深みよりもエンタメとして鑑賞したい「エンジェルズ」(444)

【ケイシーの映画冗報=2026年4月23日】今回は「ダーティ・エンジェルズ」(Dirty Angels、2024年)です。2021年のアフガニスタン。アメリカ軍の女性指揮官のジェイク(演じるのはエヴァ・グリーン=Eva Green)は過激なイスラム組織ISIS(アイシス、イスラム国)の指導者アミール(演じるのはジョージ・イスカンダル=George Iskandar)によって捉えられ、公開処刑される寸前、味方部隊に救出されました。

4月10日から一般公開されている「ダーティ・エンジェルズ」((C)2024 DIRTY ANGELS PRODUCTIONS, INC.)。興行通信社の映画ランキングでは10位以下の圏外だが、4月13日から19日の「映画.comアクセスランキング」で4位に入っている。

奇跡の生還をとげたジェイクでしたが、部下を見殺しにしたという葛藤を抱えながら、軍務に就いていました。

数年後、アフガニスタンの隣国パキスタンで学校襲撃事件が発生、旧アフガン政府の関係者やアメリカ政府の子女を誘拐して、身代金をもとめる声明を出します。犯行はISISで首謀者はアミールでした。アメリカ政府は、公然と派兵することができないため、現地を知り、アミールとも因縁を持つジェイクを指揮官として、女性メンバーによる極秘の救出作戦を実施します。

あだ名どおりに爆弾の天才である“ボム”(演じるのはリア・バカローヴァ=Maria Bakalova)、戦場医療を担当する“メディック(衛生兵)”(演じるのはルビー・ローズ=Ruby Rose)といった、寄せ集めながら優秀なメンバーで結成されたチームは、医療ボランティアとして、少女たちが監禁されているというアフガンへ潜入します。

さまざまなアクシデントに直面し、犠牲者を出しながらも、目的に向かって進んでいるジェイクたち。捕えられた少女たちの奪還は果たせるのか。そしてジェイクと因縁のあるアミールとの決着は。

「正規ではないチームが作戦に駆り出され、トラブルや味方の不手際、敵側の妨害などに振り回されながらも任務を達成する」というプロットは、本作「ダーティ・エンジェルズ」のような戦争アクションに限らず、古典的ではありますが、定番のストーリーでしょう。個人的には「ならずものチームもの」というジャンルだと考えています。

「リーダー(エリートだったり軟弱だったり、資質のない指揮官も)のもとに、やっかい者や変わり者、こまり者といった、すこし(だいぶ?)面倒なキャラクターが集まって、内部や外部で揉めながらも、与えられた使命を果たそうとする」といった骨子で、「いがみあっていたメンバーが、最終的には結束する」や「目立たなかった人物が意外な特技をみせる」、また「足手まといが実は凄腕だった」のような見せ場を経て、物語のクライマックスへと進んでいくのですが、本作のような戦争・戦闘アクションだと、こうした部分にくわえて、「準備された潜入ルートが使えない」や「予定された装備が入手できない」、さらに「味方にスパイや裏切り者がいて、チーム全体が窮地に陥る」、あるいは「味方や依頼主に見捨てられ、過酷な状況におかれる」ような“戦いの世界”ならではのシチュエーションに直面したりもします。

本作の一大ポイントは“女性中心の戦闘チーム” となるのでしょうが、個人的には「戦いの舞台がアフガニスタン」というのが気になりました。探偵小説の始祖ともいえる「シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)」にて、「イギリス軍が悪戦苦闘したのはアフガニスタンぐらい」(1887年発表の「緋色の研究」(A Study in Scarlet)の冒頭)とホームズが語るように、19世紀のおわりから20世紀の初頭まで、当時は世界最大の国勢を誇っていたイギリス軍はアフガニスタンで敗北(注1)を喫しています。

20世紀後半には当時のソ連による軍事侵攻(注2)、2001年以降も、対テロ戦争の一環としてアメリカ軍が進出しますが(注3)、いずれも充分な成果を残せずに退いており、特にソ連については、戦費の消費と軍の被害は大きく、国力の減衰を生み出したことによって、ソ連邦崩壊の遠因ともなっています。

大国の軍勢にも屈しないアフガニスタンですが、国内は水源がとぼしく、国土の大半が高地で、寒暖の差も激しいということで、過酷な生活圏となっています。

作中でも描かれていますが、基本的にイスラム圏は女性を低く見る傾向があり、さらに過激なイスラム思想が支配するISISでは、「女性が学ぶことを許さない」という価値観があり、女性の学習機会を是としないのは、現在でも強く残る風習なのだそうです。

そうした地域に“女性の戦闘チーム”が「囚われた少女たちを救出に向かう」という、困難な状況を描く作品なので、正直、「上手くいきすぎ」な部分もありますが、「エンターティメント作品のような見どころは実際の軍事作戦では、まずもって存在しない」というのが実情なのだそうです。ですから、あまり深淵を意識することなく、ひとつの作品として鑑賞するのがベストだと思います。

次回は「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注1:ウイキペディアによると、「イギリス軍はアフガニスタンで敗北」は3次にわたる「アフガン戦争」のことで、第1次(1838年から1842年)と第2次(1878年から1881年)のアフガン戦争は19世紀に繰り広げられた「グレート・ゲーム」(The Great Gameとは、中央アジアの覇権を巡るイギリス帝国とロシア帝国の敵対関係・戦略的抗争を指す、中央アジアをめぐる情報戦をチェスになぞらえてつけられた名称)の一環として、中央アジアに進出したロシア帝国がインドへと野心を伸ばしてくることを警戒したイギリスが、先手を打ってアフガニスタンを勢力圏に収めるために行った軍事行動であり、第2次アフガン戦争によってイギリスはアフガニスタンを保護国とした。

第3次アフガン戦争(1919年)は第1次世界大戦(1914年7月28日から1918年11月11日まで連合国と中央同盟国の陣営で戦われた世界規模の戦争)直後に行われた戦争で、アフガニスタンがイギリス領インド帝国に攻め込んで独立を認めさせた戦争である。

編集注2:「世界史の窓」によると、「20世紀後半には当時のソ連による軍事侵攻」とは1979年12月、ソ連のブレジネフ(Leonid Il’ich Brezhnev、1906-1982)政権が社会主義を掲げる親ソ派政権を支援するためにアフガニスタンにソ連軍を侵攻させたことで、ソ連軍に対しイスラム原理主義系のゲリラ組織は激しく抵抗、ソ連軍の駐留は10年に及んだが、結局、失敗し、ソ連崩壊の基点となった。

編集注3:「2001年以降も、対テロ戦争の一環としてアメリカ軍が進出」については、ウイキペディアによると、2001年から2021年にかけてアフガニスタンで生じた、アメリカ軍に支援されたアフガニスタン・イスラム共和国新政府と、タリバンやアルカイダなどの武装勢力との紛争をいう。当初、アメリカ・イギリス軍と北部同盟(アフガニスタン救国・民族イスラム統一戦線)はアフガニスタンに侵攻してタリバン政権を全面降伏させ、タリバン政権崩壊後の同国では、ボン合意に基づき国連主導での国づくりや復興、民主化が行われ、暫定政権から新政府が成立した。また、2011年にアメリカ軍はアメリカ同時多発テロ事件の被疑者で行方不明となっていたウサマ・ビン・ラディン(Usama bin Muhammad bin Awad bin Ladin、1957-2011)を発見、殺害した。

その後、アフガニスタンの治安は極端に悪化し、タリバンによる攻撃が続いたため、2020年にアメリカとタリバンの和平合意であるドーハ合意が締結され、アメリカ軍は撤退した。その後、2021年にタリバンは大規模な攻勢を開始し、首都カーブルを陥落させ、ガニー(Mohammad Ashraf Ghani Ahmadzai、1949年生まれ)政権は崩壊し、タリバンが政権を掌握して紛争は終結した。