40年間のAIの進化を見せつけるも、限界もある新「トロン」(431)

【ケイシーの映画冗報=2025年10月23日】今回は「トロン:アレス」(Tron: Ares、2025年)です。テック企業のディリンジャー社は、最新のテクノロジーを駆使して、アメリカ軍の関係者にAI(人工知能)技術によって開発された完璧な兵士「アレス」(演じるのはジャレッド・レト=Jared Leto)と、新型の戦闘兵器システムをプレゼンします。

10月10日から一般公開されている「トロン:アレス」((C)2025 Disney Enterprises,Inc. All Rights Reserved.)。

3Dプリンターで現実世界にあらわれた、デジタル生成の兵士と兵器に関係者は好感を持ちましたが、実際には29分で分解する、未完成品でした。

ディリンジャー社のトップであるジュリアン(演じるのはエヴァン・ピーターズ=Evan Peters)は、自社の存続をかけて、アレスやAI兵器を現実に存在させ続けるための“永続コード”を追い求めていましたが、それを他社のエンコム社の幹部エンジニアであるイヴ(演じるのはグレタ・リー=Greta Lee)が見つけだしたのです。

AI兵士と兵器の永続性をもとめるジュリアンは、実体化させたアレスとアテナ(演じるのはジョディ・ターナー=スミス=Jodie Turner-Smith)に、イヴと彼女の持つ“永続コード”の奪取を命じます。

当初は忠実に命令に従うアレスとアテナでしたが、家族を病で喪ったイヴの内面に触れたアレスに変化が生まれてきます。やがてそれは、自身の生命への渇望となり、イヴとともにジュリアンと戦うことになるのでした。

本作は1982年の映画「トロン」(Tron)、そして2010年に製作された「トロン:レガシー」(Tron:Legacy)の世界に連なるシリーズの3作目となっています。オリジナルの「トロン」は、劇場用映画としてははじめて、コンピュータ・グラフックス・イメージ(CGI)を取り入れた作品として知られています。

これまで、フィギュアを細かく動かしてのコマ撮り撮影(「キングコング=King Kong、1933年」やミニチュアや着ぐるみ(「ゴジラ、1954年」)によって生み出されてきた特撮技術ではなく、コンピュータでの映像作成は、公開された当時は、あまり歓迎されなかったといいます。

過去の蓄積からアナログ技術は熟成されており、まだ、CGと実写のマッチングも不安定だったのですが、やがて、おおくの映像作品にCGは導入されていきます。

CG映像は一気に広まり、1990年代には、一部の俳優の動きすら表現できるようになっていき、現在では生成AIの技術により、俳優の音声が完全に生成することが可能となり、映像に完全に架空の人物を登場させるということも実現しています。

当然ながら、最初の「トロン」の公開時にそのような、「現実世界とデジタルの融合」は、あくまで“空想上の存在”でしかなく、作中のように「現実世界の人物がデジタルの世界に転送される」というのは、いまだに現実化はしていないはずです。

とはいえ、第1作の与えた影響は大きかったようで、主人公でAI戦士であるアレスを演じ、本作のプロデューサーも兼ねているジャレッド・レトは、1982年の公開時にオリジナル作品を鑑賞したことについて、
「当時『トロン』を観て一瞬で恋に落ちたんです。想像力を掻き立てられ、僕を捉えて放しませんでした。見たこともない世界が目の前に現れたんです」(パンフレットより)と、そのインパクトを語っています。

こうした感覚は、監督であるヨアヒム・ローニング(Joachim Ronning)にとってもおなじだったようで、
「1作目を観た当時、僕はまだ子供で内容をよく理解していませんでしたが、何かすごいことが起きているという予感がしてすっかり魅了されました。(中略)元祖『トロン』は、テクノロジーもコンセプトもきわめて革新的でしたし、いろんな意味で傑作だと思います」(同上)。

40年にもわたるシリーズですが、1作目の脚本、監督であったスティーヴン・リズバーガー(Steven Lisberger)が2作目と本作では製作として作品に参加しており、さらには1作目の主人公であったケヴィンを、ジェフ・ブリッジス(Jeff Bridges)がそのまま演じており、これはじつに希有な例だといえます。

ローニング監督も、「彼(リズバーガー)こそが、この世界観の生みの親です。(中略)『トロン』の精神を脈々と受け継いでいる人であり、込み入った質問がある時には誰もが頼れる存在です」(同上)と称賛を惜しみません。

テクノロジーが進化し、現代が40年前とかけ離れた世界であることは、まちがいありません。それでも俳優の演技は存在しますし、本シリーズの象徴的シーンである、「ライトサイクル」(バイク)の追跡シーンは原型となるバイクを走らせて撮影しているそうですから、まだまだ「完全なデジタル世界」は難しいのでしょう。次回は「Mr.ノーバディ2」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。