立川銀座で福富友子がカンボジア影絵芝居を実演

【銀座新聞ニュース=2015年1月16日】立川ブラインド工業(港区三田3-1-12、03-5484-6100)の銀座ショールーム(中央区銀座8-8-15、03-3571-1373)地下1階「タチカワ銀座スペースオッテ(Atte)」で1月16日14時から福富友子さんが「スバエク・トム」を実演した。

立川ブラインドの銀座ショールームで「スバエク・トム」を解説する福富友子さん。

立川ブラインドの銀座ショールームで「スバエク・トム」を解説する福富友子さん。

1月18日まで開催されている「クメール伝統文化、遺跡と人と生活と」影絵と写真展に関連したイベントで、カンボジア・シエムリアプ州タボル村でナップ・パウ(1927-2010)が制作した「スバエク・トム」の人形(パネル)とサラコンサエン村にティー・チアン一座を構える座長のチアン・ソパーン(1979年生まれ)の作った人形が展示されている。

「スバエク・トム」はカンボジア(クメール)の影絵芝居で、2005年にユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産(人類の口承及び無形遺産の傑作)に登録されている。

人形を掲げて「スバエク・トム」を実演してみせる福富友子さん。

人形を掲げて「スバエク・トム」を実演してみせる福富友子さん。

「スバエク・トム」とは影絵芝居と訳されているが、10メートル以上の長さと4メートル以上の高さのある大型スクリーンの表と裏を使い、座長など2人の語り部と4人による古典音楽の生演奏に合わせて、10人が牛の皮で作られた人形(パネル)を動かしていく。

裏ではココナツのヤシ殻と樹脂燃料を使ってだいだい色のかがり火を灯し、それを絶やさないようにする「火守り」も2人ほどいるという20人の男性で取り組む大がかりな「影絵」だ。

演目は古代インドの英雄ラーマー王子の伝説をまとめた大叙事詩「ラーマーヤナ」がカンボジアに伝わってできた物語「リアムケー(リアム王子の栄光)」からとられたエピソードのみで、しかも、演じられる場面もリアム王子が魔王に妻のセダー妃をさらわれ、弟と一緒になって救出するという筋と決められている。

展示されている「スバエク・トム」の「リアム王子」の人形(パネル)。座長などが自ら造ったノミなど20種類の工具で牛の皮を使って制作する。公演には10人で150体を動かす。

展示されている「スバエク・トム」の「リアム王子」の人形(パネル)。座長などが自ら造ったノミなど20種類の工具で牛の皮を使って制作する。公演には10人で150体を動かす。

「クバン」という特別の衣裳をまとった福富友子(ふくとみ・ともこ)さんはそうした説明をしながら、時には両手で人形をもって実演し、人形によって歩き方が違うことなどを見せてくれる。「かつては夜8時から8時間も演じていたそうですが、今は1、2時間程度で演じられることが多い」という。

「スバエク・トム」はかつては国王や高僧が亡くなった際の「火葬儀礼」として演じられてきた。カンボジアでは高僧が逝去すると、1年から3年も遺体を安置し、その後、火葬場を設けて火葬に付すことになるが、その際に、毎日、「リアムケー」から取られた物語が演じられた。そこから、演じられる内容が決まってきたのではないかと福富友子さんはみている。

ただ、現在のカンボジアでも「リアムケー」を全編知る人が少ないという。日本でいえば「平家物語」や「源氏物語」のようなもので、筋の一部を知っている人はいるが、全編を知る人が限られており、しかも、王族の表現もあり、現代のカンボジア人にはなじみが薄くなっている。

現在、一座を構えているのは6組で、常設小屋があるが、通常はスポンサーが公演料を払い、観客は無料で鑑賞できるという方式だ。

カンボジアでは1960年代末から1990年代半ばまでの長い内戦の影響で、シエムリアプ州にあった「スバエク・トム」に必要な150体以上の影絵人形がすべて消失してしまい、シエムリアップの一座は、25年以上も人形を手にすることができなかった。

その後、フランスの美術館に「スバエク・トム」に使われる人形の写真が残されていることがわかり、それを元に復興した。1997年にはシエムリアップ州のティー・チアン一座がプノンペン芸能局と混成のグループを作り、日本で公演し、その際に通訳などを務めた福富友子さんが、同行しているうちにその魅力に取りつかれ、ティー・チアン一座の座長に弟子入りし、自ら「スバエク・トム」を演じながら保存、復興に取り組んでいる。

福富友子さんは1962年生まれ、日本獣医畜産大学を卒業、1989年に初めてカンボジアを旅行し、1994年1月から首都プノンペンに住み、1997年にシェムリアップ州に移り、「スバエク・トム一座」に入り、長老から「スバエク・トム」の演技を学び、2001年5月に「カンボジア伝統影絵復興会」を発足、現在、日本に住み、東京外国語大学非常勤講師を務めている。

開場時間は10時(初日は13時)から18時(最終日は16時)。