前作と変え、凡人の主人公の逃走を描いた「ランニングマン」(439)

【ケイシーの映画冗報=2026年2月12日】今回は「ランニング・マン」(The Running Man、2025年)です。荒廃したアメリカ社会。正義感の強さから上司と衝突してしまい、職を失ったベン(演じるのはグレン・パウエル=Glen Powell)は、病気で苦しむ幼い娘の治療費を得るため、妻シーラ(演じるのはジェイミー・ローソン=Jayme Lawson)の反対を押し切って、テレビ放送で繰り広げられる命がけのゲーム「ランニング・マン」に参加することを決めます。


1月30日から一般公開されている「ランニング・マン」(C)2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.)。興行通信社の映画ランキングでは、1月30日から2月1日の初週で4位、2月6日から8日の2週目で9位にランクされている。

番組プロデューサーのダン(演じるのはジョシュ・ブローリン=Josh Brolin)はエンターティメント性を重視し、番組を盛りあげることしか頭になく、司会者のボビー(演じるのはコールマン・ドミンゴ=Colman Domingo)も観客を煽ることに集中するキャストでした。

30日間、逃げきれば、莫大な賞金を手にできますが、ドローンや一般市民の監視や密告、さらには優秀な追跡者“ハンター”から逃げきることができた人物はいないという過酷なレースに、「家族のために」参加するベン。

その逃避行は周囲の人々によって助けられたことや、追ってきたハンターを倒したことで話題となり、観客も家族のために奔走するベンを応援するようになります。

空前の熱狂を生んだベンの奮闘は、プロデューサーのダンに“路線変更”を想起させます。「番組のさらなる人気」のため、ダンはあるアイディアを提示しますが、ベンは拒否します。家族への危害をほのめかすダンにあらがい、ベンは死のレースを無事に完走することができるのでしょうか。

本作は、世界的に多くの読者を持つアメリカの小説家スティーヴン・キング(Stephen King、1947年生まれ)が、別名義(リチャード・バックマン=Richard Bachman)で著した小説「ランニング・マン」を映画化したものです。映画化としては、1987年に「バトルランナー」(映画の英語タイトルは「The Running Man」)という邦題で日本で公開され、主人公のベンは当時トップ・クラスの人気と知名度をもったアーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger、1947年生まれ)が演じています。

1987年版の主人公は汚名を着せられた元警官で、ボディビルの頂点を究めたシュワルツェネッガーの肉体を重視した作風をめざしたようで、現在のフェイク動画のような「動画の加工」などの描写もありましたが、SF色よりもアクションに寄せた仕上がりとなっていました。

本作のベンは職を失った労働者で、家族のために“命をかける”キャラクターとなっています。ベン役のグレン・パウエルも、脚本を読み、こう感じたそうです。
「近未来が舞台の物語ですが、不思議とその内容はタイムリーに-今現実に起きていることのように感じました。それに主人公が弱者側であるということも気に入りましたね。ごく平凡な人物のベン・リチャーズが壮絶な困難に立ち向かう姿には、誰もが強く共感できると思います。ベンはまさに一般庶民の代表で、彼は決してスーパーヒーローではない。彼はただ、自分が愛する人のために全力で立ち向かうんです」(パンフレットより)

もちろん、まったくの凡人では激しい戦いを生き残ることはできませんが、いかにも“無敵のヒーロー”ではない部分は前作との差異を求めてのことなのでしょう。監督・脚本(共同)のエドガー・ライト(Edgar Wright、1974年生まれ)の世界観の構築について、1987年の前作より、原作にちかい組み立てにしています。
「前作は、ゲームが繰り広げられるアリーナにほぼ舞台を限定していたが、今回は原作のように、どこに行ってもいい設定にしたこと」(2026年1月30日付読売新聞夕刊)として、ベンがアメリカ各地を“ランニング=逃げ回る”ストーリーとなっています。

前作ではベンを狙う刺客が1人ずつ登場し、対決シーンは“決闘”の情景でしたが、本作でハンターたちは集団でベンを執拗に追い続けるので、逃走劇が主軸となっています。なお、原作小説が書かれたのが1982年ですが、作品の舞台は2025年と設定されており、奇しくもアメリカでの公開年となっています。

ライト監督は、
「興味深いのは、1982年に書かれた原作が、現在の私たちのがどんな状況で、どこに向かっているのかを示唆していたことです。(中略)僕らが本作の脚本に取り掛かったのは、2022年の初め頃。たしかにそこから、社会は大きく変化していると実感します」(パンフレットより)。さらに、ライト監督はこうも語っています。
「残念ながら、キングの予言通り、貧富の差は年々ひどくなっていると、僕は思う」(前掲紙)。

この言葉を強く否定することが正直、難しいのですが、本作のベンのような勇気も行動力もないとはいえ、すこしでも良い方向になっていくことを願ってやみません。次回は「クライム101 (ワン・ オー・ ワン)」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。