50年前に火星旅行を描き、文明の負に触れた「カプリコン」(451)

【ケイシーの映画冗報=2026年7月30日】今回は「カプリコン・1」(Capricorn One、日本では1977年公開)です。NASA(National Aeronautics and Space Administration=アメリカ航空宇宙局)は、火星の有人着陸を目指す火星ロケット“カプリコン・1”の打ち上げが進められていましたが、打ち上げの直前、船長のブルーベイカー(演じるのはジェームズ・ブローリン=James Brolin)ら3人の搭乗員はいきなりロケットを下ろされ、砂漠へ幽閉され、無人のロケットは、そのまま火星へと旅立っていきます。

1977年(日本以外は1978年)に公開された「カプリコン・1」。

とまどうブルーベイカーたちの前に、責任者のケラウェイ博士(演じるのはハル・ホルブルック=Hal Holbrook)があらわれ、経緯を説明します。ロケットに重大な欠陥があり、莫大な国家予算を投入したこの計画を延期することはできず、「火星着陸」をブルーベイカーたちに演じてほしいこいうことでした。

家族の安否まで持ち出された3人は説得に応じ、「いつわりの宇宙飛行と火星着陸」を撮影スタジオでおこない、地球へと帰還を演じることになります。ところが、大気圏への突入時に事故が発生し、“カプリコン・1”は帰還することなく、消滅してしまいます。

これを知ったブルーベイカーら3人は、この陰謀を完成させるために、自分たちが謀殺されるとを予測し、砂漠からの脱出を敢行するのでした。

その一方、放送記者のコーフィールド(演じるのはエリオット・グールド=Elliott
Gould)は、“カプリコン・1”にかかわる友人から、奇妙な話を聞きます。
「宇宙を飛行しているはずの“カプリコン・1”の無線が、すごく近いところから発信されているようだ」

コーフィールドが取材を進めようとすると、その友人は姿を消してしまい、自身にも命の危険が迫ります。ブルーベイカーは無事に家族のもとへ戻れるのか。コーフィールドは真実にたどりつけるのか。

1978年にアメリカで公開(日本ではその前年)された本作は、「人類の月面着陸“アポロ計画”は存在しない」といった、いわゆる陰謀論を主軸に据えた作品です。

もう50年ちかく前の作品ですので、当然、劇場では観ておらず、テレビ放送での視聴でした。それでも子どもながら「現代の政府や政治、予算と国家の関係」といった政治色の強いドラマ性と、砂漠を逃げまどう宇宙飛行士を執拗に追う2機のヘリコプターの演技(意志を確認しあうようなしぐさや、見事にシンクロした飛行シーン)、そしてクライマックスで農薬散布用の複葉機とヘリコプターの迫力ある空中戦(一説に「ミッション・イン・ポッシブル」の最新作で主演のトム・クルーズ(Tom Cruise)がヒントを得たとも)に感銘を受けました。

「いつかは劇場の大画面で視聴したい」と思っていたのですが、今回「午前十時の映画祭」というイベント・プログラムにより、願いが叶ったわけです。

現実として、本作のような「火星旅行」の行程は、ありえないといえます。月までは38万キロほどなので、地球を飛び立ってから3日間で到達できますが、最短距離でも5800万キロの火星には10カ月から1年は必要で、アポロ計画のような狭小な居住空間で生活するのは、不可能といえます。

さらには、無重力下で長期間の生活をしてから、地球の3分1とはいえ重力のある火星に、宇宙飛行士が着地するのも、大変危険な行為でしょう。

こうした部分について、本作では従来の科学技術で描くことにとどめ、「現実に則した有人火星着陸」というアプローチを選択していません。

1969年に人類を月に着陸させた(アポロ11号)アポロ計画は、有人宇宙飛行(ボストーク1号により1961年)を当時のソ連に達成されたことへの対抗として、1962年に開始、国家の威信にかかわるということで、予算規模はかなり優遇されていたそうです。アポロ計画全体の予算は当時で250億ドル、邦貨で9兆円(1ドル=360円換算)という巨大なもので、現在では90兆円になるでしょう。2025年度の日本政府の税収が約84兆円なので、とてつもない金額が費やされました。

さらに、宇宙ロケットの技術が、軍事技術ときわめて近い技術だったことで、「国家の防衛力強化」につながった面も事実です。1万キロ以上を飛び、敵国の中枢を狙うことのできる大陸間弾道弾(ICBM)は、宇宙空間に衛星や有人機を打ち上げる技術と同一の技術体系なのです。

本作の宇宙ロケットや火星旅行の科学的な部分が現実と乖離していても、「国家の威信」や「巨大で巨額の計画には失敗や挫折がゆるされない」といった部分は、時を経てもかわることのない、文明の負の一面といえるのではないでしょうか。次回は「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、当初、NASAはこの作品の制作に協力的だったが、映画の筋がわかって協力を拒否した。しかし、火星着陸宇宙船「カプリコン1号」の映像として、アポロ宇宙船を搭載した、発射台上のサターン5ロケットなどの記録映像が使用された。

また、日本ではアメリカよりも早く1977年12月17日(アメリカでは1978年6月2日)に公開され、上映時間は129分だった。しかし、その後のアメリカ及び世界での公開は123分版で、日本でもその後のソフト化に際しては123分版が使われた。

2019年12月18日発売の「カプリコン・1≪特別版≫ Blu-ray」では129分版の素材が国内で発掘され、ソフト化されている。監督と脚本はピーター・ハイアムズ(Peter Hyams、1943年生まれ)がてがけた。

また、記者役のエリオット・グールド(1938年生まれ)はバーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand、1942年生まれ)と1963年に結婚し(1971年離婚)、船長のブルーベイカー役のジェームズ・ブローリン(1940年生まれ)も1997年にバーブラ・ストライサンドと結婚している。