未完成のヒーローでも最大ヒットの新「スパイダーマン」(452)

【ケイシーの映画冗報=2026年8月13日】今回は「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」(Spider-Man:Brand New Day)です。前作の「ノー・ウェイ・ホーム」(Spider-Man: No Way Home、2021年)のクライマックスで、全世界を救うため、あらゆる人々の記憶から、自身の存在を消失させたスパイダーマン/ピーター・パーカー(演じるのはトム・ホランド=Tom Holland)は、いまでもニューヨークのヒーローとして活動を続けていました。

7月31日から一般公開されている「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」((C)2026 CPII.All Rights Reserved.(C)&TM 2026 MARVEL)。興行通信社によると、7月31日から8月2日の3日間で動員97万3000人、興行収入15億5900万円をあげ、初登場1位。前作「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」を上回るスタートを切っただけでなく、歴代の「スパイダーマン」シリーズの中でも最高のオープニング成績を飾ったとしている。

多くのヴィラン(悪役)を捕え、活躍する一方で、かつての親友ネッド・リーズ(演じるのはジェイコブ・バタロン=Jacob Batalon)、恋人であったMJ(ミシェル・ジョーンズ、演じるのはゼンデイア=Zendaya)に自分を偽って会いに行ったりと、孤独ながらも、それなりに充実した生活を送っているピーター=スパイダーマンでしたが、たび重なる負傷のためか、肉体的な変調があらわれ、スーパーパワーを発揮することにトラブルが生じてしまうのでした。

そのタイミングで 人の意識を乗っ取り、意のままに動かす正体不明の存在がニューヨークを脅かします。相手の記憶には存在しなくとも、友人たちを守るために戦う決意を固め、“新しい世界”を守るべく、戦いにおもむくスパイダーマンの運命は。

1962年に原作コミックの1作目が登場した「スパイダーマン」は、普通の高校生であるピーター・パーカーが、特異なクモにかまれたことでスーパーパワーを得て、ヒーローとして活動していくというのがストーリーの骨子となっています。

生まれながらの超人(スーパーマン)ではなく、大富豪(バットマン)でもないピーターは、学業を終えてからもバイトで生計を立て、家賃を払うのに苦労したりと、地に足のついたキャラクターで、本作にも登場する、「親愛なる隣人(Friendly Neighborhood)」
という表現がぴったりのキャラクターです。

2002年から実写映画の3部作(2002年から2007年)、2012年から2作のシリーズ(2012年と2014年)が製作され、2017年からスパイダーマンをトム・ホランドが演じる「スパイダーマン:ホームカミング」(Spider-Man: Homecoming)として、3度めの映画シリーズがスタートします。

2021年の前作「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」で過去2シリーズのスパイダーマンが揃うという、大きなイベントがあり、ラストでピーターが「世界から自分の存在を忘れられた」という現実を受け入れるシーンが描かれることで、シリーズ完結を感じさせましたが、ピーター役のホランド、オタク仲間で親友のネッドのバタロン、ヒロインMJを演じるゼンデイアがそのまま残り、いわば「仕切り直し」の作品となっています。

本来が一般人の高校生であったスパイダーマンは、つかまえた犯罪者たちを“自分で裁く”ことはせず、司法の手に引き渡します。
「悪人であっても自分では裁かない」という価値観だと思うのですが、本作には「悪には容赦しない」というパニッシャー/フランク・キャッスル(演じるのはジョン・バーンサル=Jon Bernthal)が登場します。元軍人のパニッシャー(処刑人)は、とにかく重火器を積極的に活用するというヒーローで、スパイダーマン/ピーターとは対局に位置する存在となっています。

ご存じのようにアメリカは、一般市民が銃の所持を政府が認めている国です。そのため、「とにかく銃器でカタをつける」というパニッシャーのような存在も、是非はともかく、否定はされないのです。自身の破壊衝動のおもむくままに、乱暴な正義を追求するパニッシャーと、「ヒトやモノは極力、傷つけない」というスパイダーマンは、作品内に絶妙なコントラストを描いていると感じました。

そしてもうひとつの特徴だと思うのですが、これまでの実写映画の中で、ホランドのスパイダーマンがいちばん、体に傷を負っている印象があります。たとえヴィランであっても、絶対の死地から救い出し、自分よりも他者を大事にするという、スーパーヒーローとしての超然とした行動の内側では、自分だけが覚えている他者との関係性にとまどいを見せることや、精神的、肉体的なプレッシャーからか、薬に頼る一面をみせるなど、完全無欠の超人ではない弱さが隠れています。

それらをかかえながら、ヒーローとしての活動に励むという、不思議な二面性をもっているのがスパイダーマンの魅力なのだと感じます。「鬱屈はしているが屈折していない」というキャラクター造形には、「まだ未完成のヒーロー」という魅力が存分に残っています。

このシリーズが継続するのかはまだ、定かではありませんが、これまでの最大級のヒットとのことなので、吉報を待ちたいです。次回は「オークストリートの異変」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。