インド、13日連続30万超で2000万突破、邦人160人が感染(69)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年5月25日】5月4日の統計で、インドの累計感染者数が2000万人を突破した(2030万人、うち回復者1660万人)。1日の新規数は35万7000人、4月30日の最多記録40万人超を下回ったものの、30万人突破は13日連続だ。新規死者数は3449人(累計22万2000人)と、依然世界最多だ。

5月5日から居住州オディシャで、再ロックダウンが始まる。画像は観戦記創刊号(2019年4月13日)に掲載したものだが、悪夢の再現、既に週末封鎖が始まっており、まったく同じ風景が繰り広げられている。ホテル街は門を閉ざし、閑散としている。1年以上を経て、またベランダからの眼下に同じ光景を見ようとは。私はいまだにインドに監禁状態で身動きがとれない、SOS!

未曾有の危機は続いており、首都圏デリー準州(Delhi、累計121万人、新規1万8043人、死者1万7414人)のみならず、南のカルナータカ州(Karnataka、累計165万人、新規4万4438人、死者1万6250人)やアンドラプラデシュ州(Andhra Pradesh、累計116万人、新規1万8972人、死者8207人)でも、酸素不足で何十人もの死者が相次いだ。

全土的に見ると、勢いは若干弱まりつつあるものの、首都の酸素不足は依然解消されず、デリー高等裁判所をして、供給を妨げる者は誰であろうと、絞首刑に処すると、最大限の強い戒告をもって、行政の怠慢を叱咤せしめた。司法当局でない一個人の私とて、いまだキャピタルの酸素不足が解消されないとは、一体何をやってるんだろうと、怒り嘆きを通り越して唯々呆れ返るばかりだ。

デリーは連邦直轄領で、中央政府(インド人民党)の権限が強いため、これまでも市民政府(庶民党)との間のいざこざ、知事との紛糾が絶えなかったが、人命尊重の観点からすれば、そうした政治的相違はこの際置いて、一刻も早い酸素供給が待たれる。一刻一秒を争う緊急時で、何をぐずぐずしているのかと、在外者の私ですら歯がゆい。

返す返すも、集団免疫説とは一体なんだったのかと、不思議に思うばかりだ。市民の4人に1人が抗体を持っていたはずではなかったのか。亜熱帯という苛酷な土壌で伝染病蔓延の不衛生な環境下、強靭なはずのインド人がばたばた息切れして倒れるとは信じがたい。

西ベンガル州議選で圧勝した、全インド草の根会議派党首、マムタ・バネルジー。モディ首相は、インド人民党の応援演説に現地まで駆けつけたが、予想に反して敗退、ベンガルの虎との異名を持つ強権マムタに勝てなかった。

集団免疫幻想のまやかしを食らって、過信したのは政府だけでない、一個人の私としても、てっきり信じ込んでいたため、抗体なんかまったくできてなかったことを目の当たりにし、唖然とさせられている。

産業界からは前代未聞の危機に瀕して、全土ロックダウン(都市封鎖)を求める声すら高まっている。経済への大打撃は承知の上で、人命優先、良心にもとる社会的責任からだ。1980年代にインドに進出し、車業界のトップをひた走る日本のスズキもそのうちの1社だ。

一方、当オディシャ州(Odisha)は5月5日から2週間の再ロックダウンが始まる。市場には、パニック買いに走る人があふれ、ソーシャルディスタンスがまったく守られていない。当州は一時新規数が1万人を突破したが、今はかろうじて8000人台(8914人)に収まっている(累計47万2000人、回復者40万4000人、死者2073人)。しかし、南のアンドラプラデシュ州やテランガナ州(Telangana)からの別種のさらに強力と言われる変異株の脅威で州境封鎖、追って再ロックダウンが決まったものだ。

5日にロックダウンを控え、浜にはいつも以上の地元民の人出かあった。クリケットに興じる子どもたちの姿も久々に、お目見えした。私自身も、見納めのつもりで浜の散歩に出たのだが、西の空には淡いオレンジの斜陽が雲間から漏れ、爽やかな夏の夕暮れに人心地つく思い、5日からの禁足令を前に、浜の雰囲気を堪能した。

○政界ニュース/州議選でインド人民党敗北

4月29日に終了した西ベンガル州(West Bengal)議会選挙の開票結果か明らかになった。与党の全インド草の根会議派(Trinamool Congress)が290席中213席を占め圧勝、インド人民党(Bharatiya Janata Party=BJP、77議席)を打ち負かした。

在職のマムタ・バネルシー(Mamta Banerjee)女性首相は、自身は新選挙区・ナンディグラム(Namdigram)で僅差で破れたものの、高らかな勝利宣言、選挙暴動で足を骨折という思わぬ事故に見舞われながらも、車椅子で遊説、応援演説に駆けつけた中央政府のモディ(Narendra Damodardas Modi)首相と激しい舌鋒戦を交わしたが、軍配はマムタに上がった。

同州のコロナルール無視の政治集会で感染者が急増している現在、大々的な祝賀はご法度、選挙が終わった今は、コロナ征伐に戻るべきときだろう(累計88万1000人、新規1万7501人、死者1万1637人)。

南部ケララ州(Kerala)でも、左派連合が政権を維持し、南部タミルナドゥ州(Tamil Nadu)ではドラビダ進歩同盟(DMK)が10年ぶりに帰り咲き、インド人民党が勝利したのは、北東部アッサム州(Assam)のみ(政権維持)だった。

○コロナ速報/在留邦人女性、初の死亡

インドの首都デリー在住の邦人女性(48歳、大阪出身)が5月3日、新型コロナウイルス感染で死亡していたことがわかった。詳細は不明だが、女性は10年前にインドに移住、長男と同居していたという。

インド全土で在留邦人はおよそ160人感染していると言われるが(全土の邦人数は約1万人)、都市部の医療が崩壊しているため、ほとんどが自宅療養、自力で治しているようだ。感染しても、適切な治療が受けられないことから、自宅療養中に容態が急変することもありえ、今後の邦人安否が懸念される。

韓国政府はチャーター便をインドに派遣し、自国民の救済に乗り出す予定のようだが、日本政府からも喫緊の救済措置がもたらされることを、在留邦人の1人として切に望む。

○コロナ余話/億万長者、チャーター機で国外逃亡

インドは、貧富の差が極端な国だが、桁違いのスーパーリッチ層が、TSUNAMI級第2波下の自国を、プライベートジェットで逃亡、行先はドバイや英国、片道切符代は、前者が2万ドル(約200万円)、後者が14万8000ドル(約1480万円)と、目を剥くようなお値段。アラブ首長国連邦が差し向けるチャーター機は、1日12便も出すなど、需要大。

庶民が酸素不足で息絶えていく惨状をしり目に、不謹慎とも言えるアンチナショナル行為、それだけの金があったら、コロナ患者救済に使ったらどうだと毒付きたくもなるが。

しかし、誰しも我が身が一番身可愛い、自分の命を救うためならなりふり構わず、経済力があるだけに金に糸目をつけず、地獄脱出したくなる気持ちもわからないでもない。

かと思うと、富裕層でもない中流市民が、コロナ下貧窮に喘ぐ人々への食料提供や、患者への酸素供給支援に乗り出すなど、奇特な者もおり、人格の差が如実に浮き彫りになるパンデミック(世界的流行)時代だ。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年5月14日現在、世界の感染者数は1億6118万5204人、死亡者数が334万4737人、回復者が9710万5929人です。インドは感染者数が2401万1512人、死亡者数が26万1973人、回復者が2004万5542人、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3285万3003人、死亡者数が58万4487人(回復者は未公表)、ブラジルの感染者数は1543万3989人、死亡者数が43万0417人、回復者数が1366万2690人です。日本は感染者数が66万7563人、死亡者数が1万1315人、回復者が57万4572人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。

2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックダウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せている。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いている。編集注は筆者と関係ありません)。