【銀座新聞ニュース=2024年8月24日】国内化粧品業界首位の資生堂(中央区銀座7-5-5、03-3572-5111)は8月27日から10月20日まで資生堂ギャラリー(中央区銀座8-8-3、東京銀座資生堂ビル、03-3572-3901)で十文字美信さんによる「空想の宙『静寂を叩く』大乗寺十三室|十文字美信」展を開く。
写真家の十文字美信(じゅうもんじ・びしん)さんが大乗寺(兵庫県美方郡香美町香住区森860)の客殿を撮り下した作品を、その特徴ある客殿空間を再構成した大型インスタレーションにより展示する。
大乗寺客殿は、江戸時代(1603年から1868年)に円山応挙(まるやま・おうきょ、1733-1795)とその一門によって描かれた障壁画による各部屋が世俗的な世界と神聖な世界とを仲介する一種の立体曼荼羅として知られている。建物中央に位置する仏間には、十一面観音像が設置され、仏間を囲む11の部屋と2階の2間の165面に及ぶ障壁画は、それぞれの部屋のストーリーと機能性を併せもつ連続的な空間性に卓越した特徴があるとされている。
大乗寺客殿の中でもっとも広い部屋が「松に孔雀図」の障壁画がある部屋で、十一面観音像のある仏間を開閉する襖には、円山応挙による松と孔雀がほぼ原寸大で描かれており、この障壁画を原寸以上のサイズでギャラリー空間に展開し、円山応挙の迫力あるリアリズムを伝えるとともに、人間味のあるブラシストローク(Brush Strokes)、時の経過とともに異次元映像が出現する深い没入感をもった十文字美信さんのまなざしを間近に体験できるとしている。
また、大乗寺客殿は、襖の開閉により次々と障壁画が変化し、描かれた世界がいくつものレイヤーで絵画の内側と部屋の外側の自然風景へとつながっていく総合的な芸術空間となっている。十文字美信さんは、すべての部屋を自然光で撮影し、絵画空間のわずかな気配や微妙な動きをとらえようとした。絵画の繋ぎ目が生み出す変化の豊かさや、襖が開かれて奥の部屋へと連続していく絵画的なイリュージョンが大乗寺客殿の芸術的魅力を解き放つとしている。
ウィキペディアなどによると、大乗寺は兵庫県美方郡香美町にある高野山真言宗の寺院で、寺伝によれば745(天平17)年に仏教僧の行基(ぎょうき、668-749)が自刻の聖観音を本尊として創建したと伝えられている。その後、戦乱を受け、寺勢は衰退するが、江戸時代後期の寛政年間(1789年から1800年)に当時の住職・密蔵上人(生没年不詳)らにより再興された。
密蔵上人は京都訪問の際に苦学中の円山応挙に銀三貫目を与えた。円山応挙は大成したのち、密蔵上人の恩に報いるため、呉春(ごしゅん、1752-1811)、長沢芦雪(ろせつ、1754-1799)、山本守礼(しゅれい、1751-1790)、秀雪亭(しゅう・せってい、1790-1820)、山口素絢(そけん、1759-1818)ら弟子12人とともに客殿襖絵・屏風などに取り組み多数の作品を残した。このうち、円山応挙筆の38面は1901(明治34)年、長沢芦雪筆の11面は1953年の指定で、その他は1969年に追加指定され、計165点が国の重要文化財に指定されている。
十文字美信さんは1947年神奈川県横浜市生まれ、1965年に神奈川県工業試験所デザイン研究室に入所、1967年に東京総合写真専門学校に入学するもまもなく2カ月で退学し、1969年に写真家の篠山紀信(1940-2024)の助手になり、1971年に24歳で独立し、デビュー作「untitled」(首無し) が写真界の天皇といわれた「カメラ毎日」の山岸章二(1928-1979)に認められ、1974年にニューヨーク近代美術館の「New Japanese Photography(ニュー・ジャパニーズ・フォトグラフィ)」展 に招待出品され、同年に東京アートディレクターズクラブADC賞(1975年、1976年、1985年も受賞、1986年にADC会員賞)を受賞した。
1976年に矢代眞理子さんと結婚し、1977年に日本写真協会新人賞を受賞し、1981年にインドシナ半島北部山岳地帯に暮らすヤオ族の村へ入り、撮影し、1987年に「澄み透った闇」を刊行し、1979年に第5回伊奈信男賞を受賞した。1989年に考案した3D撮影技法で特許を取得し、1991年に第10回土門拳賞、1993年に3D写真集「ポケットに仏像I、Ⅱ」を刊行、2004年に多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授(2014年に定年退職)、2008年に日本写真協会作家賞などを受賞している。2010年に自身がオーナーを務めるギャラリー「GALLERY B」を鎌倉に開館した。
9月7日16時から17時30分まで資生堂花椿ホール(中央区銀座7-5-5、資生堂銀座ビル3階)で十文字美信さんと美術史家、美術評論家で、東京藝術大学名誉教授の伊藤俊治(としはる)さんによるクロストーク「静寂を叩く-日本の美と場を巡って」を開く。定員は120人で、サイト(https://gallery.shiseido.com/jp/exhibition/event/?rt_pr=trq92)による事前申し込み制で先着順。
伊藤俊治さんは1953年秋田県生まれ、東京大学文学部美術史学科を卒業、同大学大学院人文科学研究科を修了(西洋美術史専攻)、多摩美術大学教授を経て2002年から東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授(2021年3月定年)、現在、東京藝術大学名誉教授のほか、多摩美術大学客員教授、京都芸術大学大学院教授。1987年に「ジオラマ論」によりサントリー学芸賞を受賞している。
開場時間は11時から19時(日曜日、祝日は18時)。月曜日は休み。入場は無料。7日のトークも無料。