【ケイシーの映画冗報=2025年1月2日】明けましておめでとうございます。本年も楽しく映画の紹介をさせていただきます。「ロード・オブ・ザ・リング(The Lord of the Rings。以下LOTR)/ローハンの戦い」(The Lord of the Rings=以下LOTR:The War of the Rohirrim)は、世界的ベストセラー「指輪物語」の本編で、作者であるJ・R・R・トールキン(J.R.R.Tolkien、1892-1973)がさらりと触れた一部をふくらませたアニメーション作品です。
ローハンの王都エドラスで、この地を統べるヘルム王(声は市村正親、英語版はブライアン・コックス=Brian Cox)のもとへ、領主のフレカが、自身の息子ウルフ(声は津田健次郎、英語版はルーク・パスクァリーノ=Luke Pasqualino)とヘルム王のひとり娘であるヘラ(声は小芝風花=こしばふうか、英語版はガイア・ワイズ=Gaia Weiss)との縁談を持ちかけます。
唐突な申し出にヘルム王は拳での“決闘”で応じますが、フレカは打ち所が悪く息を引き取ってしまいます。目の前で父を殺したヘルム王に深い憎しみを抱いたまま、ウルフはローハンの地から姿を消すのでした。
やがて、ローハンの地に侵略の手は伸びてきます。攻めてきたのはウルフの率いる軍勢でした。ヘルム王は部下を率いて迎え撃ちますが、裏切りにあって自軍は崩壊し、2人の息子を喪い、自身も深手を負ってしまいます。
生き残ったヘルム王の血縁として、一族を率いるヘラ。彼女は防御に適した山奥の角笛城に立てこもり、ウルフの軍勢と対峙します。父の仇であるヘルム王を討つことに執着するウルフは、ついに強引な城攻めを決断します。はたしてヘラは一族を守り抜くことができるのか。
1954年から翌年にかけて出版された「LOTR」は、ファンタジー小説の古典でありながら、完成された世界観で読者を魅了しました。民族や種族の異なるもの同士の言語も、ていねいな下地が作られ(作者のトールキンは言語学も専門でした)、しっかりとした土台の上に構築されているのです。
ストーリーもさりながらその情景も壮大で、人間型の生物であるホビットやエルフ、本作にも登場する巨大なゾウのムキマル、数十メートルはある大鷲など、ファンタジーの要素もふんだんに取り込まれた世界を映像で再現することに、すくなくない映像作家が興味を持ちましたが、実写作品として成立させるには、新しい映像技術であるコンピュータによる作業は必須だったのです。
「LOTR3部作」(2001年から2003年)はアメリカのアカデミー賞にて合計30部門にノミネートされ、3作目の「王の帰還」(The Return of the King、2003年)は、主要11部門を受賞しています。これはアカデミー賞での最多の受賞数となっていますし、それまでは傍流あつかいであったSF、ファンタジーの映画にも、きちんと評価がなされるようになった結果の1つとなっています。
本作の最大のポイントは、日本のアニメ監督である神山(かみやま)健治に直接、オファーがもたらされたことでしょう。海外でこれまで「LOTR」の映画に参画してきたスタッフもおおくがそのまま、参加しています。「LOTR3部作」を監督したピーター・ジャクソン(Peter Jackson)は製作総指揮、脚本を担当したフィリッパ・ボウエン(Philippa Boyens)は、そのまま本作の脚本を担当しています。
評価の高いオリジナルのチームが中心となって、日本でのアニメ化を進めるという流れは、ややもすれば日本側のスタッフが“ただの下請け”的な立場になることが想像されますが、本作にそのような心配はなかったようです。
「実際、一緒に仕事をしてみると、神山監督のストーリーテリングに対しての挑戦の仕方はとにかく、ワクワクするものでした」とボウエンは語っており、神山監督も「自分で脚本を書いていないので、フィリッパ(・ボウエン)とはかなりディスカッションを繰り返しましたし、ストーリーボードは1人で全編描き上げました」(いずれもパンフレットより)。
神山監督によると、一番の難所は作画作業の進捗で、
「とにかくスケジュールが一番の難点だった。ゼロから描くと間に合わない部分をCGで補った」((2024年12月27日付読売新聞夕刊)。
当初の予定は2年間だったそうですが、最終的には2年8カ月で完成させています。こうした作風がメジャーになっていくのかは未知数ですが、映像作品を完成させるための手法が広がっていくことは、作品を成立させる要素が増えていくことでもあります。個人的には見事な仕上がりなので、日本と海外の合同製作について、あたらなアプローチが誕生したといえるでしょう。
次回は「ビーキーパー」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。
編集注:ウイキペディアによると、第1部の「ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間」は2001年12月19日に公開され、第2部の「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」は2002年12月18日に公開され、第3部「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」は2003年12月17日に公開された。興行収入は全世界で第1部が8億9769万ドル(当時のレート、1ドル=124円換算で約1113億円)、2部が9億4749万ドル(1ドル=124円換算で約1175億円)、第3部が11億4603万ドル(1ドル=123円換算で1410億円)で「スター・ウォーズ」オリジナル3部作、「ゴッドファーザー」3部作を超えて、世界でもっとも商業的に成功した3部作となった。
アメリカのアカデミー賞では、第3部が作品賞、監督賞、脚色賞、作曲賞、歌曲賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、音響賞、編集賞の11部門(ノミネートも11部門)を受賞した。これは「ベン・ハー」と「タイタニック」に並ぶ史上最多の受賞となった。また、ノミネートされた全部門での受賞としては、9部門受賞の「恋の手ほどき」と「ラストエンペラー」を破り新記録で、ファンタジー映画では初めての作品賞となった。なお、第1部はノミネートが13部門、受賞が4部門、第2部がノミネートが6部門、受賞が2部門だった。