スタントマン中心ながらも全員で仕上げた「フォールガイ」(401)

【ケイシーの映画冗報=2024年8月29日】本作「フォールガイ」(The Fall Guy、2024年)で、優秀なスタントマン(フォールガイ)のコルト・シーバーズ(演じるのはライアン・ゴズリング=Ryan Gosling)は、大スターであるトム・ライダー(演じるのはアーロン・テイラー-ジョンソン=Aaron Taylor-Johnson)のスタント・ダブルとして撮影中、大事故に遭遇します。

8月16日から一般公開されている「フォールガイ」((C)2023 UNIVERSAL STUDIOS.ALL Rights Reserved.)。制作費は1億3000万ドル(1ドル=150円で約195億円)から1億4000万ドル(約210億円)、世界の興行収入が29億ドル(約4350億円、8月21日現在)。

絶望したコルトは撮影現場のスタッフだった恋人のジョディ(演じるのはエミリー・ブラント=Emily Blunt)とも別れ、傷が癒えたいまも、過去と決別した生活を送っていました。

そんなコルトに現場への復帰話が飛び込みます。大作映画の監督に抜擢されたジョディが、コルトのスタントを希望しているというのです。

少々悩みながらも、ロケ地のオーストラリアに飛ぶコルト。なじみのスタント仲間やジョディと再会、スタント・シーンをこなしていくコルトでしたが、映画のプロデューサーであるゲイル(演じるのはハンナ・ワディンガム=Hannah Waddingham)から難題を押しつけられます。

じつは主演のトム・ライダーが失踪し、このままだと作品が成立しなくなるというのです。「スタント・ダブルなら、よく知るトムを探せるはず」という流れで人探しをするコルトでしたが、やがで殺人事件に巻き込まれてしまうことに。犯人と疑われるコルトですが、かつての恋人ジョディの作品を完成させることができるのか。

「フォールガイ」は1981年から5シーズン(日本では2シーズン)が製作されたアメリカのテレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」(THE FALL GUY)を映画にリメイクした作品となっており、主人公の名前が踏襲されていますが、テレビ版ではスタントより“賞金稼ぎ”に比重が置かれていました。

アメリカではダブル・ワーク、トリプル・ワークが一般的で、日中と夜間では違う職種というのもめずらしくありません。場所によってはパートや、ボランティアの警察官がいるぐらいで、公務員でも副業が可能です。ハリウッドの市街には、将来のスターを夢見て、アルバイトする人々も少なくありません。というよりほとんどがそうした若者(壮年も?)たちです。

主役がスタントマンということで、映画撮影のシーンもあることで、製作した20世紀フォックスに関連した映画スターが姿を見せるのが印象的でした。テレビ番組でも、ハリウッド・スターが撮影所にいるのは不自然さがなく、話題性という意味では、よいアイディアでした。

本作は製作・監督のデヴィッド・リーチ(David Leitch)が、スタント出身ということもあってか、スタントのほうに重心が置かれていると感じました。
「長年スタントパフォーマーとして活動してきた私にとって、この映画を世に送りだすことはとても大切なことなんだ。(中略)コメディも、不条理も、ロマンスも、ドラマも、すべて現実の映画制作現場から取り入れたものだ」と語るリーチ監督については、コルト役のライアン・ゴズリングも高く評価しています。
「スタントマンである彼がスタント業界に関する映画を監督するという点も完璧だと思った」(いずれもパンフレットより)

そして、スタントマン役であっても、ゴズリングがすべてを演じたわけではありません。格闘シーンなどのスタントに2名、ハイフォール(落下)とドライビングにそれぞれ1名の合計4名にゴズリングを加えた5名で“コルト・シーバーズ”を演じているのです。

リーチ監督はスタント・チームにもしっかりと見せ場を用意しており、エンドロールにはその撮影風景が盛り込まれています。本作のスタントには、日本人の浅谷康(あさや・やすし)が参加しています。ハリウッドや日本での活動を経て、現在ではオーストラリアを中心としている浅谷が担当したのは、格闘シーンのデザインということで、リーチ監督について、こう語っています。
「スタントマンが何を欲しているかを理解してくれた。専用のリハーサルスタジオを確保してくれたし、時間が許せばそこに来て、直接コミュニケーションを取ってくれた」と良好な関係だったそうです。

作品については「面白おかしく脚色されているところもあるが、リアルな感じはある」とのことで、“映画的なディフルメ”があることを認めつつ、「アクション映画はスタントマンがいなければ作れない。世界的に職業として認められていく流れは、すごくいいことだと思う」(いずれも読売新聞2024年8月9日夕刊)とのことでした。

どこかが突出するのではなく、スタッフ・キャストの総体で、「全員で作品を仕上げる」のが重要ということを再認識しました。次回は、「ソウルの春」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。