【ケイシーの映画冗報=2025年8月28日】今回は「雪風 YUKIKAZE」(2025年)です。太平洋戦争(大東亜戦争)の転換点となった1942年6月のミッドウェー海戦。沈没艦から脱出した2等水兵の井上壮太(演じるのは奥平大兼=おくだいら・だいけん)は、救助にあらわれた駆逐艦「雪風」の先任伍長である早瀬幸平(演じるは玉木宏)に助けられます。

8月15日から一般公開されている「雪風 YUKIKAZE」((C)2025 Yukikaze Partners.)。15日から17日の3日間の初週の興行成績は興行通信社によると、観客動員数が23万3000人、興行収入が3億1500万円で6位にランキングされた。
1943年10月、井上が魚雷を担当する水雷員として「雪風」に乗り組みます。その水雷科を束ねるのが早瀬であり、両者は再会を喜び合いました。同時に「雪風」は新たな艦長として寺澤一利(演じるのは竹野内豊=たけのうち・ゆたか)が着任し、戦局が不利となるなか、戦場となった海で戦い、波間をただよう将兵を懸命に助けるという責務に励んでいきます。
終戦後も生き残った「雪風」は、外地に残された日本人を帰国させるための復員船として活動したのち、賠償艦として中華民国(現在の台湾政府)に引き渡され、かの地でも活躍することになるのでした。
本年が終戦から80年というタイミングもあってか、前々回にとりあげた邦画「木の上の軍隊」のように、戦争を扱った作品が映画やテレビ、書籍などで増えています。
さまざまな視点がありますが、やはり終戦というタイミングですと、きびしい戦況がクローズ・アップされます。戦争後半となると、飛行機による体当たり攻撃や、南方各地での絶望的な戦場がおおく、「木の上の軍隊」でも、沖縄に侵攻したアメリカ軍の圧倒的な戦力に圧倒される、日本軍の情景が描かれています。
そんななか、多くの海戦に参加しながら、ほとんど無傷で生き抜き、激戦を繰り広げながらも、一説に戦死者もわずかに13名とされる駆逐艦「雪風」は“幸運艦”や“不沈艦”として知られた存在です。大きな損傷もなく、戦い続けたフネとしては、特筆される存在であり、エピソードもふんだんに残されていますが、本作は劇中に、
「この物語は史実に基づいたフィクションであり、人名・事象・時制などに架空の設定が含まれています」
というテロップが挿入されていることからわかるように、「幸運艦・雪風」という存在をベースとした、寓話的な映像作品だと感じました。
作中の寺澤艦長は、演じた竹野内豊が語るように、
「本作の寺澤艦長は、史実の時系列では6人の艦長が担った在任期間を一人にまとめた架空のキャラクター」(パンフレットより)という、実在しない人物となっています。
本作の製作についての原動力となったのが、昭和史の研究で知られた作家の半藤一利(はんどう・かずとし、1930-2021)による企画や著作となっており、終戦から25年後の1970年に、半藤の企画により、生き残った「雪風」の艦長が集まり、語り合うという機会があったのだそうです。
「その歴代の艦長4人が生き残っていたんで、全員集めて座談会をしたんですよ。ヒゲの寺内正道(注・てらうち・まさみち、1905-1978)さんというのが最後の艦長で、レイテ沖海戦(1944年10月20日から10月25日)とか沖縄特攻(1945年4月7日)とか終盤の戦いを指揮したのはすべて彼でした」(半藤一利「わが昭和史」より)
戦史、歴史に詳しい友人に、その座談会についてたずねると、「半藤一利責任編集 太平洋戦争日本軍艦戦記」(1970年11月に文藝春秋臨時増刊号)というムックにあるモノだろうということでした。原典は1970年ですが、最近、復刻版(2025年6月)が出たとのことです。その「栄光の駆逐艦・雪風 四人の勇猛艦長」にある寺内艦長のコメントが、とくに印象に残りました。
「だって、やられる気がぜんぜんしないものだからネ。だから、大和隊の一艦として出撃するとき、徳山で、ほかの艦では最後の手紙とか、髪の毛を切って送るとか、そんなことをやっておったが、わしの艦だけはそんなことはやらん。(中略)爪を切ったりした艦はみんなやられちまったからね。(中略)そりゃまあ、われわれは消耗品あつかいで、いまでも生きてきたんだから。しかしネ、消耗品というやつも必要なんだ。わたしは消耗品で甘んじている。そうでなけりゃいかん。消耗品に甘んずるような人間がいれば、敗けたってなんだって、日本は大丈夫なんだ。」
本作品に描かれているさまざまなピース(“現代”として挿入される1970年の大阪万博まで)が、寺内艦長のこの一文に集約されていると感じました。
もちろん、本作のすべてが史実に則っていないことは、作り手サイドからも明示されています。その上で、「ひとつの物語」としての“幸運艦・雪風”を伝えていこうという意義はよい評価をするべきと感じます。エンターティメントは事実を積み上げていくのが、その主軸ではないのですから。次回は「ベスト・キッド:レジェンズ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。