古風な映像で非日常的な作品を楽しめる「クライム101」(440)

【ケイシーの映画冗報=2026年2月26日】今回は「クライム101 (ワン・ オー・ ワン)」(Crime 101、2026年)です。アメリカ西海岸の101号線。この高速道路の周辺で宝石だけを狙う強盗事件が幾度も起きていましたが、鮮やかな犯行により、警察も手をこまねいている状況でした。

2月13日から一般公開している「クライム101」。興行通信社の映画ランキングによると、13日から15日の初週で7位にランクされている。

その犯人は一匹狼のマイク・デーヴィス(演じるのはクリス・ヘムズワース=Chris Hemsworth)で、入念な準備と盗んだ相手を傷つけず、獲物だけを奪うことでリスクを最小限にとどめていましたが、ささいなことから、証拠を残さないという完全犯罪に綻びが生じてしまいます。

そのなぞの宝石強盗犯を追う刑事のルー・ルベスニック(演じるのはマーク・ラファロ=Mark Ruffalo)は、実直すぎる勤務態度から仲間の刑事からはうとまれ、妻とも破綻寸前のありさまでしたが、執拗に捜査を続けていました。

ルーは強盗事件の捜査をきっかけに、富裕層向け保険会社のエージェントであるシャロン・コルヴィン(演じるのはハル・ベリー=Halle Berry)と知り合います。やがてシャロンはマイクとも面識を持ちますが、大きな宝石取引の極秘情報を知らせるよう、マイクに依頼されます。

マイクは自身が捜査線上にあがっていることを察知し、「大きな仕事」を果たすことで犯罪から足を洗うことを考えていたのです。自分の過去も人生も覆い隠して生きることに限界も感じての決断でした。

マイクの誘いを一度は断ったシャロンでしたが、仕事の成果が自身の評価に反映されないことから、現状に見切りをつけることを決意し、マイクとの謀議を受け入れてしまい、宝石強盗の企みに加わることに。ルー刑事も、その犯行現場を押さえようと、警察官としての法規を逸脱する覚悟を固めるのでした。

本作を鑑賞していて、印象に残ったのが、「映像のクラシックさ」でした。監督・脚本のバート・レイトン(Bart Layton)は、ドキュメンタリーを中心に活動してきた人物で、実録よりの古風なシーンが多く、斬新な映像や、CGはなく(絶無ではないでしょうが)、過去の作品的な仕上がりを指向していると感じたのです。

実際、レイトン監督は1973年の「スティング」(The Sting、2026年中にリバイバルで上映予定)や1968年の「華麗なる賭け」(The Thomas Crown Affair、作中に登場します)といった往年の名作をあげ、「登場人物はどれもリアルだし、人間ドラマであったり、光と影がありました。そういう映画体験は今でも通用するんだと是が非でも伝えたくなったんです」

“光と影”という言葉どおり、冒頭で宝石強盗のマイクが、犯行前の下準備をおこなうシーンでは陰影が強調され、自身の肉体から髪の毛や皮脂を落とし、身体を清めている情景をシルエットによって、入念に映します。

独り暮らしには広すぎる屋敷に、高級車に上等なスーツと高級腕時計をそろえても、どこか空虚な生活感が、「痕跡を残さない犯罪者」というマイクを流麗に引き立てています。

追う側のルー刑事は、妻との関係は冷えきり、署内でも同僚から浮いた人物として描かれています。生活態度もほめられたものではなく、くたびれた中年男性というイメージですが、「(前略)署の連中とは、ノルマがあるからなのか、ルーとは別の手段をとろうとして、ずっと対立を続けます」と、演じたラファロが語るように、警察官としての職務には忠実で、演じるラファロの力量もあってか、不愉快な印象は最小限になっています。

主要な人物3人のなかで、仕事と人生にいちばん、真摯に向き合っているのが、富裕層向け保険のエージェントであるシャロンでしょう。精力的に働き、成果も残しているのですが、社内での評価と地位はかんばしくありません。

シャロン役のハル・ベリーいわく、「あの会社に関わっている限り正当な地位を得られないのは明らかです。(中略)私、この人を役として演じたいだけじゃなく、世の中に向けてこの人を代弁したいんだって」(いずれもパンフレットより)

犯罪者と警察、保険会社というように立場は三者三様でありながら、現状には不満を抱いているという共通点もあり、この3人が繋がっていく過程が、正統的でクラシックな映像から、自然な流れで描かれていくのです。

もちろん、エンターテイメント作品ですので、現実の忠実な映画化ではありません。マイクのように完璧な犯行が幾度も成立するのは困難でしょうし、ルー刑事のようなキャラクターは現実に存在することも考えにくいです。

非日常だからこそ、作品を鑑賞して楽しめるというのも、エンターテイメントの魅力なのです。すくなからず現実は単調で、退屈に感じることも少なくありませんから。次回は「木挽町のあだ討ち」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。