌23日にはそれまで無症状で船内業務を継続していた職員1人の体調が悪くなり、感染が確認されている。また、ウイルス検査で陰性であったため、下船した970人の乗客乗員のうち、23人は下船に必要な検査を行っていなかった。
2月22日に検査で陰性だったため下船した乗客から感染が確認され、2月26日時点で45人に発熱などの症状があり、2月29日までに計6人の感染が確認されている。結局、客船内の感染者数は634人にのぼり(ただし、3月15日段階で感染者数は712人との数字も)、3月30日までに客船の乗船者のうち、亡くなった人は11人。
