戦いが終わっても解決されない現実を描いた良質な「宝島」(429)

【ケイシーの映画冗報=2025年9月25日】今回は「宝島」(英題:HERO’s ISLAND、2025年)です。1952年、アメリカの支配下にある沖縄のコザ、米軍基地に侵入して軍需物資を盗み出す“戦果アギヤー”と呼ばれる若者グループがありました。ある夜、いつものように軍需物資を運んでいると警備隊に発見され、追撃を受けます。被害者も出るなかでリーダーのオン(演じるのは永山瑛太)は、仲間を逃がすことに成功しますが、当人は行方しれずとなってしまいます。

9月19日から一般公開されている「宝島」((C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会)。上映時間は191分と3時間を超える長編だが、興行通信社の映画ランキングによると、19日から21日の初週で観客動員11万4000人、興行収入が1億5600万円をあげ7位にランクされている。真藤順丈の原作「宝島」は2019年に第160回直木賞を受賞している。

それから6年、オンの手がかりをもとめて、元メンバーで親友のグスク(演じるのは妻夫木聡)は刑事になっていました。オンの恋人だったヤマコ(演じるのは広瀬すず)が、オンの希望だった小学校の教員を目指して勉強中、オンの弟であるレイ(演じるのは窪田正孝)は地元のヤクザとなり、裏社会でオンの姿をもとめていました。

三者の願いはひとつ、オンと再会することだったのです。戦禍と敗戦に打ちのめされた沖縄の人々にとって、アメリカの行政に、さらに逼塞した生活を余儀なくされていました。駐留する軍人、軍属によるトラブルは常にアメリカ側によって処理され、グスクたち地元の警察官の捜査にはいくつもの制約が存在したのです。

念願かない、教員となったヤマコの小学校に、アメリカ軍の戦闘機が墜落します。小学生をふくめ、多くの犠牲者が出たことで、アメリカ軍への拒否感を強くしたヤマコは、基地の反対運動に取り組むようになるのでした。そして、当初はアメリカの占領政策への反発から暴れていたレイも、地元のヤクザ同士による“内部抗争”が広がったことで、当初の目的から乖離していたのです。

やがて、沖縄の日本への復帰が決まり、グスク、ヤマコ、レンはその歴史の転換点に立つとともに、姿を消したオンの“知らされなかった真実”にも直面するのでした。

本作は、冒頭の“戦果アギヤー”(戦果を挙げるもの)が疾走する1952年からの約20年間にわたる、沖縄の日常を切り取って活写した作品となっています。すこし前にとりあげた映画「木の上の軍隊」は沖縄戦と終戦直後が描かれていました。敗戦を知らずに戦う日本軍の兵士が生きながらえることができたのが、占領軍であるアメリカの廃棄された物資だったという、“きびしい現実”が描かれています。

本作でも、敗戦後にアメリカの占領下にありながら、前述の“戦果アギヤー”の物資によって、地元の人々の生活が潤っていたという部分が表現されています。もちろん、生活に有用であったのは事実でしょうが、「強大な占領軍に一矢(いっし)むくいてやった」という、意趣返しの一面もあったのは間違いないでしょう。

3時間11分という長尺の本作は、舞台が沖縄に限定されながらも、アメリカ占領下からの沖縄返還(本土復帰)に至る20年間を描くにあたり、前々回の作品「雪風 YUKIKAZE」と同様、歴史的経緯に創作を巧みに折り込んだ構成となっています。

原作小説を著した真藤順丈(じゅんじょう)が、「沖縄の“真実”が原作といえる」(パンフレットより)と語るように、本気で作品化したら、とても1本の小説や映画では収まらないボリュームとなるのは明らかですので、本作も“実録作品”ではなく“物語としての沖縄史”というとらえ方が適切ではないでしょうか。

とくに、作品のクライマックスにあたる騒乱シーン(1970年12月20日未明に発生した「コザ暴動」)は、人々の熱量が伝わってくる、ダイナミックな仕上がりとなっており、「統治してきたアメリカへの不満と鬱屈、が一気に、発火したもの」だと、当時を知る沖縄出身の人物に伺ったことを想起させられました。

グスク役の妻夫木聡は、この騒乱についてこう語ります。
「参加した人それぞれに違う感情が小さなともしびとなって燃え上がる。完成した映像を見て、『俺たちはここにいる。生きている』っていう存在証明の叫びだと感じた」

監督・脚本(共同)の大友啓史は、
「戦争が遠い時代のものになってしまった今、戦争の残酷さよりも、その後の人々の暮らしに戦争がどんな影響を与えるのかを、登場人物の心情を中心に描いた方が我々には想像しやすいのではないかと思った」(いずれも2025年9月12日付読売新聞夕刊)

沖縄一帯が直接、戦火にさらされたのは1年に満たない期間ですが、その被害は両軍の将兵だけでなく、沖縄県民を巻き込んだ凄惨なものでした。

本作は良質なエンターティメントですが、その一方で「戦いが終わったからといって、すべてが解決されるわけではない」という、現実を直視する作品という一面をもつ、多面的な作品となっていると強く感じました。次回は「沈黙の艦隊 北極海大海戦」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。