暴力描写と逸脱した疾走感で刺激の強い「スカーフェイス」(448)

【ケイシーの映画冗報=2026年6月18日】今回は「スカーフェイス【4K版】」(Scarface、1983年製作)です。1980年のアメリカのフロリダ州、マイアミ。キューバのカストロ(Fidel Alejandro Castro Ruz、1926-2016)政権下で“不適合”とされた人々が難民としてなだれこんでました。トニー・モンタナ(演じるのはアル・パチーノ=Al Pacino、1940年生まれ)という自称“半分アメリカ人”もそのひとりで、政治的亡命を希望しますが、難民キャンプ送りとなってしまいます。

6月5日から一般公開されている「スカーフェイス【4K版】」((C)1983 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.)。6月末をもって国内上映権が終了するため、最後のリバイバル上映となっている。

3カ月後、難民キャンプで仲間のマニー(演じるのはスティーヴン・バウアー=Steven Bauer、1956年生まれ)が、トニーに“仕事”を持ちかけます。キャンプ内の人物を“始末”すれば普通の「アメリカ市民」になれるというのでした。“仕事”を果たしたトニーとマニーは、市内で皿洗いの職を得ますが、危険なコカイン取引を命懸けで成功させたことで地元のギャング団の一員となります。

リーダーのフランク(演じるのはロバート・ロジア=Robert Loggia、1930-2015)の邸宅に招かれたトニーは、フランクの情婦エルヴィラ(演じるのはミシェル・ファイファー=Michelle Pfeiffer、1958年生まれ)に強く惹かれ、組織の中でのし上がっていくことを誓うのでした。

一方で、トニーはアメリカに居た家族にも再会します。母親は息子の稼業に不満をもらしますが、妹のジーナ(演じるのはメアリー・エリザベス・マストラントニオ=Mary Elizabeth Mastrantonio、1958年生まれ)は、兄の豪奢なくらしに憧憬をもち、裏社会へと足を踏み入れてしまいます。

やがてボスのフランクを蹴落とし、エルヴィラとも結婚、マイアミのコカインを牛耳る“裏社会の帝王”へと駆けあがったトニーですが、自らの野望を抑えることができず、気付かぬうちに破滅への道を突き進んでいくことになるのでした。

1983年に公開された本作は、公開当初の評価は決して、高いものではありませんでした。主人公トニー・モンタナの直情的かつ、衝動的な生きざま、それまで繊細で静的な演技表現が中心だったアル・パチーノの打ちだす、飢えた獣のような凶悪さは、観客に強烈なインパクトと与えると同時に、良心への問いかけにもなっていたのではないでしょうか?「このような人物が主人公でいいのか?」という。

アメリカに自称“政治亡命”で来たトニーは、自身の「ガッツと信用(my balls and my word)」で裏社会のボスへと文字どおり“成り上がって”いきます。キューバからの難民として、なまりの強い英語で、いわゆる“Fワード”をふくめた悪口雑言を連発し、知性も思想もなく、邪魔者は殺し、自身の欲望に従って悪の道を疾走するトニーは、“ピカレスク(悪役が主人公)ヒーロー”とはいえ、無法すぎる人物という、いわば“劇薬”であり、批評家たちには、刺激が強すぎたということが想像されます。

はじめて本作を見たのはずっと以前ですが、そのすさまじい暴力描写(監督のブライアン・デ・パルマ=Brian De Palma、1940年生まれ=は、ホラー映画で注目され、“流血量”の多さで知られていました)や、裏社会の冷酷さや醜悪さに引き込まれましたが、「ピカレスク・ファンタジー」とも称せるような“華やかだがはかない夢物語”というストーリー性が強く、印象に残ったのです。

作中では1年にも満たないはずの時間で「難民キャンプから悪の頂点まで駆け抜けていく」という、トニーの疾走感は、あきらかに現実世界から逸脱していると感じられたのです。

小柄で痩身のアル・パチーノは当時40歳をこえた“中年男性”でしたが、その演技と内に秘めたエネルギーは、“飢えた若い獣”と表現するのがぴったりでした。相棒役のスティーヴン・バウアーとは15歳近くの年齢差があるのですが、同世代としてスクリーンで躍動しており、パチーノの演技者としての実力の発露といえるでしょう。

豪邸、高級車、美女という、「現代男性の3大欲求」ともいうべきものを手にしながら、野望の階段を上がるのと同時に、大量のコカインに溺れていくトニーは、「ディフォルメされたサクセス・ストーリー」なのだと考えています。演じたアル・パチーノも、「アメリカに渡り、人生を永久に変えてしまったオデッセウス」(公開当時のパンフレットより)とギリシャ神話の代表的英雄になぞらえています。

最後に、本作の影響をもっとも受けた世界を紹介します。1980年後半からラップ・ミュージック、ヒップ・ホップの世界で「スカーフェイス/トニー・モンタナ」は、「差別や貧困にあらがうギャング・スター」のアイコンとなり、大きな影響を与えています。これは魅力のない作品にはあり得ない事象ですので、是非はともかく、「痛快無類の映画」であることに異論はないはずです。

次回は「Michael/マイケル」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。