完璧ではない姿、ダサい一面も描いた「スーパーマン」(424)

【ケイシーの映画冗報=2025年7月17日】今回は「スーパーマン」(原題:Superman)です。消滅してしまった惑星クリプトン(Krypton)で生まれ、地球で育ったスーパーマン(演じるのはデヴィッド・コレンスウェット=David Corenswet)、ふだんはメトロポリス市(Metropolis)にある新聞社、デイリー・プラネット(Daily Planet)の記者、クラーク・ケント(Clark Kent)として生活していました。

7月11日から一般公開されている「スーパーマン」((C)&TM DC (C) 2025 WBEI)。

あるとき、その正体を知る同僚で恋人のロイス・レイン(Lois Lane、演じるのはレイチェル・ブロズナハン=Rachel Brosnahan)と口論となってしまいます。アメリカの同盟国であるボラビアが隣国であるジャルハンプールへと軍事侵攻したのを、スーパーマンが阻止したからでした。

「侵略と殺戮の危機」を見逃せず、実力行使をしたスーパーマンに対し、ロイスは「他に手段はなかったのか」と問います。アメリカに住むスーパーマンが同盟国を攻撃したことで、国際問題となったこと。そして、ボラビアには強力な特殊部隊があり、無敵のスーパーマンも、苦戦を強いられたことを心配しての発言でした。

ボラビア政府の裏には、巨大企業を率いる大富豪でスーパーマンを敵視するレックス・ルーサー(Lex Luthor、演じるのはニコラス・ホルト=Nicholas Hoult)が存在していました。かれは、スーパーマンがアメリカの敵になる可能性を示唆し、その危険性を強調することで、スーパーマンを排除することを画策していたのです。

1938年にコミックのキャラクターとして誕生したスーパーマンは、これまでアニメやテレビドラマ、そして映画化がくりかえし、作られてきました。そのため、いろいろな解釈で描かれているのもスーパーマンをはじめとした、寿命の長いヒーローの特徴といえるでしょう。コミック・ライターや監督の意向が作品に反映されるのです。

本作のスーパーマンは戦いに敗れ、“鋼鉄の男(Man of Steel、2013年のスーパーマン映画のタイトル)”の別名とはうらはらの、満身創痍な姿を見せます。クラーク・ケントの姿ではありますが、恋人のロイスと言い争い(内容は世界情勢における解釈の違いですが)になったりと、普通人的な一面も描かれています。クラーク・ケントのときの姿も、若干ダサめに見えるのも、キャラクターに現実味を加えています。

監督・脚本のジェームズ・ガン(James Gunn)は、自身のスーパーマン像について、こう語っています。
「僕自身、スーパーマンは優しいナイスガイだと思う。でも完璧じゃない。彼には欠点もある。時に頑固な面も見せるし、内心にエゴもある。スーパーマンは完璧ではないんだ」

それに対し、スーパーマンと敵対するレックス・ルーサーは大企業のトップで天才科学者、その姿はスタイリッシュで、弁舌も巧みと、ヴィラン(悪役)の本性を見せずに実在していたら、じつに魅力的な人物です。

演じたニコラス・ホルトによると、
「レックスという悪役は妬みや貪欲さ、憎しみといった感情に蝕まれているけれど、それはとても(笑)露骨で本能的なものなんだ」ということなので、見方をかえれば「自信の欲望に忠実」な存在といえます。

他にも本作には、スーパーマンを倒すことに執着するあまり、改造人間となった“エンジニア”や、スーパーマンと同様に正義のヒーローながら、スポンサーの意向には従ってしまうヒーローのチーム“ジャスティス・ギャング(Justice Gang)”、さらには、あまり聞き分けのないスーパードッグ“クリプト(Krypto)”(モデルはガン監督の愛犬だそうです)など、魅力的なキャラクターがおおく登場します。スーパーマンの実写映画ではたぶん、はじめてのはずの巨大怪獣まで、登場します。しかも、複数!

そんなバラエティに富んだキャラクターの中でどこかぎこちなく、相手の殲滅や破壊ではなく、基本的には“人命救助”を目指すのが、本作のスーパーマンなのです。

スーパーマン役のデヴィッド・コレンスウェットによれば、
ジェームズ・ガン監督からアドバイスとして、「参考にしたのはジェームズ・ガンが送ってくれた『オールスター・スーパーマン』というコミックです。そこで、クラークはいつも邪魔になる巨大な冷蔵庫のような存在として描かれています。いくら慎重に動いても、どういうわけか、彼はさらに世界において邪魔な存在になってしまう。でも、その不器用な優しさをもっとも参考にしています」(すべて「映画秘宝」2025年8月号より)

完璧さをイメージさせる“スーパーマン”という名前ですが、ガン監督の想定したのは「完璧をめざすもそうはならない」存在なのではないでしょうか。「スーパーマンもまたヒトなり」というのが伝わってくる作品です。次回は「木の上の軍隊」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。