【銀座新聞ニュース=2025年3月17日】国内百貨店業界売上高3位の日本橋高島屋S.C.(中央区日本橋2-4-1、03-3211-4111)は3月19日から4月7日まで本館6階美術画廊Xで内田あぐりさんによる「安里/積層(ASATO/LAMINATION)」を開く。
日本画家で武蔵野美術大学名誉教授の内田あぐりさんは、膠(にかわ)や和紙など伝統的な日本画材による描画にこだわりながら、原初から人間が背負うテーマを身体的なストロークで描きだす画家という。
高島屋によると、画面からイメージされるのは“存在を確かめるかのような傷”、そしてその痕跡を塞ぐようにコラージュを施し、あるいは縫い合わせる、破壊と再生行為の連鎖で、「それはまるで漠然とした、しかし確かにそこにある何かを、画布という依代(よりしろ、神霊が宿る対象物や場所を指す言葉)で感受するための儀式のよう」としている。
内田あぐりさんはこれまで一貫して人間やその人体フォルムのモチーフを中心に制作を続けてきたが、高島屋では「近年は河川や風景を題材にした作品も描くようになり、生命の循環や、より広い自然観から人間を俯瞰(ふかん)するステージ」に入ってきたという。
本展を象徴する幅約10メートルにおよぶ大作「安里ーASATO」は、沖縄県那覇市街を流れる川(安里川)にインスパイアされた作品で、直感的に選んだ特に変哲もないその二級河川は、「凄惨な歴史の目撃者」としている。「作品に立ち顕れるのは、時間、空間、異なる属性の人間や文化、感情が、様々に交錯し折り重なった堆積層」という。
本展ではこの「安里ーASATO」を中心に、内田あぐりさんの新作、近作によるタブローの中・小品やドローイングを展示する。その中で「柘榴(ザクロ)」の作品は、「画家自身の命名の由来にもなった自我に繋がるモチーフであり、また図らずも川の大作の隠喩としても機能」している。
ウイキペディアによると、安里川は川幅が狭く中流域で蛇行しているためしばしば洪水が発生している。特に1961年の台風では死者4人、全壊家屋67戸、半壊家屋186戸の被害があり、1965年の台風や1973年の台風でも氾濫して浸水被害が出ている。このため上流部に金城(きんじょう)ダムが建設され、支流の真嘉比川(まかびがわ)にも真嘉比遊水池が造られ、いずれも2001年に完成したが、2007年8月11日の集中豪雨でも氾濫しており、下流部の河川改修の必要性が指摘されている。
内田あぐりさんは1949年東京都港区生まれ、武蔵野美術大学造形学部日本画学科を卒業、1975年に同大学大学院を修了、修了制作品で優秀賞、同年に第2回創画展で創画会賞(1987年、1997年にも受賞)、1990年に神奈川県葉山町にアトリエを開く。1993年から武蔵野美術大学で教鞭を執り、同年に第12回山種美術館賞展で大賞、文化庁在外研修員としてフランスで研修している。
1999年に現代日本絵画の展望展でステーションギャラリー賞、2002年に第1回東山魁夷記念日経日本画大賞、2003年から2004年にかけて武蔵野美術大学在外研修員としてアメリカで研修、2019年に神奈川文化賞、2021年に第2回JAPA天心賞(公益財団法人美術文化振興協会主催)で大賞、2022年に地域文化功労者として文部科学大臣から表彰されている。
22日15時から内田あぐりさんと美術評論家で武蔵野美術大学名誉教授の高島直之さんが対談する。
開場時間は10時30分から19時30分(最終日は17時30分)。入場は無料。