スタローンがステイサムに「禅譲」した新「エクスペンダブルズ」(385)

【ケイシーの映画冗報=2024年1月18日】大金と引き換えに危険な任務に就く傭われ兵部隊「エクスペンダブルズ」は、消耗品と自称しながら、さまざまな任務で結果を出していました。本作「エクスペンダブルズ ニューブラッド」(Expend4bles、2023年)は第3次世界大戦を起こしかねない、核爆弾の起爆装置を奪還するという任務をCIAから受けたエクスペンダブルズですが、リーダーのバーニー(演じるのはシルヴェスター・スタローン=Sylvester Stallone)がその作戦中、撃墜された乗機と運命を共にします。

1月5日から一般公開されている「エクスペンダブルズ ニューブラッド」((C)2022 Ex4 Productions,Inc.)。

相棒のクリスマス(演じるのはジェイソン・ステイサム=Jason Statham)はバーニーを失ったことでチームを離れてしまい、残ったエクスペンダブルズのメンバーで任務を続行するのですが、敵の罠に落ち、核弾頭を積んだ巨大タンカーに幽閉されました。そのタンカーに単身、潜入するクリスマス。「仲間を見捨てず、バーニーの仇も討つ」という意気込みで戦いを挑んでいくのでした。

売れない映画俳優が、自分の脚本を映画化し、主演した「ロッキー」(Rocky、1976年)のヒットでアメリカン・ドリームを実現させたシルヴェスター・スタローン。1970年代、ベテランボクサーのロッキーが世界チャンピオンと対戦することで栄光をつかむ「ロッキー」シリーズ。

1980年代にベトナム帰還兵、ランボーが戦う「ランボー」(First Blood、1982年から2019年)シリーズと、多作される人気シリーズを得たスタローンでしたが、1990年代から2000年代にヒットはあるものの、シリーズ化まで成長する作品には恵まれませんでした。

そんなスタローンが、かつて共演したメンバーや他のアクション・スターを結集して制作した「エクスペンダブルズ」(The Expendables、2010年)は、2012年、2014年と続編が続き、スタローンは3つ目の人気主演シリーズの映画を生み出したのでした。

とはいえ、ハリウッドの第一線を走り続けてきたスタローンも77歳。「ランボー」は5作目の「ランボーラスト・ブラッド」(Rambo:Last Blood、2019年)が完結編というイメージを強く打ち出していて、「ロッキー」もロッキーのライバルだったアポロの息子を主軸とした「クリード」(Creed、2015年)シリーズでは、最新の3作目である「クリード過去の逆襲」(CreedⅢ、2023年)で製作のみの参加と、出演からはフェードアウトしつつあるようです。

シリーズ作品の特徴として「続編タイトルがコンスタントに具現化しない」という要素があります。大きな利益を見込めるとわかっていても、さまざまな要因で完成にはたどり着けないのです。

「重要なキャラクターを演じた役者のスケジュールが合わず、撮影ができない」キャストだけでなく「監督や脚本家が多忙になった」、あるいは「作品観の違いや方向性でのいさかい」や「個人間の軋轢」というのもあります。負傷や病気といったアクシデント、あるいは獄中(実際にエクスペンダブルズのキャストには、収監中のため降板したメンバーが存在します)といった状況もあるでしょう。

本作も人気シリーズの4作目ということで、企画そのものは存在したのでしょうが、完成するまでに前作から10年近くの時間が経っています。

想像なのですが、これはシリーズの生みの親ともいえるスタローンが、「ベストな締めくくり」を求めて、前記のような事情も含めて、時間を要したのではないでしょうか。また、コロナウィルスの猛威が、海外ロケやキャストのスケジュールに影響を与えたことも考えられます。

こうした状況からか、本作で事実上の主役はクリスマス役のジェイソン・ステイサムであり、スタローンは助演の立場ですが、さすがにその存在感と貫祿は、スーパースターを感じさせるものとなっています。

そのポジションをステイサムは踏襲できるのか、あるとしたら今後の作品も気になるというのが実感です。なお、スタローンは「ランボー 最後の戦場」(Rambo、2008年)でのインタビューでは、こう語っていました。

「『トランスポーター』のヘナチョコ・ハゲをシメてやろうかな(笑)」(雑誌「映画秘宝」2008年5月号)と明記はされていませんがステイサムを俎上に載せています。ところがこの時点で主演が予定されていた「メカニック」(The Mechanic、1972年)のリメイクはステイサムの主演で完成し、自分用に脚本を仕上げた「バトルフロント」(Homefront、2013年)では、主役をステイサムにゆずっています。いわゆる“愛あるイジリ”のコメントだったではないでしょうか。以前からステイサムの力量を認めた上でのスタローンによる“禅譲”が本作のポイントかもしれません。

次回は「ゴールデンカムイ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。