温かみにある人物で現実の厳しさを知らせた「ペリリュー」(435)

【ケイシーの映画冗報=2025年12月18日】今回は「ペリリュー 楽園のゲルニカ」です。1944年、西太平洋にある美しい島ペリリュー島。迫るアメリカ軍から島を防衛する日本陸軍の兵士である田丸均一等兵(声の出演は板垣李光人=いたがき・りひと)は、“実戦向きではない漫画家志望”ということから、上官の島田洋平少尉(声の出演は天野宏郷=あまの・ひろさと)から、戦友の最後を遺族に伝えるための記録を残す「功績係」を命じられます。

12月5日から一般公開されている「ペリリュー 楽園のゲルニカ」((C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー 楽園のゲルニカ」製作委員会)。作品は「PG12」(小学生以下は保護者の助言・指導が必要)に指定されている。興行通信社の映画ランキングでは、12月5日から7日の初週で6位、観客動員が6万6000人、興行収入が9195万円、12日から14日の2週目で10位にランクされている。

戦友たちがたとえ「事故死」であっても「名誉の戦死」と遺族に伝えることを課せられたのでした。そして、攻めてきたアメリカ軍と激しい戦闘となり、田丸たち日本軍は壊滅的な損害を被ります。

指揮官である島田少尉と離れてしまった田丸は、優秀な射撃手の吉敷佳助上等兵(声の出演は中村倫也=なかむら・ともや)、上官でリアリストの小杉伍長(声の出演は藤井雄太=ふじい・ゆうた)と行動をともにして、戦闘ではなく生き残ることが行動原理となっていきます。

大きな戦闘がおさまり、島田少尉らと合流した田丸たちは、生活の物資をアメリカ軍から調達するようになります。持久作戦をつづける日本の残存兵たちでしたが、やがて、世界情勢の変化を徐々に知ることになるのでした。

今年は、太平洋戦争(大東亜戦争)の終結から80年という節目もあってか、いろいろなメディアで「戦後80年」という作品や記事が見受けられました。すこし前に本項でとりあげた「木の上の軍隊」も、そこに連なる1本といえるでしょう。

本作はマンガ家の武田一義による原作マンガのアニメ映画化で、武田自身もアニメの脚本(西村ジュンジとの共同)というかたちで作品に参加しています。

当初、武田は「ペリリュー島」の存在を知らなかったということです。戦史に明るい友人に尋ねると、「一般的な戦いではないが、日本軍が本格的にアメリカ軍の戦法を学び、短期決戦ではなく持久戦をするようになった最初の戦いで、この戦いを参考にして日本軍は上陸するアメリカ軍と戦うようになり、ある程度の善戦が可能となった、転換点でもあった」とのことでした。

ちょうど10年前の2015年に戦後70年というタイミングで戦争を扱うマンガを手がけたことから、2016年から雑誌連載(白泉社の「ヤングアニマル」)というかたちで原作マンガを描いた武田によると、「特定の人の体験に寄り添い過ぎると作品としては視野が狭くなるかもしれないという葛藤があった。だから、キャラクターはオリジナルにして、史実に沿った方が色んなことが描けると思った」(2022年9月13日付読売新聞)という判断から、本作のおおきな特徴である、ディフォルメされた3頭身の登場人物というアウトラインが生まれたようで、そこにはこうした意図もあるそうです。

「『ペリリュー』を描くときに強く意識したことは、現実の残酷な描写を描写するときそれは事実であっても不必要に残酷さや読者へのストレスを与えないようにずっと気をつけていました。『ペリリュー』はやわらかい優しい絵柄を作りましたが、今回のアニメーション映画でも同じようにキャラクター・デザインをしてもらっています。この絵柄でも描かれている事実は変わらないです。だから必要以上に観客さんに対して戦場の残酷さを誇張して見せたいわけではない(後略)」(「映画秘宝」2026年1月号より)。

このコメントを読んだり、作品を観る前からあるアニメーション映画が想いだされました。「かわいくデザインされたキャラクターが、激しい戦闘を経験する」ということで、「ペンギンズ・メモリー幸福物語」(1985年)という作品との共通項をおぼえたのです。

当時、放送されていたCMに登場する、愛らしい造形の「パピプペンギンズ」が、ベトナム戦争をイメージさせる戦いに参加して心に傷を負う、というストーリーで、戦場シーンは冒頭の10分程度でしたが、夜のジャングルから大量の弾丸が主人公たちに浴びせられたり、避難する民間人(ペンギン)がヘリコプターから機銃掃射されるなど、かわいらしいペンギンたちによって、過酷な戦場が冷徹に描かれており、目の前で戦友を喪った主人公の喪失感が緻密に表現されていた佳作です。

あたたかみのあるキャラクターで、現実のもつ厳しさを一層、強く印象づかせるというのは、技術的には難儀なことでしょうが、インパクトのある情景を生み出し、観客に訴えかけるなど、さまざまなハードルをクリアしていく必要があるのは確実なのですが、功を奏したおりには、じつに魅力的な作品となるのです。例えば、40年前の「幸福物語」や本作のように。次回は「アバター: ファイヤー・アンド・アッシュ」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。