【銀座新聞ニュース=2025年10月2日】化粧品業界国内4位のポーラ・オルビスホールディングス(中央区銀座1-7-7、ポーラ銀座ビル、03-3563-5517)が運営するポーラミュージアムアネックス(ポーラ銀座ビル、03-3563-5501)は10月3日から26日まで鈴木のぞみさんによる展覧会「Slow GlassーThe Mirror,the Window,and the Door」を開く。

ポーラミュージアムアネックスで10月3日から26日まで開かれる鈴木のぞみさんの展示会に出品される作品。左は「Light of Other Days:吉田理容室壁に設えた大きな3枚の鏡 2020」(Photo by Shinya Kigure Courtesy of Arts Maebashi、(C)Nozomi Suzuki)、中央は「Other Days, Other Eyes:高山邸2階廊下の窓 2017」(Photo by Shinya Kigure(C)Nozomi Suzuki)、右は「Light of Other Days:白河二丁目町会会館勝手口の扉 2018」((C)Nozomi Suzuki)。
写真家の鈴木のぞみさんは写真の原理を通して、事物に宿る記憶の顕在化を試みており、日常の中でふと目にした光の痕跡を起点とし、その一瞬を、そこに存在したものや過ぎ去った時間の記憶として捉え、作品へと昇華させている。
代表作「Other Days, Other Eyes(アザーデイズ、アザーアイズ)」(「窓」のシリーズ)では、かつてその窓から見えていたであろう景色を想像しながら、窓そのものに写真乳剤を塗布し、直接焼き付ける独自の技法を用いている。そこに現れる像は、移ろいゆく光と空間の関係を写し取り、見過ごされがちな時間の層を静かに積み重ねたかのようにみえる。
今回は「窓」のシリーズをはじめ、「鏡」や「扉」をモチーフとした新作を含む約15点を展示する。「光と時間が織りなす不可視の記憶を、鈴木の視点を通じてご体感ください」としている。
鈴木のぞみさんは「写真の原理を通して、光の諸現象が事物に宿す記憶の顕在化を試みています。そのような潜像は、例えば、日常に潜む小穴投影現象による倒立像、光がもたらす影、滑面への光の反射、ガラスにおける光の透過や屈折など、私たちの身近な事物のそこかしこに見出すことができます。それらの現象は、物理的であると同時に、私たちの視覚や記憶に深く関わるものです。私はイメージを生成した作者というよりも、媒介者、あるいは翻訳者として〈事物の記憶〉を可視化することで、人間中心に構築された世界を見つめ直す視点を模索」している。
タイトルの「Slow Glass(スローグラス)」とは、イギリスのSF作家、ボブ・ショウ(Robert “Bob” Shaw、1931-1996)が短編集「Other Days, Other Eyes」(1972年、日本語題名「去りにし日々、今ひとたびの幻」サンリオSF文庫)で描いた、「過去の光を遅れて届ける空想上のガラス」のこと。「その性質は、光を受けとめ、時間を経て像を現す写真の根本的な原理と似ています」。
また、鈴木のぞみさんは「近代において写真は、産業革命とともに登場し、窓、鏡、扉といった視覚的な装置や建築的な境界と深く結びつきながら、私たちの知覚や世界像を形づくってきました。窓は外界を切り取るフレームとして、鏡は自己像を映す媒体として、扉は内と外をつなぐ境界として、それぞれが私たちの視覚と記憶の在り方に影響を与えてきた」と受け止めている。
今回は「窓越しの眺め、鏡に映る室内、扉の向こう側の風景といった、私たちの身近な〈境界〉に宿る記憶を提示します。これらの写真が定着された事物が『Slow Glass』として作用するとき、過ぎ去った時間を想起し、現在との新たな接続を生み出す契機となることを願っています」。
鈴木のぞみさんは1983年埼玉県生まれ、2007年に東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻を卒業、2015年に東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程を修了、2022年に同大学大学院博士後期課程を修了、2016年に「VOCA展2016 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」でVOCA奨励賞、2018年度にポーラ美術振興財団在外研修員(イギリス)、2025年に「第41回写真の町東川賞」で新人作家賞を受賞している。2024年にポーラ美術館アトリウムギャラリーで個展を開いている。
10月17日18時30分から19時30分まで鈴木のぞみさんが美術史家の伊藤俊治さんとトークイベントを開く。参加費は無料。ネット(https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/)から事前に予約する。
伊藤俊治さんは1953年秋田県生まれ、東京大学文学部美術史学科を卒業、同大学大学院人文科学研究科を修了(西洋美術史専攻)、多摩美術大学情報デザイン学科教授を経て、2002年から2021年まで東京藝術大学先端芸術表現科教授、1987年に「ジオラマ論」により、サントリー学芸賞を受賞している。現在、東京藝術大学名誉教授、多摩美術大学客員教授、京都芸術大学大学院芸術研究科教授。
開場時間は11時から19時まで、入場は無料。10月17日は18時まで。