過去の名作へのオマージュが楽しめる「ノボカイン」(423)

【ケイシーの映画冗報=2025年7月3日】今回は「Mr.ノボカイン」(2025年、Novocaine)です。アメリカのサンディエゴで組合銀行の副支店長を担当するネイサン(演じるのはジャック・クエイド=Jack Quaid)は、先天性無痛無汗症という遺伝的な疾病をもっていることから、自身が目立たないことに注意を払う、内気な人生を送っていました。

6月20日から一般公開されている「Mr.ノボカイン」((C)2025 PARAMOUNT PICTURES.)。作品は「R15+」(15歳未満は鑑賞できない)に指定されている。

いちばん親しい友人はネットゲームの仲間で、リアルで対面したことのないロスコー(演じるのはジェイコブ・バタロン=Jacob Batalon)というネイサンに、転機がおとずれます。新人の女性スタッフであるシェリー(演じるのはアンバー・ミッドサンダー=Amber Midthunder)が、ネイサンの無痛体質に興味を抱いたというのです。彼女の幼少期における過酷な状況を知り、お互いの境遇に共感したふたりは恋人同士ということに。

新しい人生を歩み始めたネイサンでしたが、勤め先で犯罪に巻き込まれます。サンタに扮した銀行強盗がネイサンのつとめる銀行を襲ったのです。大量の現金を奪ったサンタの強盗団は、警官隊と銃撃戦を繰り広げ、逃走のためにシェリーを連れ去ってしまいました。
愛する女性を救うため、撃たれた警官の銃とパトカーを使って犯人を追うネイサン。経験も実行力もある強盗チームに、痛みを感じない肉体と、自分が負傷したときに活用できる医学の知識、そして彼女を救いたいという熱意だけで相手を追うネイサン。

その一方で、シェリーは強盗団のリーダーであるサイモン(演じるのはレイ・ニコルソン=Ray Nicholson)と、何か関係がある様子なのでした。

「痛みを感じないだけの普通人」であるネイサンへのあだ名で、原題の“ノボカイン=Novocaine”は局所麻酔の一種ですが、“痛くない”ということからキツくあたってきた学友達がつけた、悪意を含んだ呼び方です。そのほかはいたって平凡で、痛覚などがない以外は一般的な人生を送ってきたネイサンは、どこにでもいそうなアメリカ人の若者というイメージで描かれています。

そのネイサンを演じるジャック・クエイドも、目立った印象をあたえてきません。父親はデニス・クエイド(Dennis Quaid)、母親はメグ・ライアン(Meg Ryan)というハリウッドの映画スター(1991年に結婚、2001年に離婚)の実子という、一見するとめぐまれた出自のようにみえますが、デビュー後もハリウッドでは大役にはめぐりあえずにいました。

たしかに本作では、あまり目立たない「どこにでもいそうな青年」が一気呵成に邁進していくから楽しめるというのは明確な部分といえます。いかにも“スーパーヒーロー然”とした人物では魅力を減じてしまうでしょう。

また、本作にはさまざま映画の名作や佳作へのオマージュが強く感じられるのも印象的です。ネイサンが「情にあつい金融業者」で返済に苦しむ人物へ有利な返済計画を組んでしまうという、職業倫理的にはマズいのですが、困窮者にやさしいのは、ハリウッド映画の古典的名作「素晴らしき哉、人生!」(It’s a Wonderful Life、1946年)の主人公ジョージの影響に思えます。銀行強盗事件がクリスマスというタイミングなのも「素晴らしき哉、人生!」のストーリーに重なります。

ネイサンやシェリーが遭遇する銀行強盗のシーンは、もう30年前の作品ですが、映画史に残る一大銃撃戦のシーンで知られる「ヒート」(Heat、1995年)の銀行襲撃が大きなヒントとなっているのでしょう。

サンタクロースの犯罪チームというのは、犯罪アクション映画の佳作「レインディア・ゲーム」(Reindeer Games、2000年)を連想してしまいました。広く知られた作品ではないのですが、本作での犯罪チームとヒロインの構図にも、この作品との共通項が感じられたのであげてみました。

こうして記してみると、なにやら“過去作の二番煎じ”のように見えるかもしれませんが、主人公ネイサンの“無痛覚”という要素が強力なので、作品の魅力を減じる要素とはなっていません。むしろ、「そうか。痛みを感じないネイサンだとこういうことになるのか」
と感じることの方が強く、過去作の影響もむしろ、作品の魅力となっているといえるでしょう。

もちろん、ネイサンのケガや無痛の表現は、面白おかしい方面にシフトしており、「そんなバカな」という部分もありますが、娯楽としての鑑賞には許容できるものとなっています。

最後になりますが、旧友のプロスポーツの経験者に“痛み止め”の怖さについて教えてもらったことがあります。「感覚がないから、ケガしたことがわからない」ので「酷使してさらに悪化させる」ことがあるそうです。痛いのは好きではないですが、大切な感覚なのですね。次回は「スーパーマン」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。