【ケイシーの映画冗報=2025年2月27日】「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」(2025年、Captain America: Brave New World)は「キャプテン・アメリカ」シリーズ4作目となります。

2月14日から一般公開されている「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」((C)2025 MARVEL.)。制作費は1億8000万ドル(1ドル=150円換算で約270億円)で、シネマトゥデイによると、2月23日までの世界の興行収入が2億8954万ドル(約434億円)。
初代の「キャプテン・アメリカ」から名前と、“正義の象徴とされる盾”を受け継ぎ、ヒーロー“ファルコン”から新たな「キャプテン・アメリカ」となったサム(演じるのはアンソニー・マッキー=Anthony Mackie)は、新しい相棒の2代目“フャルコン”であるホアキン(演じるのはダニー・ラミレス=Danny Ramirez)とともに、悪の組織が隠し持つ秘密物資を探していました。
その任務のさなか、軍の将軍からアメリカ大統領となったロス(演じるのはハリソン・フォード=Harrison Ford)から、世界を守るヒーローチーム「アベンジャーズ」の再結成を持ちかけられます。インド洋に出現した異世界の強力な物質をめぐって各国が緊張を高めており、新たな危機が想定されているためでした。
軍人であったころのロスとは、幾度となく対立してきた経験から、その提案をいぶかしむサムでしたが、歩み寄ることを決意します。その大統領が、サムやホアキンの目の前で襲撃されます。犯人の一人がサムの旧友であったことから彼自身も疑われることになります。さらに、サムの追い求める秘密物資と、大統領への銃撃事件がつながりをみせてきます。ロス大統領は自分の体に重大な秘密を隠しており、それを知る人物によって、世界的な陰謀に加担していたのでした。
アメリカン・コミックであるマーベル・ブランドの映像作品のシリーズである「マーベル・シネマティック・ユニバース」が、世界でもっとも成功した映画フランチャイズであることに異論はないでしょう。
2008年のスタートから、本作で34本目という長期の映画シリーズは、ネット配信やテレビドラマ、アニメなどでも広く展開されており、各作品が連携しつつ、すべてがひとつの世界(ユニバース)を成しているという、遠大なシリーズとなっています。
登場するヒーローも、大富豪で天才、自分の設計した強化スーツで戦うトニー・スターク(「アイアンマン」シリーズ)や、自身の実験ミスによって、怒りによって巨人に変身するブルース・バナー(「ハルク」シリーズ)、そして神話界の神様である雷神ソー(「マイティ・ソー」シリーズ)といった個性豊かなキャラクター群のなかで、初代の“キャプテン・アメリカ”は文字通り、ヒーローたちのリーダーとして活躍していました。
その名を受け継いだサムの“キャプテン・アメリカ”としての初の映画作品となった本作では、異世界からもたらされた“強力な新物質”をめぐって、世界各国が猜疑心にとらわれ、そこを突かれることによって大きな戦争(日本対アメリカ!?)が勃発する危機に直面するという事態が起ります。
また、昨年7月に大統領候補(当時)のトランプ(Donald John Trump、1946年6月生まれ)が狙撃されるという事件もあり、ところどころに現実的な部分が見受けられます。もちろん、本作の企画はこの事件の数年前から動いており、便乗といったものではなく、作劇過程での偶然の一致であるというのが、真相でしょう。
共同脚本のダラン・ムッソン(Dalan Musson)はこうコメントしています。
「まず作家陣とマーベルの名誉のために言っておきますが、その時の世相についての話になっているのはまぐれじゃないんですよ。(中略)自然とこのアメリカという国の状況を語るものとして自分の視点が反映されたのだと思います」
おなじ共同脚本のマルコム・スペルマン(Malcolm Spellman)は、本作に本質についてこう述べています。
「この映画では誰にでも伝わるテーマを考え、例えばリーダーシップを取ることや、新しい役割を任されることについての話としました」(いずれもパンフレットより)
各国の対立や、アメリカ大統領(現実には候補でしたが)への銃撃など、ここ数年の世界情勢が挿入されているのは確かですが、その描き方は現実とはことなっています。
新任であるロス大統領は、軍人時代のヒゲを落とし、健康を意識するようになっています。演じる俳優は異なりますが、初登場のロス将軍は葉巻を片手に、強いアルコールを楽しんでいましたが、本作ではそれらと決別しています。新しい“キャプテン・アメリカ”であるサムも、人体改造によって強靱な肉体を持っていた初代と比して、鍛えていても常人である自分の存在に疑問を抱いています。
最終的には対決する両者ですが、与えられた立場に対応するため、それぞれが葛藤を抱えていたのです。大国の最高権力者や、スーパーヒーローであっても、人間としての弱点を描くことで、単なる勧善懲悪ではない、多面的な仕上がりの映像作品といえるでしょう。
次回は「フライト・リスク」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。
編集注:ウイキペディアによると、「マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe)」は「マーベル・コミック」を原作としたスーパーヒーローの実写映画化作品を、同一の世界観のクロスオーバー作品として扱う作品群をいう。マーベル・スタジオが制作するシェアード・ユニバース作品で、現在では短編映画、テレビシリーズなどに拡大している。
MCU初の公開作品は2008年の「アイアンマン」で、時系列のまとまりである「フェーズ」の第1段階をスタートさせ、この「フェーズ1」は2012年公開の「アベンジャーズ」でピークに達する(全部で6点)。
「フェーズ2」は2013年の「アイアンマン3」から始まり、2015年の「アントマン」で終了する(全部で6点)。「フェーズ3」は2016年の「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で始まり、2019年の「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」で終了する(全部で11点)。これらのフェーズ1から3の23作品をまとめて「インフィニティ・サーガ」と呼ぶ。
世界でもっとも大きな興行的成功を収めている映画シリーズであり、2位の「スター・ウォーズ」シリーズに大差をつけ、世界歴代1位の興行収入を記録している。
フェーズ4は2021年1月配信の「ワンダヴィジョン」から2022年11月配信の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル」までの映画7作品、ドラマ7作品、アニメ2作品の計16作で構成されている。フェーズ4以降から、フェーズ5(2023年2月から2025年5月の「サンダーボルツ」で、「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」もそのひとつ)、フェーズ6(2025年7月からの「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」から2027年5月に公開される「Avengers: Secret Wars」までの4作品)で構成される物語は「マルチバース・サーガ」と名づけられている。ただし、フェーズ6としては、タイトルは不明だが、2026年2月13日、11月6日公開予定の作品も発表されている。