大スターのきらびやかな面と陰を描いた「マイケル」(449)

【ケイシーの映画冗報=2026年7月2日】今回は「Michael マイケル」(Michael、2206年)です。1960年代のアメリカ。鉄工所に務めるジョセフ(演じるのはコールマン・ドミンゴ=Colman Domingo)は、音楽の才能にあふれたきょうだいを、「ジャクソン5(The Jackson 5)」としてデビューさせます。父親ジョセフの“強権”をもってトレーニングに集中し、家族グループとして息の合ったステージを披露していましたが、5男のマイケル(少年期を演じるのはジュリアーノ・クルー・ヴァルディ=Juliano Krue Valdi) の歌唱力とダンスの才能は傑出していました。

6月12日から一般公開されている「Michael マイケル」((R)TM&(C)2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.)。興行通信社の映画ランキングによると、6月12日から390館で公開され、28日まで3週連続で1位にランクされている。累計で観客動員は245万人、興行収入39億円を突破している。

やがて、家族との共演に限界を感じはじめたマイケル(青年期を演じるのはジャファー・ジャクソン=Jaafar Jackson)は、父ジョセフからの“独り立ち”を画策するようになります。つねに“ジャクソン家”を中心に考えるジョセフは、「自身の音楽と表現を突きためたい」マイケルにとって障壁となっていたのです。

優秀なスタッフや弁護士を集め、“理想とする音楽と表現”を追い求めるマイケル・ジャクソン。大成するにしたがって、家族とは距離を感じるようになるなど、内面の苦悩や、自身への受傷に直面しながら、“音楽表現者”として、未知の領域へと向かっていくのでした。

マイケル・ジャクソン(Michael Jackson、1958-2009)という、不世出のミュージシャン/エンターテイナーの存在は、その作品や音楽性などとは別に、エンターティメントのアイコンともいえるでしょう。音楽シーン、映像シーンでの“マイケル・ジャクソン的”な表現は活躍していた時代から生み出されており、これからも増えていくことでしょう。昨年、若手表現者のステージで、マイケルのイメージをそのまま表現していて、じつに好評であったことなどを体感しており、没後15年を経ても、その影響力は強く残っていると断言できるはずです。

「史上最も成功したミュージシャン」であり、尊敬や敬慕を集める一方、さまざまな疑惑や疑念が持たれ、犯罪的行為や奇行などを指摘する声も少なからず、存在していました。真偽のほどはさておき、たぐいまれな音楽と、表現のセンスをマイケル本人が有していたことは、たとえアンチであっても、異論はないことでしょう。

“ひかり輝く大スター”のきらびやかな面だけでなく、そうした“陰”の部分にも、本作は触れています。極貧生活であった年少期のマイケルは、ミュージシャンとしての厳しいレッスンと実父の圧政のあいまに、絵本や童話の世界に耽溺することで、精神の均衡を保っていたといわれ、本作でもそうした描写があります。

収入が増えるに従って、さまざまな動物を飼うようになり、広く豪華な自宅は一種、動物園めいた部分が構築されていました。動物たちに強く深い愛着をしめす青年となったマイケルに、奇異の視線が向けられるのも、仕方がないことだったのでしょう。

マイケル自身がその孤独感を、自伝である「ムーンウォーク」(MOONWALK、アメリカで1988年刊行、2009年に河出書房新社から田中康夫訳「ムーンウォーク: マイケル・ジャクソン自伝」刊行)でこう、語っています。
「僕にはまったく親友がいなくて、すごく寂しかったのです。とても孤独だったので、話ができて、ことによったら友達にまでなれそうな人と出会えるかも知れないと思って、僕はよく近所をうろうろしていたものです」
「近所の子供とか、誰でもよかったのです。成功は確実に孤独をもたらします」

こうした両面を見事にスクリーン上に“再現”してみせたのが、マイケルの甥(兄の息子)であるジャファー・ジャクソンです。2年の歳月をかけて、叔父を学び続けたというジャファーは、「マイケルを超えようとは思わず、できる限り近づこうとしました。観客にマイケルを見ているかのように、彼が実際にスクリーンに映っているように感じてほしかった」(いずれも2026年6月19日付読売新聞)と語っています。

たしかに素顔のジャファーは、本作のスクリーンに映ったマイケルに「恐ろしく似ている」ということはありません。この再限度こそ、演者であるジャファーとスタッフ・チームの努力の結実した結果であり、本作の魅力の根幹となっているのです。なお、マイナー・ジャンルであったホラー映画を、自作のイメージの源泉のひとつとしているのは、いち映画ファンとして、親近感を抱いてしまいました。

また、ミュージック・ビデオにゾンビの特殊メイクをしたダンサーを起用したり(「スリラー」1982年、Michael Jackson’s Thriller)、初期段階だったCG動画を積極的に自身の映画に活用する(「ムーンウォーカー」(Moonwalker、1988年)など、先進的な一面ももっていました。マイケルという稀代の天才は、子どものような好奇心のかたまりだったのです。

次回は「THE ORIGIN ULTRAMAN(ザ・オリジン・オブ・ウルトラマン)」を予定しています。(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。