45年間も監督の好奇心から創られ続けた新「マッドマックス」(395)

【ケイシーの映画冗報=2024年6月6日】1979年、オーストラリアで1本の映画が生まれました。医大出身という異色の経歴を持つジョージ・ミラー(George Miller)の監督・脚本による「マッドマックス」(Mad Max)です。

5月31日から一般公開されている「マッドマックス フュリオサ」((C)2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.)。

オーストラリアの広大な大地に犯罪が多発している近未来。凶悪な暴走集団に家族を奪われた警官マックス(演じたのはメル・ギブソン=Mel Gibson)が、超法規的な復讐をなしとげるという、シンプルなストーリーでしたが、赤茶けた大地を疾走する大型バイクや、改造車両の発揮するスピード感は刺激に満ちており、主演したギブソン自身も、撮影時は演劇学の学生だったという、粗削りでもフレッシュなキャスト、そしてミラー監督の巧みな映像センス(スローモーションからコマ落としの高速撮影まで)が合致した魅力的な作品として、日本だけでなく、世界的なヒットとなりました。

1981年の続編「マッドマックス2」(Mad Max2)では、わずかな石油を求めての激しい闘争を、前作をはるかに超えるスケールで仕上がり、早期に仕上げられた2作目というハンディもクリアして前作を超える大ヒットとなり、ミラー監督やマックス役のギブスンは、世界的な映画人へと羽ばたいていきました。

さらに、さまざまジャンルの作品に“文明を喪失した砂漠地帯で異形な破壊者が暴力のかぎりをつくす”や“修理と放浪によって原型をとどめない姿となった改造車”といった映像表現のアイコンも生み出したのです。

2015年には4作目の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(Mad Max: Fury Road)が公開されました。マックス役は変更となりましたが、監督・脚本(共同)のジョージ・ミラーのスピード感のあるはげしいアクションも、呵責ない暴力シーンも健在で、大ヒットします。

この作品で、敵方を裏切って主人公マックスと行動を共にする、隻腕の女性戦士フュリオサをメインに据えたのが本作「マッドマックス:フュリオサ」(2024年、Furiosa:A Mad Max Saga)です。暴力に支配された世界、豊かな自然の残る“緑の地”で暮らす10歳の少女フュリオサ(演じるのはアリーラ・ブラウン=Alyla Browne)は、武装バイク集団“バイカー・ボード”に襲われ、母を殺され、自身も囚われます。

リーダーのディメンタス将軍(演じるのはクリス・ヘムズワース=Chris Hemsworth)のもとで成長したフュリオサ(演じるのはアニャ・テイラー=ジョイ=Anya Taylor-Joy)は、ディメンタスのもとを離れ、水を豊富にもつ“要塞(シタデル)”の支配者であるイモータン・ジョー(演じるのはラッキー・ヒューム=Lachy Hulme)のもとにひとりの戦士としてもぐり込み、復讐を遂げるために雌伏します。

水源地の“要塞”、製油プラントである“ガスタウン、兵器工場の“弾薬畑(バレット・ファーム)”が物資を供給するという、ある種の三角貿易によって、小競り合いを交えながらも、この“荒れはてた地”は安定していましたが、フュリオサがその調和を乱れさせてしまいます。彼女を支えるのは、亡くなる直前に母と交わした、最後の言葉でした。「何があろうと、どれだけ時間がかかろうとも、約束して。家に帰ると」。はたして彼女は母の願いを達成することができるのか。

ヒット作が誕生すると、その流れに沿った続編が構想され、シリーズ化がのぞまれるようになります。第1作をベースに構築することができれば理想ですが、スタッフ・キャストの環境の変化や、「続編には興味がない」といった意識、あるいは合意点に達することがかなわず、企画事態が自然消滅することも、まま、あります。

このシリーズでも前作「怒りのデスロード」では、企画から10年、作品化のスタートから4年間という歳月を要し、15年近い時間が経過したことから、前述のように主人公の配役が変わり、本作でも主役のフュリオサ役が変更されています。

そんななか、長編デビュー作(しかもミラー監督のオリジナル)がシリーズ化され、45年、1作目のエッセンスを残しながら、エネルギッシュな映画を生み出しているミラー監督には、畏敬の念すら感じるほどです。

「私が大切にしているのは“好奇心”です。私の場合は映像やビジュアルで表現をしていますが、一般的にストーリーを創り上げるということは、何千年という時間をかけても決して極めることはできません。ですが“好奇心”さえあれば、創り続けることが出来るのです」(「映画秘宝」2024年7月号)

映画にかぎらず、あらゆる世界のクリエイターに必須なのは、この要素ではないでしょうか。次回は、「Ike Boysイケボーイズ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「マッドマックス」(Mad Max)は、1979年に公開されたオーストラリアのアクション映画作品で、監督のジョージ・ミラーと主演を務めたメル・ギブソンの出世作品であり、後にシリーズ化された。特殊撮影や舞台設定など、国内外の多くの作品に影響を与えた。

第1作の製作費は35万豪州ドル(1980年の換算レートで1豪州ドル=258円で約9030万円)で、世界の興行収入が9975万米ドル(当時のアメリカドルが1ドル=226円で、約225億円)。

第2作は1981年に公開された「マッドマックス2」(Mad Max 2、アメリカ公開版タイトル:The Road Warrior)で、監督がジョージ・ミラー、主演がメル・ギブソン、第2作の製作費は400万豪州ドル(1980年の換算レートで約10億3200万円)で、世界の興行収入が2367万米ドル(当時の換算レートで約54億円)。

第3作が1985年公開の「マッドマックス/サンダードーム」(Mad Max Beyond Thunderdome)で、監督がジョージ・ミラーとジョージ・オギルヴィーの共同監督、主演がメル・ギブソンで、プロデューサーのバイロン・ケネディ(Byron Eric Kennedy、1949-1983)が急死し、ジョージ・ミラー、ダグ・ミッチェル、テリー・ヘイズが共同でプロデューサーを務めた。また、第3作からアメリカと豪州の共同制作となった。

制作費が1000万米ドル(1985年の1米ドル=239円で換算すると、約23億9000万円)で、興行収入がアメリカで3623万米ドル(約87億円)となっている。

第4作が2015年に公開された「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(Mad Max: Fury Road)で、ジョージ・ミラーが監督、プロデューサーはジョージ・ミラー、ダグ・ミッチェル、P・J・ヴォーテンが務め、トム・ハーディ(Tom Hardy)が主演のマックスを演じた。

制作費が1億5000万米ドル(2015年の1米ドル=120円で換算すると、約180億円)で、興行収入が世界で3億7584万米ドル(約451億円)となっている。

第5作が今回の「マッドマックス フュリオサ」で、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の前日譚で、シタデルの大隊長の女戦士フュリオサの若き日を描くスピンオフ映画となっている。ジョージ・ミラーが監督、プロデューサーはジョージ・ミラー、ダグ・ミッチェルが務めている。制作費は1億6800万米ドル(1ドル=140円換算で約235億2000万円)。