神話をリアルにフイルム撮影で描いた「オデュッセイア」(455)

【ケイシーの映画冗報=2026年9月24日】今回は「オデュッセイア」(The Odyssey、2026年)です。紀元前の古代ギリシア(Ancient Greece)の時代。島国イタケの王オデュッセウス(Odysseus、演じるのはマット・デイモン=Matt Damon)は、10年間、戦い続けたトロイア戦争で勝利したものの、帰郷を果たせていませんでした。

9月11日から一般公開されている「オデュッセイア」((C)2026 UNIVERSAL STUDIOS)。製作費は2億5000万ドル(1ドル=150円換算で約375億円)、世界での興行収入が16億8400万ドル(約2526億円)。興行通信社によると、9月11日から13日の初週で観客動員が24万1000人、興行収入が4億5200万円をあげて初登場2位にランクされた。9月4日からスタートしたIMAX先行上映を含んだ成績は動員が32万9000人、興収が6億5000万円。

故国に残る妻ペネロペ(Penelope、演じるのはアン・ハサウェイ=Anne Hathaway)と、すでに青年に成長した息子であるテレマコス(Telemakhos、演じるのはトム・ホランド=Tom Holland)はオデュッセウスの帰りを待つ一方で、空位であるイタケ王の地位を狙う人々の脅威にさらされていました。

父王の手がかりを求めて、かつての戦場スパルタへおもむいたテレマコスは、その地で父王オデュッセウスの活躍を聞き、同時に凄惨な戦場の実情も知ります。勝利は得たものの、無慈悲な振る舞いにより神の怒りをかったオデュッセウス一行は、大海原をさまよい、苛烈な試練に直面していたのです。

多数の仲間を喪い、イタケへの帰還をはたしたオデュッセウスには故郷での、さらなる試練が待っていました。王位を簒奪しようと画策するアンティノオス(Antinoos、演じるのはロバート・パティンソン=Robert Pattinson)たちにとって、先王オデュッセウスは危険な存在だったのです。

古代ギリシアの吟遊詩人ホメロス(ラテン語でHomerus、英語ではホーマー=Homer)による叙事詩「オデュッセイア」は紀元前700年ごろの成立とされ、西洋文明では最古の古典といわれています。英雄物語の原典にして、手本ともされています。文字としてではなく、口伝による伝承ということで(ホメロスは盲目だったという説も)、原本や原書といった存在は現在まで確認されていません。

日本では、堅固な城塞都市であったトロイア市内に、オデュッセウスと兵士が巨大な木馬像に隠れて侵入し、内部から壊滅させた「トロイの木馬(Trojan Horse)」の逸話ぐらいでしか、一般的ではないのが実情でしょう。

ですが、西洋文明、アルファベット文化圏では、オデュッセウス王の出征からイタケへの帰還にいたるまでの20年の旅路は“オデッセイ(Odyssey、英語)”という表現で「波瀾に満ちた長征」や「苦難の長い旅路」といった意味を表すことばとなっています。

また、主神であるゼウス(Zeus)による人間界の統治が絶対とされた時代に成立した物語のため、神々と怪物が“実在する世界”として描かれていますので、オデュッセウスの一行が対決する、人肉を食らう一つ目の巨人「キュクロプス(Kyklops)」、人間を動物に変えてしまう能力を持つ魔女「キルケ(Kirke)」、航海する人々を歌声で魅了し、惑わせる魔女「セイレーン(Seiren)」といった、現実に存在することが正直、疑わしいキャラクターもCGなどの デジタル技術の活用は最小限におさえ、“実在するもの”として存在感を発揮しています。

監督・脚本のクリストファー・ノーラン(Christopher Nolan、1970年生まれ)は、重厚な作風で知られ、前作「オッペンハイマー」(Oppenheimer、2023年)でも世界初の原子爆弾の起爆シーンを大量の火薬と燃料で映像化したことや、人間の居住できる惑星を捜索するSF作品「インターステラー」(Interstellar、2014年)でも、大きな宇宙船を用意し、キャストと一緒に撮影することで、実在しないものの存在感をスクリーンで表現してきた監督です。

本作でも、実物が残っていない古代ギリシアの船舶を再現し、実際に洋上で航海させることや、巨人「キュクロプス」と、オデュッセウスたちが対峙する洞窟のシーンも、ギリシアに残る本物の洞窟内で撮影しています。

こうしたリアリズムは作品全体につらぬかれ、洞窟や夜の闇は、やもすると事物が暗闇に呑みこまれてしまうほど、暗い世界として表現されています。古代ギリシアの時代、人間の手には炎より明るい照明はなかったのですから、現代とは比較できないほど闇は深く、未知の存在にも現実味が信じられていたはずです。

そのため、映像作品としては“暗め”の夜間照明となっていますが、そこに現実にひそむ暗黒が潜んでいるように感じられました。ノーラン監督はこう語っています。
「『オデッセイア」は長く故郷を離れることの意味、長旅が人や環境に与える影響を語っている。それは私が過去作で扱ってきたテーマで、物語の原典だ」(2026年9月4日付読売新聞)。

本作はフィルム撮影、それも大画面での迫力ある映像と音響に適したIMAX(アイマックス)で全編が撮影されています。

映像作品は映画に限らず、今日ではデジタル撮影が中心ですが、「原典」と指向した作品には、旧来のフィルムでの製作行程が適していたと、強く実感することになりました。壮大な映像作品といえるでしょう。次回は「ハート・オブ・ビースト」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。